シンガポール人にお財布は不要だけど必要? ~キャッシュレスの現状~ | リサーチ・市場調査・マーケティング

グローバルコラム
2018/6/5

シンガポール人にお財布は不要だけど必要? ~キャッシュレスの現状~

シンガポール人にお財布は不要だけど必要? ~キャッシュレスの現状~

 シンガポールでは、国の未来を創造するためのデジタルテクノロジー活用推進の一環として、政府主導でスマートネーション構想に取り組んでいます。このスマートネーション構想の柱の一つには、“Towards a Smart Cashless Society with Contactless Payment“(非接触型ペイメントを活用したスマートキャッシュレス社会の実現)があります。

 シンガポールで使える非接触型ペイメントサービスは、NETS、EZ-Link、Apple Pay、Samsung Pay、GrabPay、Android Pay、Pay Now、Alipay、Visa payWave、MasterCard PayPassなど数多くあります。しかしながら、シンガポールは、キャッシュレス化で先頭を走るスウェーデンなどに比べるとまだ遅れをとっており、アジアの中で中国などと比較しても、キャッシュレスが浸透していないと言われています。

 これは、真実なのでしょうか。自分に対して厳しいと言われるシンガポール人のことです。現金払いの呪縛からなかなか抜け出せないでいることを憂いているだけかもしれません。そう考えた私は、シンガポールにおけるキャッシュレス化の実態を調べるため、ある実験をすることにしました。

 その実験とは、完全なるキャッシュレス生活を送るというものです。さらに言えば、キャッシュレスと同時にカードレスに挑戦し、財布を一切出さずにiPhoneのApple Payで支払いを済ませることができるか調べました。

 

 結論から言うと、実験を行った25日間で財布が必要になることは一度もありませんでした。レストランでの食事や帰りのタクシー、スーパーでの食料品の買い物、食事のデリバリー、家賃、公共交通機関の運賃、アミューズメントパークのアトラクション、公共料金などなど、あらゆる支払いをスマートフォンで済ませることができました。実験期間中、頻繁にスマートフォンだけを持って外出しましたが、現金とカードがなくても、外出先での食事や買い物などに困ることは全くありませんでした。

 唯一苦労したのは、市場の屋台での支払いでした。スマートフォンで支払いをすることに対して好意的な屋台は限られていました。しかし、これは設備がないからではなく、テクノロジーを利用することに対して屋台の店主が慎重なためです。

 この実験から、シンガポールでは、人々に認識されているよりも、はるかにキャッシュレス化が進んでいると私は結論づけました。

 キャッシュレス化が進んでいないように見えるのは、テクノロジーや設備の問題ではなく、新しいテクノロジーに対して正しい理解が進んでいないためではないでしょうか。タクシーの支払いでも、Apple Payを使おうとした時にドライバーに「携帯では払えませんよ」と言われたので、カードリーダーを借りてApple Payでの支払い方法を教えてあげるということがありました。そして、同様のことは頻繁に起こりました。

 シンガポールでは、テクノロジーの進化に人々の理解が追いついていないだけなのです。ですから、今の私たちに必要なのは、新しいテクノロジーを浸透させるためのコミュニケーションや教育です。共に享受できる“未来”が、実は目の前にあるのです。

 

Kadence International Business Research Pte.Ltd.(KIBR)※ Regional Insight Director Ravi Miglani

インド出身。中東、アフリカ、アジアの7ヵ国に在住し、25年間インド国外で暮らしている。KIBRの一員となる前は、リサーチとコンサルティング機能の両方を兼ね備えたFrost & SullivanのAPAC地域におけるCustomer Research事業を統括していた。自動車、ヘルスケア、通信、金融をはじめとした幅広い分野で、定量および定性調査に関する深い知見を持つ。
※シンガポールに拠点を置くKIBRは、株式会社クロス・マーケティンググループの子会社です。

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