伝え続けることで企業も社会も変えていくユニリーバ 【後編】SDGs時代に求められるのはパーパスを伝えること | リサーチ・市場調査・マーケティング

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2019/1/25

伝え続けることで企業も社会も変えていくユニリーバ 
【後編】SDGs時代に求められるのはパーパスを伝えること

伝え続けることで企業も社会も変えていくユニリーバ <br />【後編】SDGs時代に求められるのはパーパスを伝えること

SDGs先進企業と呼ばれるようになったユニリーバ。近年は消費者の意識も変化しはじめているという。変化する社会、消費者に合わせて、企業のマーケティング活動はどう対応するべきか。ユニリーバの活動には、一つの方向性が示されているのではないだろうか。
 

サステナビリティに関心のある消費者はすでに半数を越えている

堀:消費者調査をすると、フェアトレードや環境保護が大切だという意識は高まっていると感じます。一方で、その意識は生活には反映されておらず、ある種ファッション的な受け止められ方をしているような気もしています。

新名:店頭で手に取った製品が環境に良いものかどうか、パッケージの隅々まで見て買う人は少ないかもしれません。ですが、私たちが世界各地で行った調査では、環境や社会に良い製品を選びたいと考え、実際に購入している人が21%います。加えて33%の人が今は買っていなくても、今後は選びたいと考えています。合わせると50%以上の消費者がサステナビリティへの意識を持っていることになります。
また、ヨーロッパのほうがアジアより環境や社会に良い商品を選ぶ人が多いというイメージがあるかもしれませんが、それほど地域差はありませんでした。逆に、新興・途上国の人々の方が、大気汚染や水質汚染を「自分ごと」として考えているために意識が高いというデータが出ています。
以前はニッチな市場という意識が消費者にも、企業側にもあったと思いますが、もはやマスな市場と呼べるようになっていると考えています。その流れは、海外でも日本でも変わらないというのが私たちの考え方です。

堀:SDGsに貢献しようと思っても、いざ店頭で、どの製品を選べば良いのかわからないというケースもあります。

新名:まずは製品がどういった過程を経て店頭へ届いているのかという視点を持っていただければと思います。紅茶であれば、ケニアやインドネシアなどの農園で栽培され、選別され、加工やブレンドなどを経て店頭に届いています。どの製品を選ぶかで、関わっている人々の生活に影響を与えることができます。たとえば、リプトンのティーバッグシリーズでは、パッケージにレインフォレスト・アライアンス認証茶園の茶葉を使っていることを示すカエルのマークがついています。リプトンを選ぶことが、原産国の茶園で働く人々の生活水準の向上や、茶園周辺の環境保全につながるのです。
一方で、製品を使い、ごみとして出すまでの過程に目を向けることも大切です。たとえば、シャンプーのライフサイクルからのCO2排出量を見ると、約70%が製品使用時に排出されています。これはシャワーを使うときに多くのエネルギーが消費されるからです。そこで、ダヴなどのシャンプーのつめかえ用パッケージでは、シャワーの時間を1分減らすと環境に良いことを伝えています。パッケージという限られたスペースにもいろいろな情報が込められているので、ぜひ製品を選んだり、使ったりする際の参考にしていただきたいです。

堀:製品パッケージ以外にも何かコミュニケーションはされていますか。

新名:ユニリーバで最も歴史があり、サステナブルなブランドの一つとして知られているのは「ライフボーイ」という石鹸です。不衛生を原因とする病気から命を守りたいという思いで1880年代に誕生しました。
今ではアジアを中心に、殺菌成分を配合した石鹸として販売しているのですが、さまざまな施策を取り入れて普及を図っています。その一つは製品の形状です。インドのような国々では1日2ドル以下で生活をしている人も多く、通常私たちが見かける1個数百円の固形石鹸は買うことができません。そこで小分けにし、その分価格を抑えて販売しています。そうした地域では、そもそも石鹸の存在を知らない人や、石鹸で手を洗うとどんなメリットがあるのかを知らない人もいるので、学校や地域の女性たちと協力して衛生教育も行なっています。

 

社会的な意義を考えた社内外での取り組み

新名:「ダヴ」ブランドでは今、自己肯定感を高めるプロジェクトに力を入れています。ユニリーバでは、全てのブランドがパーパス(目的、存在意義)を持つべきだと考えています。ダヴの場合は、「あなたらしさが美しさ」をキーワードに、全ての女性が自分の美しさに気づくきっかけをつくっていくことをパーパスとしています。その取り組みの一環で制作したのが動画「リアルビューティースケッチ」です。
堀さん、日本の10代の女性に「自分が美しいと思っているか」と聞いたときに、「そう思う」と回答する割合はどれくらいかわかりますか。

堀:低そうなイメージはありますが、それでも20%くらいはいるのではないでしょうか。

新名:実は7%しかいないのです。これは世界でも最低の水準になっています。自分のことをキレイだ、かわいいと思えないことだけでも悲しい事実ですが、それが原因で起きる問題もあります。調査によると、若い女性の90%が自分の容姿を変えたいと考えています。無理なダイエットや美容整形で健康を害してしまう方も少なくありません。さらに60%が容姿に自信がないために本当にやりたいことを諦めてしまっています。こうした事実は、社会的な損失だと考えています。

 

世界で最も自己肯定感が低いという日本の10 代女性に向けた動画「ダヴ リアルビューティー ID」

「リアルビューティースケッチ」の動画では、FBIの似顔絵捜査官に、姿を見ず、証言だけを頼りに女性の似顔絵を描いてもらいました。女性が自分で語る特徴を元に描いた似顔絵よりも、他人の証言を元に描いた似顔絵の方が美しく仕上がるという実験結果を通じて、「あなたは自分が思っているよりも美しい」というメッセージを発信しています。この動画は世界で最も視聴されたブランド動画として認定されました。
日本では、ガールスカウト日本連盟と協力して女性の自己肯定感を高めるワークショップも展開しています。ワークショップは心理学者の監修のもと開発したもので、自己肯定感が高まる効果があることが実証されています。こうした活動を通じて、女性がより自分らしく活躍できるよう応援していきたいと考えています。

堀:さまざまな面でシームレスになってきていると思いますが、仕事や家事、育児への取り組みなどの男女差についてはその速度が遅いようにも感じました。

新名:意識は少しずつ変わっているとはいえ、日本では未だに仕事は男性が、家事育児は女性が主体となるべきというステレオタイプが根強く、実際に男性の育休取得や時短勤務にもバリアがあるように感じます。私たちは世界中でかなりの広告投資を行っていますが、ジェンダーに限らず、ステレオタイプを強調しないようなコミュニケーションを心がけています。たとえば、家族の食卓で女性だけが給仕する場面を描かないといったことです。

堀:育児中の時短勤務制度を取り入れている企業でも、時短勤務の人、時短ではない独身の人それぞれにストレスがあると言います。多様性を実現しようとしながら、軋轢が生まれてしまっている現状もあります。

新名:それは特定の人だけを対象として制度を作るからではないかと思います。近年話題になることが多いLGBTについても、セグメント化して対応を用意すると「優遇しすぎだ」という話がでてしまったりします。当社では「WAA(Work from Anywhere and Anytime)」という新しい働き方を2016年から取り入れています。平日6時から21時までの間なら、いつ、どこで働いても良いという制度です。工場などを除く全社員が対象で、理由を問わず、何度でも利用できます。子供が朝起きる前に自宅で仕事をする、時差通勤する、仕事を抜けて通院する、昼休みを長めにとってテニスをするなど、使い方はさまざまです。多くの社員に利用され、制度に反対する声は上がっていません。

 

SDGsが実現されない世界ではビジネスも継続できない

堀:社会や社内で平等化が進むと、これまでは売る側と買う側という関係性にあった企業と消費者の関係も変わっていくのでしょうか。

新名:ソーシャルメディアが発達して、消費者の発信力も強くなっています。消費者が「この製品はオススメです」と発信することもできれば、「買わない」と言うこともできる。何を選び、誰にどこでどう伝えるのか、その役割が企業だけではなく、消費者一人ひとりにも広がっているように感じています。
私たちはこれまでも暮らしを清潔で美しくできるような製品、美味しい製品を届けたいと考えてきました。製品の選択肢と情報量が増え、差異化が難しくなっている今は、機能や品質、味、価格といった要素に加えて、パーパスという視点がますます重要になっていると感じます。
消費者は髪を洗う人、紅茶を飲む人である以前に、一人の「人」です。仕事をしたり、学校へ行ったり、遊んだり、笑ったり、泣いたりする生活の中に、髪を洗う時間や紅茶を飲む時間があるのです。ブランドを通して、いかにその「人」の人生を豊かにできるのかという視点が必要だと考えています。
その上でブランドのパーパスは何かを考え、ストーリーとして伝えています。これは、今のマーケティングにおける潮流の一つになっていると思います。

堀:SDGsへの取り組みもふまえて、ユニリーバさんは企業と消費者が共存しているという意識が高いのかなと感じます。まだまだその領域に達していない企業も多いのではないでしょうか。

新名:私たちは消費材を扱う企業なので、そもそもSDGsが達成されない世界ではビジネスが継続できません。水がなければシャンプーやコンディショナーを売ることはできませんし、貧困に苦しむ人に紅茶を買って飲んでいただくこともできません。私たちは「The SDGs need business and business needs the SDGs」と表現していますが、企業の存続にはSDGsの実現が必要であり、SDGsの実現には企業の力が必要なのです。
消費材を扱う企業ならどこでも同じことができると思います。他業界やB2Bの企業であっても、環境や社会、人との接点が一切ないはずはないので、そこにSDGsの視点を組み込むことはできるのではないでしょうか。

堀:パーパスを伝えるために、従来のコミュニケーションから変化はあったのでしょうか。

新名:製品機能の訴求をやめたわけではなく、機能とパーパスの両方を伝えています。テレビCMのわずかな時間では伝えられることが限られるので、ブランドサイトや動画サイト、SNSなどいくつものメディアを使い分けています。消費者がどこかで製品を目にし、もっと知りたいと思って検索したときに、ブランドの想いや取り組みがわかる、思わずシェアしたくなるような仕組みをつくっているということです。
パーパスがあるブランドであることは大事ですが、パーパスさえあれば良いわけではもちろんありません。ダヴであれば、まずは髪や肌でうるおいを感じていただくことが第一です。その上でパーパスも知っていただければ、ブランドへの愛着を感じていただくことができます。実際に、ダヴの自己肯定感を高めるワークショップなどの活動を知っている人は、ブランドへのロイヤリティが高く、友人に勧める割合も高いということが分かっています。パーパスを持つ企業、ブランドであることは、SDGsに貢献しながら、消費者との絆を作り、将来にわたって成長し続けていくための鍵なのです。

 

企業がSDGsに対してできる5つのこと

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 取材後記「インサイトスコープ」
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【自分ごととしての「SDGs」】
内容まで理解している社会人が5.9%、大学生11.0%とSDGsの理解はこれからです(下図参照)。しかし、社会人より大学生の方が多く理解している点にはこれからの新しい社会にも期待ができます。
今、ホームページでCSR、CSVのページにはSDGsへの取り組みを紹介している企業が多くなっています。もしかすると自社で取り組んでいることを知らない社員の方も多いのかも知れません。
SDGsを社会的な責任としてはなく、一個人の「自分ごと」として捉えていくために、企業においてもまずは社内から理解を深めていくことが大切ではないでしょうか。

【消費者と対話のための「SDGs」】
あらゆる製品がコモディティー化する中で差別化として自社のブランドの感動や体験をベースにしたストーリーが注目されていますが、生産側と消費者側の共通の課題としてSDGsを共に解決していくこともこれからは大切なコミュニケーションのひとつになるのではないでしょうか。
「ダヴ」ブランド、自己肯定感を高めるプロジェクトで取り組んでいるように「女性がより自分らしく活躍できるよう応援」することで企業と生活者が共に課題を解決しています。これからの新しい社会では社会課題を消費者と共に解決することにより対話が生まれ、その先の共感につながるのではないでしょうか。

~取材担当/堀 好伸(株式会社クロス・マーケティンググループ)~

 


■調査概要
「SDGsに関する調査」
調査機関  : クロス・マーケティング、宣伝会議、SDGs総研
調査手法  : インターネットリサーチ
調査地域  : 全国47都道府県
調査対象  : 18~69歳の男女
調査期間  : 2019年1月16日(水)~1月17日(木)
有効回答数 : 1,200サンプル

ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 アシスタント コミュニケーション マネジャー 新名 司

2004年入社。2009年から現職。企業広報全般を担当し、ユニリーバ・サステナブル・リビング・プランの日本市場への展開や、東日本大震災の被災地支援、再生可能エネルギーへの100%切替などに携わる。

株式会社クロス・マーケティンググループ マーケティング本部 プランニングディレクター 堀 好伸

生活者のインサイトを得るための共創コミュニティのデザイン・運営を主たる領域とする生活者と企業を結ぶファシリテーターとして活動。生活者からのインサイトを活用したアイディエーションを行い様々な企業の戦略マーケティング業務に携わる。「若者」や「シミュレーション消費」を主なテーマに社内外でセミナー講演の他、TV、新聞などメディアでも解説する。著書に「若者はなぜモノを買わないのか~シミュレーション消費という落とし穴」(青春出版社)。

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