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個食市場を切り拓いた「プチッと鍋」
第1回 「1個で1人前」のコンセプトにたどりつくまで
2016 / 10 / 07
エバラ食品工業は、2013年8月にポーション容器に1人分の鍋の素を詰めた鍋物調味料「プチッと鍋」を発売しました。当初は寄せ鍋、キムチ鍋、白湯鍋の3種類をラインナップし、翌年3月までに出荷ベースで9億円を売り上げ、鍋という季節商品としては大きなヒット商品になりました。
シリーズで27億円の売り上げに
エバラ食品工業は、2013年8月にポーション容器に1人分の鍋の素を詰めた鍋物調味料「プチッと鍋」を発売しました。当初は寄せ鍋、キムチ鍋、白湯鍋の3種類をラインナップし、翌年3月までに出荷ベースで9億円を売り上げ、鍋という季節商品としては大きなヒット商品になりました。以降、ラインナップの拡大や、昨年からはハンバーグやステーキソース、うどんの素などの調味料も加わりました。直近の16年3月期には「プチッと鍋」ブランドで25億円、「プチッと調味料」全体としては27億円を売り上げるまでに成長しています。
私たちは、「1個で1人前」をコンセプトとした「プチッと鍋」を発売したことで、従来鍋物調味料がターゲットとしていたファミリーだけではなく、単身世帯や2人世帯など世帯人数の減少に伴う「個食」という新しい市場を開拓できたと考えています。今回のコラムではこの「プチッと調味料」誕生のきっかけとなった「プチッと鍋」開発の過程や、プロモーションの狙いなどを紹介します。
「プチッと鍋」発売前の鍋物調味料市場は、継続して二桁成長を続けており、市場そのものは伸びている状況でした。シェアに関しては、当社が鍋物調味料と位置づけている、すき焼きのたれを含んだ形で見た場合、業界内ではトップを争う立場にあり、これは現在にいたるまで大きく変わってはいません。
鍋物調味料市場は、従来、寄せ鍋やちゃんこ鍋といったベーシックな和風の味付けの商品が主流となっていました。1999年に当社が「キムチ鍋の素」発売時にテレビCMを放送し、ベーシックな味付け以外の鍋の認知を高めたことで市場は大きく成長。その後、市場では2004年から10年ごろにかけては3〜4人で使い切れる量をレトルトパウチタイプの容器に入れた商品が発売されはじめ、カレー鍋やトマト鍋といった新しいトレンドも生まれました。それに合わせてパウチタイプが一気に市場を席巻しました。
当時、市場ではパウチタイプのブランドが売り上げを伸ばしているなか、当社がそれまで強みとしてきたボトルタイプの商品は苦戦している状況でした。さらに10年以降は、少子高齢化や、世帯当たりの人数減少や夫婦共働きの増加などの背景もあり、従来の家族を前提とした商品展開だけでは消費者のニーズに応えきれない状況がより顕著になりました。市場を席巻したパウチタイプは容量750mlの3〜4人分向けが主流で、1回分の使い切りという点が評価されていましたが、消費者をとりまく環境は、そうした商品だけでは対応できず、業界全体でも時代のニーズにあった新しい鍋物調味料の開発が求められていました。
当社も、全体としては好調な鍋物調味料市場にあって、ボトルタイプの商品が苦戦していたという危機感がありました。そこで、今後も市場で存在感を発揮するためには、単に既存のボトルタイプやパウチタイプのテコ入れだけではいけないと考え2012年春に、これからの食ニーズにフィットする「イノベーション鍋」を目指した新商品開発に着手しました。
調味料の不満を洗い出す
どうすればイノベーションを起こすことができるのか。私たちはまず、消費者がどんなことを考えて鍋を食べているのかを知るために、ターゲット層となる30代から50代までの主婦を対象にインターネット調査を行いました。この調査で、市販の鍋物調味料を使っている消費者が多くいることがわかったと同時に、商品に不満を感じている人も多くいることがわかりました。そこで出てきた不満としては、パウチタイプの商品が重たい、ある程度の人数が揃わないと食べられないというものなどがありました。また、家族が揃っても、お父さんはキムチ鍋が食べたいのに子どもが小さいので辛い物が食べられないから我慢して寄せ鍋を食べているなど、食卓を囲む家族の理由で食べたい味が食べられないというものもありました。
こうして明らかになった不満を並べ、その一つひとつの解消につながるアイデアを出していきました。スープが足りないという不満には、簡単に足せるようにするというものから、人数が揃わないならどうすればいいのかなど直接商品開発につながらないものも含め、一つひとつ考えていきました。最終的にアイデアをまとめ、消費者の不満を解消するためのキーワードとして出てきたのが「個食」でした。このキーワードをもとに、当社の「イノベーション鍋」の「1個で1人前」というコンセプトにたどりつきました。
次回は、ポーション型容器を選択した理由や、それにともなう開発上の苦労などを紹介します。