「RDIT 欧州の国民投票を的中!予測の驚くべき正確さ」【新しい時代のリサーチ】

新しい時代のリサーチ
2017/1/20

【新しい時代のリサーチ 第3回】
「RDIT 欧州の国民投票を的中!予測の驚くべき正確さ」

【新しい時代のリサーチ 第3回】<br>「RDIT 欧州の国民投票を的中!予測の驚くべき正確さ」

前回のコラムでは、RDIT(アールディット:Random Domain Intercept Technology)がどのように2016年11月の米国大統領選挙を正確に予測したのかをご紹介しました(【新しい時代のリサーチ 第2回】「正確な選挙予測を可能にしたRDITの方法論」。)

今回は、2016年6月に行われたイギリスのEU離脱の是非に関する国民投票(いわゆる「ブレグジット」)の世論調査についての研究者によるRDITの検証と同年12月に行われたイタリアでの国民投票の予測におけるRDITの成果についてご紹介します。

 

2016年6月:イギリス/EU離脱に関する国民投票(ブレグジット)

2016年6月23日に行われたイギリスのEU離脱・残留を問う国民投票では、離脱が51.9%、残留が48.1%という僅差で「離脱」が多数となり、残留派であったキャメロン元首相が退陣に追い込まれました。
今回の国民投票において、キャメロン元首相の率いるEU残留派のよりどころは「若年層」でした。若年層はEU残留を支持しているようでありながらも、最も投票への関心は低いと考えられる層であり、また通常の世論調査では最も回収が困難で予測しにくい層だといえます。

日本と同様にイギリスにおいても若年層の投票率は低く、政治への関心が低いことが課題となっています。政治への関心が低く投票しない層は、世論調査にもあまり協力しません。したがって通常の世論調査に回答する若年層は結果的に政治に関心が高い人に偏ったものとなります。このように政治に関心の高い人に偏った回収では、投票意向率が高くなります。そのため若年層の投票率を実際よりも高いものと予測してしまいます。
政治に無関心で投票しない層がどの程度いるのかが正確にわからなければ、全体としてどの程度の票が集まるのかの予測を誤ってしまうのです。

そのため、世論調査会社は政治への関心の低い若年層を世論調査に加えようと努力をし、また若年層は投票率が低いとみなすようウエイト付けをしていますが、どの程度のウエイト付けすれば実際に予測が改善するのかはっきりしないという課題があります。 このようなことから、RDITで政治に無関心な若年層をどの程度回収できるのかが今回のテーマでした。

若年層はEU残留派の支持が高いが投票率は低い、高年層はEU離脱派の支持が高いが投票率は高いという状況の中で結果を正確に予測するための鍵は、若年層の投票率をどのくらい正確に予測できるのかにかかっています。そのため世論調査が政治に無関心で投票しない若年層をどの程度回収できるかが非常に重要なのです。

 

世論調査の研究者によるRDITの検証

今回のRDITによる調査では、世論調査の研究者であるオックスフォード大学のジョナサン・メロン主任研究員、マンチェスター大学のクリストファー・プロッサー研究員によって分析が行われました。

RDITを使った調査は、2016年3月11日~6月9日の期間で実施されました。(回収数7444サンプル)
「調査結果によると、40歳以下の若年層では、61.6%の有権者がEU残留を支持する意向だった。イギリスには18~40歳が約1900万人いるが、もし全員が投票すれば、約440万票も残留派が離脱派を上回ることになる。しかしながら若年層の半数以上が(50.2%)が投票しない見込みであり、この非投票者を計算に入れると、残留派は220万票のリードにとどまる。投票率が高くEU離脱派に投票する高年層の投票と合わせたときに、どの程度のバランスになるのかを分析すると、調査結果は残留派にとって憂慮すべきものであることを示している。」とコメントしており、実際にその通りの結果(離脱派の勝利)となりました。

今回の調査では、対象を40歳以下の若年層に絞り、EU離脱・残留の国民投票のどちらを支持するのか、そして、どの程度投票をするのかを5段階評価で回答させています。前回のコラムでご紹介した米国大統領選の調査のような予測による質問ではありません。

またRDITの検証のために、BES : British Election Study(英国選挙研究)という2015年のイギリスの総選挙後に実施された調査とRDITと若年層の投票態度の比較をしています。BESとは、1964年から継続しているイギリスの政治的態度や行動を研究する社会科学研究の礎となってきた調査です。

BESでは、2015年5月7日に実施された英国議会の下院議員選挙の事後に面接調査を行いました。 調査実施期間 2015年5月8日~9月8日(回収率55.8%)

この面接調査は、300選挙区の600行政区の居住地からの無作為抽出による2987サンプル回収の代表性のある調査です。このBES面接調査は、政治に無関心な若年層も含めて若年層の政治意識や投票行動を正確に把握した調査と考えられています。 BES では、上記の面接調査と同時期に調査パネルを対象とするBESインターネット調査も行っています。

分析結果から、「RIWI社のRDITによる調査は、予想したよりもはるかにカバー率が高いものだった」とし、以下のように述べています。
「BESのインターネット調査パネルで実施された若年層の投票率は、2015年5月の結果による投票率のウェイト値の調整なしでは、すべての年齢にわたって高すぎるものだった。一方、RIWI社による調査の年齢と投票率は、BES面接調査に非常に近いものであった。このことは、RDITによる調査手法が、政治的に無関心な若年層を他の標準的な調査手法よりも自然に効果的に接していることを示している。」

「政治への無関心層に対する調査がますます困難になるとともに、世論調査会社はシングルソースの対象者に依存することから脱却する必要があるかもしれない。RIWI社のデータは、通常では回収できない対象者を見つけることができる大きなポテンシャルをもっている。」

このように非投票者層、通常の調査への非協力者層からの回答を得る能力を認めています。RDITを単体で利用するだけでなく、このような対象者のカバー率の高さを生かしてより正確な出現率や基準値をつかむことで、既存の他の調査手法のウエイト値の調整に利用するなどの新しい解決策を提供することが可能です。

 

2016年12月:イタリア/国民投票でのRDITの予測の驚くべき正確さ

2016年12月4日にイタリアでは国民投票が行われました。 政治の停滞を避けるために上院の権限を縮小すべく憲法改正の是非を問うたこの国民投票は否決が優勢となり、改憲派であったマッテオ・レンツィ首相(当時)が辞任する事態となりました。事前の世論調査でもレンツィ首相の劣勢は伝えられていましたが、最終的な投票結果は賛成40.89%、反対59.11%、投票率は65.47%でした。

他の世論調査の予測では、国民投票の勝敗は間違ってはいなかったものの、4%程度の得票差で改憲派がやや苦戦という程度の予測で、実際の投票結果ほどの大差で改憲派が敗れるとは予測できませんでした。
イタリアでのRDITによる調査では、デイリー・トラッキング(毎日継続的に回収する調査)で、「今回の憲法改正の国民投票では、あなたはどちらが勝つと思いますか。―賛成派、反対派」というように回答者本人の投票意向ではなく、予測による質問を行いました。 投票1週間前の11月28日時点では、賛成42%、反対58%(+/- 2%)で改憲派が敗れる(回答者3500名)とし、さらに12月4日の国民投票当日には、賛成41%、反対59%、得票差18%(+/- 1%)で改憲派が敗れる(回答者8257名)とぴたりと正確な数字を予測したのです。ここまで正確な数値を出した世論調査は他にはありませんでした。

RIWI社のCEO ニール・シーマン教授は、「従来の世論調査会社による1980年代の調査手法は、今日の不満を抱く有権者の声を無視している」と述べています。
また、「さらに検証が必要かもしれないが、一般的にRIWI社の調査対象者には、ペンシルベニア大学のフィリップ・テトロックが『超予測者(Superforecaster)』」と呼ぶような人たちが多く含まれているのではないかと考えている」とも述べています。
注)超予測者(スーパー・フォーキャスター)とは、一般の人の中に含まれているきわめて予測能力の高い人々のこと

RDITの手法では、一般の人々による集合知が計測できているのかもしれません。また、前述したイギリスのEU離脱を問う国民投票と同様に、RDITでは政治への無関心層まで偏りなく回収できるからこそ、このような正確さを実現できたといえます。
上記のような調査結果の精度を生かせば、世論調査だけでなく新たな経済指標や市場データの指標を作り、それを継続的にモニタリングすることも可能です。

2017年は、ヨーロッパでは、オランダの議会選挙、フランスの大統領選、そしてドイツの連邦議会選挙と、大きな選挙が控えています。RDITが次にどのような予測をするのか楽しみです。
RDITでは、世界のどの国でも、何カ国同時であっても1つのリサーチ・プラットフォームから実施できます。これからの世界を知りたいとき、RDITという新しい手法があることを思い出していただければ幸いです。

ここまでRDITを使った世論調査についてご紹介してきました。次回は、RDITの開発の経緯と今後のビジョンについてご紹介します。

 

参考

執筆者 (株)クロス・マーケティンググループ クロスラボ 研究員 岸田 典子 (きしだ のりこ)

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