第4回 ボイコットは快感か? ~「罰」としての利他性~【利他性マーケティング】

利他性マーケティング
2016/3/15

利他性マーケティング~第4回 ボイコットは快感か? ~「罰」としての利他性~

利他性マーケティング~第4回 ボイコットは快感か? ~「罰」としての利他性~

「利他性マーケティング」とは

利他性とは、自分がコストを負担して他者に利益を与える心理的傾向です。
近年、「振り込め詐欺」「やりがい搾取」など、利他性につけこんだ被害が後をたちません。
このような現象からも分かる通り、ヒトは思わず他者を助けてしまう非合理な側面を持っています。
ヒトの利他的な側面を洞察し、それに適応するマーケティング戦略を立案・ 実行する考え方が「利他性マーケティング」です。

 連載コラム「利他性マーケティング」の第4回目となる今回は、消費におけるボイコット(不買、 拒否、排斥)について取り上げてみたいと思います。ボイコットという消費者行動を利他性(altruism) の視点から眺めてみましょう。

利他的罰としてのボイコット

 ある集団(共同体、コミュニティなど)において、意識的にせよ非意識的にせよ了解されている規範や秩序からの逸脱が露呈した企業や商品がしばしばボイコットの対象となります。例えば、企業不祥事、ブラック企業問題、ならびに芸能人の不倫問題などのいわば「掟破り行為」に起因してボイコットが行われます。掟破り行為が何らかの倫理的基準に照らされボイコットの意思決定が下されるという意味において、ボイコットは倫理的消費(エシカル消費)であるともいえます(倫理的消費・エシカル消費については連載コラム第2回目をご参照ください)。

 ボイコットは掟破りを行った企業やその商品を単に黙殺するというレベルの行為であるだけでなく、不買運動への参加やインターネット上での攻撃的な批判の書き込みを行うなどの自らコストを負った上での排斥的な行為であるといえます。

 見方を変えれば、ボイコットは掟破りを行った対象(企業など)に対してある種の「罰」を与える行動であると捉えることができます。そこでボイコットがなぜ起こるのかについて示唆を与えてくれるのが「利他的罰(altruistic punishment)」の考え方です。

 連載コラム第1回目でもご紹介しましたが、利他的行動とは「自分がコスト(損失・犠牲)を負担して他者に利益を与える行動」のことをいいます。

 利他性の文脈で捉えると、利他的罰とは「自分がコスト(損失・犠牲)を負担し規範や秩序に反する行為をした者を罰することを通じて、集団全体の規範や秩序の維持に利益を与える行為」であるといえます。

 ボイコットそれ自体に他者や社会への貢献的な意図がなかったとしても、結果としては集団全体の規範や秩序を護持していることになりますし、その行為にはコストも発生していますので、ボイコットは利他的罰であると捉えることができそうです。コストというのは、金銭的なものに限らず、例えば様々な時間的な労力や周囲から変な目で見られたりするようなことも含みます。

利他的罰による規範の維持

 様々な心理学的実験によって、人には非協力的な相手に対してコストを負ってでも罰を与える傾向があることが確認されています。

 実験経済学の実験手法に「公共財ゲーム」というものがあります。 公共財ゲームとは、実験室に集められた複数の被験者に資金が与えられ、与えられた資金を使って仮想の公共財(道路や橋の建設など)に投資をさせるゲームです。被験者は、渡された資金を満額投資してもいいですし、一銭も投資しなくても構いません。

 公共財ゲームのルールは例えば以下のようなものです。渡された資金の中から4人の被験者が100円ずつ投資し(合計400円)、ある公共財(新しい道路)を作ることになったら、その道路はみんなで利用できることになりますので、その2倍の800円相当の価値が社会にもたらされると仮定します。新しい道路ができると、それにより移動の利便性など投資額以上(ここでは2倍)の価値が生まれるという仮定です。

 この800円分の価値はみんなが享受できる価値であるので社会的価値と呼べるでしょう。実験では、この社会的価値800円から投資金額400円の差分である400円を実験の開催者側が負担します。そして社会的価値800円は、被験者4人に均等配分されます(一人当たり200円を得る)。被験者は実際にここで獲得したお金を自宅に持ち帰ることが可能です。

 しかしそこには裏切りが起こりえます。例えば、自分だけが100円を投資し他の3人が投資をしなければ社会価値は200円になり、これを4人で分け合うことになります。そうなると一人当たり50円を得ることになりますが、100円を投資した自分だけが50円分損をしたことになります。

 この公共財ゲームを繰り返し行うと、最初は投資していた人も徐々に投資しなくなるといいます。他の人の裏切り行為を見越して、損をすることに回避的となるからです。

 そこで実験経済学者のフェアら(Fehr & Gächter 2002)は、公共財ゲームに罰の仕組みを取り入れた「罰あり公共財ゲーム」を実施しています。公共財ゲームを1回終えるごとに他者に罰を与えることができるルールを加えたのです。

 具体的には、被験者は自分の資金を使い、指名した相手のお金が没収されるという罰を与えることができます。没収されたお金は実験の開催者に回収されますので罰を与えた当人には金銭的メリットは生じていません。

 しかしここには連載コラム第1回目でもご紹介した「社会的ジレンマ」の問題が潜んでいます。利他的罰は自らコストを負担して他者に罰を与える行為ですから、できることなら他の人に利他的罰の役目を負ってもらいたいという気持ちが 沸き起こるのも当然です。

 誰かが利他的罰を行使してくれればその集団の構成員全体にメリットが返ってきますので、自分はコストを負担せずにタダ乗り(フリーライド)した方がエゴセントリックには合理的判断であるといえます。そうして、全員が他の人の利他的罰の行使を期待してタダ乗りをしていけば、ますます非倫理的な企業行為をのさばらせるという結果を招きます。このような利他的罰の文脈での社会的ジレンマはとりわけ「2次のジレンマ」と呼ばれています(Axelrod 1986)。

 利他的罰についての心理学的実験の知見から類推すると、効果的なボイコットを発生させることによって非倫理的な企業行為を抑制あるいは退場させることが可能となり、その結果、社会的規範や秩序を護持できる可能性が示唆されます。そのためには、2次のジレンマをいかにして乗り越えていけるかが戦略的な課題となるでしょう。

快感としてのボイコットの可能性

 それではなぜ人は利他的罰を行うのでしょうか。それに答えるヒントを提供してくれるのが神経科学的な知見です。ケルバンら(de Quervain et al. 2004)による「信頼ゲーム」という実験をみてみましょう。

 ケルバンらの実験は以下のような骨子となります。まず被験者XさんとYさん2名に対して資金を渡します。次に、XさんがYさんに幾ばくかのお金を渡すことを選ぶと、それが実験開催者によって何倍かにされてYさんにお金が渡されます。ここでYさんは得たお金の半額をXさんに返すかどうかの選択ができます。ちなみにXさんは、上記のフェアら(Fehr & Gächter 2002)の「罰あり公共財ゲーム」でみたような実験開催者にお金を払ってYさんを罰することができます(Yさんのお金が実験開催者によって減額されるという罰)。つまりXさんはYさんからの返報を期待して(信頼して)お金を渡したのにも関わらず返報がなかった場合、Yさんを罰することができるという次第です。

 このような実験の中で、XさんがYさんを罰した際(利他的罰が行われた際)の脳画像が撮影されました。この結果、脳の中の報酬系と呼ばれる神経系が活性化していました。報酬系とは、金銭が得られたり、食べ物を食べたりした時の快感を引き起こす神経系です。この結果から推察されるのは、罰を与える行為そのものが快感であるかもしれない点です。

 利他的罰の行使が快感をともなうということについて、連載コラム第1回目でご紹介した「進化心理学」的な視点から解釈をすると、集団内における規範や秩序の護持のために利他的罰を行使するということが人間の進化の過程で適応的だったといえます。つまり、結果として利他的罰を行使する傾向を持つことが生物としての生存に有利だったという見方です。

 消費の文脈においても、企業など売り手の非倫理的な行為に対して買い手が罰を与える行為(利他的罰)は、買い手に対して快感を生じさせていることが推察されます。進化心理学的な見方から利他的罰の快感が人間にプログラムされていると考えると、例えばインターネット的な空間において、非倫理的な行為者や企業へのバッシングが利他的罰の快感に駆動されて強烈に拡散するのは致し方ない作動なのだと思われます。

 企業など売り手側の不祥事が後を絶ちません。そこで、非倫理的な売り手を退場させ、サステナブル(持続可能)な社会を護持するためには、買い手側のボイコットの快感を増幅させる何らかの装置(システム)を構築するという方向性に解決策のヒントがあるのかもしれません。

参考文献

  • ・Axelrod,R. (1986)An evolutionary approach to norms. American Political Science Review, 80, 1095-1111.
  • ・deQuervain, D. J., Fischbacher, U., Treyer, V., Schellhammer, M., Schnyder, U.,Buck, A., & Fehr, E. (2004) The neural basis of altruistic punishment. Science, 305, 1254-1258.
  • ・Fehr E. & Gächter S. (2002) Altruistic punishment in humans. Nature, 415, 135-140.
執筆者 (株)クロス・マーケティンググループ クロスラボ 主席研究員 水師 裕 (すいし ゆたか)

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