第5回 社会貢献につながる消費は、どのように買い手に情報処理されるか?【利他性マーケティング】

利他性マーケティング
2016/4/1

利他性マーケティング~第5回 社会貢献につながる消費は、どのように買い手に情報処理されるか?

利他性マーケティング~第5回 社会貢献につながる消費は、どのように買い手に情報処理されるか?

「利他性マーケティング」とは

利他性とは、自分がコストを負担して他者に利益を与える心理的傾向です。
近年、「振り込め詐欺」「やりがい搾取」など、利他性につけこんだ被害が後をたちません。
このような現象からも分かる通り、ヒトは思わず他者を助けてしまう非合理な側面を持っています。
ヒトの利他的な側面を洞察し、それに適応するマーケティング戦略を立案・ 実行する考え方が「利他性マーケティング」です。

 連載コラム「利他性マーケティング」の第5回目となる今回は、ソーシャルグッドを消費者行動論という学問分野から眺めてみましょう。
 社会や環境に配慮された商品の提供やCSR(企業の社会的責任)活動など、企業のソーシャルグッド的(社会貢献的)な取り組みに対して「消費者はどのようにそれを認識し意思決定し行動するのか」という原初的な疑問をどのように捉えればいいのかについて考えていきます。

消費者行動を分析する包括的な視点

消費者行動論という学問分野では、【図1】のように消費者行動を3つの次元に分けその相互影響関係を捉えます(Blackwellet al. 2006)。その3つとは、情報処理プロセス、購買意思決定プロセス、環境&個人差要因です。

ブラックウェルらの消費者行動の包括モデル

【図1】 ブラックウェルらの消費者行動の包括モデル
出所:Blackwell, Miniard & Engel(2006)を元に筆者作成。

 【図1】における「情報処理プロセス」というのは、外部から受け取るさまざまな情報(刺激)が心の中でどのようなプロセスで処理されていくかの内的なプロセスのことをいいます。外部から取り込まれた情報が記憶内にある既存知識を用いて理解(解釈)され、受容されることで記憶内に保持されます。また消費者の情報処理能力には限界(制約)がありますので、受け取ったすべての情報に注意が払われて処理がなされる訳ではない点に留意しましょう。さらに既存知識を用いて情報を処理している以上、何らかの主観的なバイアス(色眼鏡)を持って消費者は情報を処理しているともいえるでしょう。

 次に「購買意思決定プロセス」とは、問題認識(ニーズ認知)からスタートして、情報探索を行い、購入予定の商品を比較・検討ののち購入し、それを使用し、廃棄するまでの一連の流れです(順番はこのとおり生起するとは限りませんが)。各段階において、情報処理プロセスや環境&個人差要因との間で影響関係が生じます。

 最後に「環境&個人差要因」とは、消費者個人を取り巻く環境からの影響要因(環境要因)と、個人によって異なる傾向を示す個人差要因のことをいいます。所属する家族の構成や社会階層といった環境要因や、価値観やライフスタイルといった個人差要因などは実務でもしばしば使われる視点なのではないでしょうか。

 このような包括的な俯瞰図を理解することのメリットとして、いったい今どの次元についての要素が問題となっているのかを整理整頓できるとともに、マーケティング実務などで問題点を実務者間で共有する場合にコミュニケーション効率が高まることなどが挙げられます。

ソーシャルグッドにも情報処理視点を

 ソーシャルグッド的・社会貢献的な購買行動は、倫理的(エシカル)消費やソーシャル消費といわれる概念で捉えられることが多いですが、これらの概念は、実務では【図1】でいうところの「環境&個人差要因」による分析が主に用いられていると思われます。例えば、「あなたは世の中や社会のために役に立ちたいと思いますか(5段階評価)」といった設問を通じ、社会や環境に対する価値観やライフスタイルの変数を測定しクラスター分析して、「○×※」クラスターの人は社会貢献的な購買行動をしづらいけれども、「▲□*」クラスターの人はしやすい傾向にある・・・などと結論づけることが多いわけです。その他にも、性年代別、世帯年収別、そのブランドが好きか嫌いか別(ブランド態度別)での傾向を分析するというのもこれに類する方法だとみなされます。

 このように「環境&個人差要因」の視点から、どのようなタイプの消費者がどの程度世の中に存在し、また社会貢献的な購買行動をする傾向があるのかといったアウトラインをつかむことはもちろん重要です。ところがそれだけでは十分とはいえません。例えばとても利他的な性格特性や価値観特性を持っている消費者のクラスターがあったとしましょう。しかしその消費者たちが、ある特定的な場面で、必ずしも社会貢献的な購買を行うとは限らないからです。

 そこで、重要な視点となるのが【図1】の向かって一番左側にある「情報処理プロセス」です。「情報処理プロセス」は、例えば具体的な商品や企業(活動)を目の前にしてその場で起こる心の動きと言い換えることができます。

 ある消費者がミネラルウォーターを店頭で選ぼうとしている状況を思い描いてみてください。機能的(容量や価格など)にはどの銘柄にも大きな違いが見当たらないとしましょう。このような状況はまさに情報処理による影響を大きく受けているといえます。

 例えば、「この商品には他の商品との違いはないが、この商品を作っている企業には他と比べて違いがある、それは○○だからだ」、というような情報処理が心のプロセスの中で働いている訳です。「この商品を作っている企業には他と比べて違いがある、それは○○だからだ」の部分は、既に知っている知識を自分の記憶から取り出して、商品選択の場面に適用して解釈していると捉えることができます。これが情報処理の働きです。

 もしもその商品銘柄を生産している企業のブランドイメージが他より少しでも差別的であったなら、その企業が生産しているミネラルウォーターが選ばれる可能性は高くなるでしょう。

 ソーシャルグッド的・社会貢献的な購買行動に引き付けて考えてみましょう。少なくはない消費者が持つブランド連想の中にその企業が森を保全する活動を長年実施しているという連想があり、そのような連想を想起させるトリガーとなる刺激が何らかのかたちで商品に表示されていたならば、その連想が「情報処理プロセス」の中で記憶から呼び出されて目の前の商品選択の判断に寄与するかもしれません。

 この例では以下のような点が重要な考慮点となるでしょう。(1)自社ブランド連想の中にソーシャルグッドな連想をターゲット顧客は保持しているのか、(2)連想を保持しているとして、それはなぜなのか、(3)それはどのようなタイプの連想なのか、(4)どのような店頭刺激を与えればそのような連想が記憶から呼び起こされるのか、(5)ソーシャルグッドな連想は他の機能的属性や感情的属性に関わる連想とどのような関係になっているのか。

 以上のような「情報処理プロセス」の視点は、ソーシャルグッド的・社会貢献的な購買行動の分析においても重要な視点ですが忘れられがちな視点であるともいえます。

情報処理のメカニズム

 「情報処理プロセス」をもう少しだけ理解するために、情報処理のメカニズムについて考えてみましょう。消費者の情報処理をメカニズムとして把握するために重要な視点となるのが記憶の二重貯蔵モデル(dual storagemodel)と呼ばれる考え方です(【図2】参照)。このモデルでは、感覚登録器(sensory store)作業記憶(working memory)長期記憶(long-term memory)という記憶構成体を中心にしたシステム構造として記憶を捉えています。

二重貯蔵モデル

【図2】 二重貯蔵モデル
出所:Atkinson & Shiffrin (1968)を元に筆者作成。

 まず初めに外部から取り入れた情報が五感(視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚)である感覚器官を経た後に、瞬間的に貯蔵される記憶が感覚登録器です。感覚登録器に瞬間的に貯蔵された情報に対して注意が向けられたもののみが、短期貯蔵庫(作業記憶)に送られ一時的に保持されます。さらに適切に処理された情報は、長期貯蔵庫の中に長期記憶として半永久的に貯蔵されていくのです。

 情報処理のプロセスは記銘(符号化)保持(貯蔵)想起(検索)という3つの段階から構成されます。【図2】の二重貯蔵モデルで示されている、感覚登録器から短期貯蔵庫(作業記憶)へ転送されるプロセスと短期貯蔵庫(作業記憶)から長期記憶へ転送されるプロセスが記銘(符号化)です。短期貯蔵庫(作業記憶)と長期記憶に情報が保持されている状態を保持(貯蔵)と呼びます。短期貯蔵庫(作業記憶)や長期記憶から情報を適宜引き出すことを想起(検索)と呼びます。消費者は受け取ったマーケティング刺激を記銘(符号化)、保持(貯蔵)、想起(検索)しながら出力(例えば購入)していると考える訳です。

 作業記憶の容量の限界はよくいわれるように7±2チャンク(項目)とされています(マジックナンバー7:短期的に記憶可能なのは5から9項目程度)。これを長期記憶に保持させるために必要なのがリハーサル(rehearsal)といわれるものです。対象を何度も繰り返し書いたり口ずさんだりするようなリハーサルや、対象についてじっくり考えるようなリハーサルがあります。そうしたリハーサルを通じて情報を記憶に保持させることができるのです。ブランド名を連呼したりそのブランドに関することを考えさせたりするような、リハーサル効果を狙ったマーケティングキャンペーンを皆様もよく目にするのではないでしょうか。

 ソーシャルグッド的・社会貢献的な購買行動を促進するマーケティングを考える上でも、いかにして自社のソーシャルグッド的・社会貢献的な情報を符号化、保持(貯蔵)、想起(検索)してもらうかというメカニズムの視点が非常に重要になります。

 例えば、商品のブランド差別化を目的にソーシャルグッドな連想を消費者の長期記憶に保持させたいとしましょう。この場合は、どのような伝え方、体験のさせ方が五感を介した感覚登録器に残りやすいのか、またどのようなリハーサルをさせることで記憶に保持させることができるのか、といった点が検討できるでしょう。

 また一方で、得られた情報は、既に長期記憶に保持されている情報が想起(検索)される中で(そのような既存情報が使われて)処理されます。この意味では、すでに商品がもっているソーシャルグッドと結びつきやすい連想が特定できていれば、よりうまく新しい情報が記憶に保持されるといえます。したがって、長期記憶に既にある連想がいかなるものかを事前に把握しておき、そのような既存連想を呼び起こす(想起・検索)ためにはどうすればよいかという検討も重要になるのです。

価値観やライフスタイル分類だけで終わらせない

 ソーシャルグッド的・社会貢献的な購買行動を把握する際においても、社会や環境に対する価値観やライフスタイルのような「環境&個人差要因」だけで分析するのではなく、上記のような情報処理の視点を組み合わせて考えてみることができます。

 【図1】の包括的モデルから整理をしてみると以下のような分析アプローチが可能です。どのような「購買意思決定プロセス」の段階が問題なのかを想定しつつ、上記のような情報処理の視点を取り入れその場でどのような「こころ」の動きが生じるのかという「情報処理プロセス」を分析していく訳ですが、このときに価値観やライフスタイルといった「環境&個人差要因」の情報を用いてクラスター別でその情報処理プロセスの違いを比較してみる・・・といった分析が可能になるでしょう。より対象を特定した分析や理解を深めるためにはこのような包括的な分析アプローチが不可欠なのではないかと考えられます。

参考文献

  • ・Atkinson, R. C. & Shiffrin, R. M. (1968) Humanmemory: A proposed system & its control processes. In K. W. Spence & J.T. Spence Eds.,The Psychology of learning and motivation: Advances in research and theory, Vol.2.New York Academic Press.
  • ・Blackwell, R. D., P. W. Miniard & J. Engel (2006) ConsumerBehavior,10 th ed,. South-Western.
執筆者 (株)クロス・マーケティンググループ クロスラボ 主席研究員 水師 裕 (すいし ゆたか)

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