「利他性マーケティング」とは
利他性とは、自分がコストを負担して他者に利益を与える心理的傾向です。
近年、「振り込め詐欺」「やりがい搾取」など、利他性につけこんだ被害が後をたちません。
このような現象からも分かる通り、ヒトは思わず他者を助けてしまう非合理な側面を持っています。
ヒトの利他的な側面を洞察し、それに適応するマーケティング戦略を立案・ 実行する考え方が「利他性マーケティング」です。
孤独な人が増えていくと、「個」にフォーカスした商売だけが成功するのでしょうか。地域社会や家族が解体されていく中、結婚を一度もしないで一生を終える人や一生を一人で暮らす人々が増加していく日本社会。それにともない「個」に対応した商売も拡大していくのでしょうが、反面、婚活ビジネスのような個と個をつなぐ商売もまた拡大していくようにも見えます。
これまでのマーケティングではダイレクトに個人のニーズやウォンツに目が向けられがちでした。個と個の関係から消費を見ても、結果的に個人のニーズやウォンツを満たすことにつながることは同じでしょう。しかし、個と個の関係性から照らしてみてどのような個人のニーズやウォンツが浮かび上がるのか、という視点はこれからますます重要なものになると思います。ダイレクトに個人にアプローチするよりも、異質なニーズやウォンツが見えてくるからです。
個と個が結ばれる場には必ずといっていいほど利他性が存在します。お互いが相手に利益を提供し合うという関係なくしては、対等で長続きのする関係を維持することは不可能だといえるからです。相手をだまし一回限りの自己利益を得たり、権力を使って服従させたりといった方法は別ですが、比較的長く「お互いに」自己利益を得るためには、利他的な信頼関係の基板が必要となるでしょう。
個と個の結びつきから得られる見返りには、幸福感、楽しさ、評判獲得・・・など様々なものが考えられます。これらの見返りはよく見てみると、利他的な行動による見返りであることが分かります。例えば、人とのつながりが幸福感を高める、利他的な行動をすると脳の快楽パートが活性化する、利他的な行動をすると自分の評判が上がり社会的な生存可能性を高める・・・といった示唆が学術的な研究からも提示されています。
生存可能性といえば、根底のところにはセーフティーネットとしての「他者とのつながり」の問題は外せません。すべてのヒトがロビンクルーソーのようにたった一人で無人島をサバイブすることは不可能です。ヒトは何らかのかたちで助け合い、協力し合う利他的な関係を他者と形成する中で生存することが可能です。例えば、あらゆるレベルでの中間共同体――友人・家族・地域社会など――は個と個のつながりの束であり、助け合い、協力し合う利他性の関係基盤だといえるでしょう。
これまでの日本社会ではそうした中間共同体が失業など人生の失敗や貧困を吸収する役割を担ってきましたが、ゆるやかに解体されつつあります。中間共同体の解体は個と個の解体を意味します。そこに他者とのつながりへの欠乏感が生まれるでしょう。しかし、既存のつながりを再形成するにせよ、これまでにないつながりを新たに形成するにせよ、根本的なところで利他性の機能を無視してはその実現は不可能でしょう。
ヒトの持つ利他的な性質をマーケティングに応用する「利他性マーケティング」は、このような個と個が結ばれる場面に目を向けています。つながりへの欠乏への対応、さらには、個と個とを結びつけることによる消費の喚起に利他性マーケティングが活用できるのです。
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