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【新しい時代のリサーチ 第5回】
「RDIT 科学誌NATUREで取り上げられた調査」

岸田 典子 (きしだ のりこ)
(株)クロス・マーケティンググループ
クロスラボ 研究員

岸田 典子 (きしだ のりこ)

2017 / 02 / 24

#メディア

【新しい時代のリサーチ 第5回】<br>「RDIT 科学誌NATUREで取り上げられた調査」

第4回のコラムでは、世界的なパンデミックの中で、正確な情報をつかむために開発されたRDITの学際的な背景と、RIWI社が目指すビッグデータの先にある「スマートデータ(高性能なデータ)」というビジョンについてご紹介しました。



第5回となる今回は、世界で最も権威のある学術誌の一つである科学誌『NATURE』に取り上げられたRDITを利用したグローバル調査をご紹介します。

科学誌『NATURE』に掲載された調査

2015年12月5日号の科学誌『NATURE』vol.528の「WORLD VIEW」というページに「メンタルヘルスへの偏見にデータで立ち向かう」“Use data to challenge mental-health stigma“というタイトルでシーマン教授のRDITを用いた調査研究が取り上げられました。副題で、「精神疾患への態度に関するWeb調査が問題の大きさを明らかにすることによって、解決の方法を提供する」とのシーマン教授の言葉が引用されています。

その元となった研究は、Affective Disorder JournalのRIWI社CEOニール・シーマン教授らの論文「精神疾患への偏見についての世界調査」”World survey of mental illness stigma” です。

この研究によって、これまで計測することが困難とされてきた「精神疾患に対する偏見」という人々の意識についての聴取が世界中で実施可能なことが示されたのです。

「精神疾患に対する偏見」を定量的に測定する試み

「精神疾患」は機微な情報であるため、これまでどこの国でも調査に取り上げることが難しいテーマでした。その「偏見」を世界中で定量的に計測するという試みは今までに例のないものです。

『NATURE』に掲載された記事では、以下のようなことが書かれています。

米国の国立精神衛生研究所は、偏見は、抑うつを増し、恥じる気持ちに追いやり、治療を避けて社会的に孤立させ、結果として健康の悪化に繋がる精神疾患を最も消耗させるものだとしています。

しかしながら、これまで「偏見」というものをどのように捉えたらよいのか、精神疾患が実際に増えているのか減っているのか、どのように取り組むべきなのかも、わかりませんでした。ことに精神疾患の分野では、調査予算も限られていました。

この調査に用いられた方法は、シーマン教授の開発したRDIT (Random Domain Intercept Technology)です。 2013年9月から2015年5月まで、1年8ヶ月という長期にわたって実施され、世界229カ国、100万人以上の反応があり、596,712名に及ぶ対象者の結果を回収しています。(回収率は54.3%)。

調査では性別と年齢への回答を求められた後、下記のような質問内容で聴取が行われました。(Affective Disorder 190,115-121;2016)

(1)精神疾患の人と日常的な接点があるか
(2)精神疾患が暴力と関連付けられているか
 (精神疾患の人は、より怠惰である/より暴力的である と思うか)
(3)精神疾患は肉体的な病気と同様だと思うか、
(4)精神疾患は回復可能か


そして、この調査から導き出されたのは下記のような結果でした。

・中国は、日常的に精神疾患患者との接点があるとする比率が最も高い。
・精神疾患患者がより暴力的であるとしたのは先進国では、7~8%であるのに対し、途上国では、15~16%。
・先進国では、45~51%が精神疾患は、肉体的疾患と同様であると回答している一方、 克服可能であると信じているのは7%にとどまった。


『NATURE』に掲載された記事では、調査結果に対してシーマン教授は次のように考察しています。

・一般の人にとって精神疾患には生物学的原因があるという理解は、悲観しない方向にではなく、より悲観的にとらえられているようです。このことは以前から指摘されてきましたが、一見直観からは反するものです。病気を遺伝子に起因させることは、責めることからは開放されますが、同時に改善への希望も奪ってしまいます。

・例えば中国では、しばしば精神疾患の患者は家族に恥をもたらすと見なされています。 多くの途上国では、「面子を失う」ことは精神疾患と関係づけられ、その影響は病気の当人だけでなく家族にも及びます。このような文脈においては、精神疾患の人は家の中に留め置かれることになり、中国では日常的に精神疾患の患者との接点があると回答する人が多くなると説明づけられるのかもしれません。


この調査では、同じ質問を21ヶ月間継続して呈示した調査結果の再現可能性を検証しています。対象者個人の特定はできないながらも、全体としての反応の再現可能性はどの地域においても高い結果を得ています。

注)インドでの「精神疾患の人は、より暴力的である」への回答は、各回10.1%(誤差範囲±0.11%)
*同じ調査を繰り返し実施しても結果がほとんどぶれないことを「再現可能性」といい、RDITに  よる調査結果の安定性を示しています。

なぜRDITが用いられたのか?

では、この調査を実施するにあたり、なぜRDITが用いられたのでしょうか。

RDITは完全に匿名での回答となることから、「精神疾患への偏見」といった通常の調査方法では収集するのが困難なテーマに対して回答を引き出すことができます。
またインターネット上でランダムに調査画面を呈示するため、インターネットを利用するすべての国(現在地球上の43%)が対象国となり、各国の国全体の状況として把握することができます。
このようにRDITの特性を活かすことで精神疾患に関する各国の人々の意識と人々をとりまく環境が明らかになりました。

自殺リスク要因に関する学術研究

『NATURE』に掲載された記事では、RDITを使った調査の今後の可能性について、シーマン教授は以下のように述べています。

例えば、公的教育で偏見の撲滅キャンペーンを行った特定の地域で、このような偏見についての調査を繰り返せば、人口全体への介入の効果を事前事後調査で把握することが可能であり、非常に大きな価値があります。
(調査を行う対象は)偏見にとどまりません。精神衛生の領域では、例えば、自殺要因、自殺防止の介入の効果を検証することが可能です。また、ハリケーンのような自然災害やパリのテロ事件のような災厄が起こったときのPTSD(Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害)の症状の究明やトラウマの転移の方法の検証への利用も可能です。

精神疾患に対する偏見のような社会的な問題の測定は必要であり続けるでしょう。しかし、少なくともその困難の大きさを知ることができ、それは問題解決の方法を見つけるのに非常に役立つはずです。


このようにRDITの活用例のひとつとして『NATURE』で語られていた『自殺リスク要因』についての研究が2017年2月シーマン教授らの最新の論文として発表されました。

「米国の大学生における自殺リスク要因:認知の性差ついての研究」

(原題:“Suicide Risk Factors in U.S. College Students: Perceptions Differ in Men and Women”)
この調査では、匿名のオンライン調査(RDIT)を用いて、米国の計3762名のうち「学生」、かつ高等教育後の年齢であると回答した人 1583名(51%男性・49%女性)を対象に意見を収集しました。

調査の結果、自殺のリスク要因は、男性、女性では有意に異なり、男性は競争社会のプレッシャーを女性よりも重く感じている一方、女性は人間関係のストレスをより感じやすい、という傾向があることがわかりました。その他の要素「孤立」、「疎外」、「薬物乱用」に関しては、性差は見られませんでした。(表1)

自殺リスクに関する性別による認識の大きな違いは、自殺防止のための効果的な介入にはさまざまの異なったアプローチの必要があり、そのいくつかは性別に特有のものである必要があると考察されています。

(表1)自殺リスク要因に対する認識の性差


20170224_01_02


注)p値の確率が低いほど、帰無仮説「男女の差がない」を棄却する、つまり「男女差がある」強力な証拠となります。
一般にはp値が5%未満(p<0.05)の場合、データに「統計的有意差がある」とされますが、この事例では、それよりもはるかに明らかな性差があることがわかります。


自殺は、日本においても非常に大きな社会問題となっています。このような研究や調査アプローチが今後の日本での研究や対策にも役立てばと願っています。

RDIT:世界で活用の広がる調査手法

RDITを使ったグローバル調査が『NATURE』に取り上げられたのは、今まで計測できなかったことを可能したRDITの持つ先進性と、それによって社会問題に新たな対策が立てることができ、社会を変える要素があるからだといえます。

前回のコラムでご紹介したように、問題解決のために「明確な目標を設定し、その目標に向かって進んでいることを測定する方法を得れば、すばらしい進歩を達成するだろう」というRIWI社のビジョンを示す調査といえるでしょう。

日本では、RDITの知名度はまだ低いですが、海外では、主要メディアだけでなく、国家機関、世界銀行や国連などの国際機関、世界的なNGO、シンクタンク、グローバル企業で利用されるほか、世論調査関係の学術調査での利用も増えています。

特定のターゲットに問いかけて回答を得るには調査協力者パネル(アクセスパネル)でなければできませんが、RDITでしか提供できない「代表性」という要素が、学術調査研究での信頼性に非常に役にたっています。
今回は、『NATURE』に掲載された調査の事例とそのような学術系調査にRDITが適する理由を中心にご紹介しました。少しでもRDITによる新しい調査のイメージが伝われば幸いです。 次回は、RDITのマーケティング領域での活用についてご紹介致します。


<参考>
◆Nature:Web surveys of attitudes towards mental illness reveal the size of the problem 2015.12.15 vol.528 Page309
精神疾患に対する態度に関するWeb調査が問題の大きさを明らかにする

◆Seeman,N.,et al. World survey of mental illness stigma. J Affective Disorders.190, 115-121 (2016)
精神疾患への偏見についての世界調査

◆Suicide Risk Factors in U.S. College Students: Perceptions Differ in Men and Women
米国の大学生における自殺リスク要因:認知の性差ついての研究

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