“気づき”マーケティング(1) 「包丁のない家庭」?? | リサーチ・市場調査・マーケティング

マーケティングコラム
2014/4/18

“気づき”マーケティング(1) 「包丁のない家庭」??

“気づき”マーケティング(1) 「包丁のない家庭」??

「包丁のない家庭が増えた」「若い主婦は包丁を使えない。」

ここ十数年前くらいからよく耳にする、生活者のトレンドを表現するキーワードの一つだ。このことから、ちゃんと料理をしない、できない主婦が増えている、だからほとんどを惣菜ですましている、といった生活者像が一人歩きすることになる。つい最近も食品メーカーの女性マーケターや、大手流通のトップの発言として立て続けに耳にする機会があった。ちゃんと裏付けのあるデータがあるのかといろいろ調べてみたものの、確実な調査データは見つからなかった。もしあれば是非教えてください。このようなまるで“都市伝説“のようなお話はいっぱいある。「包丁」ということから、一体何が起こっているのだろうか。あるいは本当のところは何なのだろうかという疑問と仮説を持つことが、「調査」ということの入り口である。つまり、“気づき”を持つということである。

この“気づき”を追いつめてみるには、まず包丁売り場に行ってみることである。確かに包丁なる道具を売っている売り場はこの30数年で大幅に減った。昔、街のなかには荒物屋といった金物を売っている雑貨屋があり、普段使いができる包丁がいくらでも売っていた。スーパーやホームセンターに行ってもあんまり売っていないね。まあ先鋭的な包丁は一種の凶器だから、売る方もさけたいところ、ガラスのショーケースに入っている売り場も多く、趣味の用品のようである。

「エスノグラフィ」やってみたら!!

 ところが、同じスーパーでもそうだが、百均(ひゃっきん)やシマホ(島忠ホームセンター)に行けば、包丁よりも“ピーラー”が圧倒的に多く品揃えされている。それに何しろ、100円から売っている。普段使いの包丁の大半はこの“ピーラー”に取ってかわられてしまったようだ。包丁を使った調理である皮をむくというプロセスはピーラーになったといえる。包丁はなくなったって困らないし、料理をしないという結論は嘘ということになる。じゃがいもの皮をむくという行為は、包丁よりもピーラーの方がむいているとさえいえる。だから、若い世代が大好きだという「肉じゃが」は手作りされるのである。ところが、このピーラーはリンゴの皮むきにはフィットしない。これは機能的にもややあわないだけではなく、視覚的、習慣的にもあわないといえる。リンゴ、かき、なし等の皮をむいて食べる果物が、全体として需要が落ちているのは仕方ないところだ。

包丁ではなくペティナイフがむいている訳で、たとえ包丁を持っていなくてもペティナイフなら持っているという若い主婦はいるのだ。もちろん、出刃包丁を使って魚をさばくなんていう包丁の使い方は、すでに昔日の姿ということになる。複数の種類の包丁を持っている主婦は激減したことは事実だろう。包丁の保有率というデータは、そんなに単純なものではないのである。背景に疑問を持って、売り場を見ていくことで“気づき”を持つ。これはエスノグラフィー(観察調査)という調査方法だが、この“気づき”を持ってやる調査ならば、もう少し生活の実像に近づいていけるはずだ。

「まな板」の音

当たり前のことだが、いわゆる西欧料理というものはほとんど日本的な意味での包丁は使わない。日本の日常メニューに最も定着したイタリアンはその典型である。もちろん、野菜をむいたり切ったりするという調理は当然あるが、ピーラーを使い、ナイフでカットする。包丁がまな板に当たるトントンという音が家庭の朝の情景を作っているというのは、極めて日本的なものといえる。

「できれば包丁、まな板を使わず料理をしたいか」と聞かれると、100%に近い確率でイエスと答えるだろう。何も若い主婦だけでなく、シニアの主婦でもきっとそうだろう。“もやし”料理が増えるのも当然だ。カット野菜が増えていくに違いないと考えても当然である。でも、ここでも一度立ち止まって“気づき”を持った方がいい。もやしとカット野菜は違うものである。依然として売り場を見ているとカット野菜の大半はサラダ用素材である。サラダの素材の葉っぱは、もともと包丁を使ってむいたり切ったりするものなのか。カット野菜と言わず、“ちぎり野菜”といってほしい。そもそも包丁の保有とは関係のないものである。調査というものは、何を知りたいのかというちゃんとした“気づき”からスタートしておくべきである。さて、海外のサラダ用素材のパックは何でこんなに大きいのだろうか。日本もやがてこうなるのだろうか。

東京辻中経営研究所 同社代表取締役マーケティングプロデューサー 株式会社ユーティル研究顧問 辻中 俊樹

日本能率協会などで雑誌編集者を経て、1982年ネクスト・ネットワークを設立。生活を24時間スケールで補足する「生活カレンダー」方式によるリサーチワークを確立。団塊ジュニアに関する基礎研究をまとめ、「15(イチゴ)世代」というキーワードを世に送り出すなど、その「生活シーン分析」は評価が高い。団塊世代のみならず、出産期世代からシニアについても造詣が深い。2010年には食のマーケティングに絞った活動を行うために、東京辻中経営研究所を設立。同社代表取締役マーケティングプロデューサー。

また、2012年よりユーティルの研究顧問として「気づき」プロジェクトを開始し、定性、定量にかかわらず、生活の中から「気づき」を発見するための調査、分析、コンサルティング活動を行う。その活動の中で「生活動線」などの視点を生みだしている。
近著に「団塊が電車を降りる日」(東急エージェンシー出版)など編著書は多数。 

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