"気づき"マーケティング(7) 「ばあば銀行」の利息?? | リサーチ・市場調査・マーケティング

マーケティングコラム
2014/11/6

"気づき"マーケティング(7) 「ばあば銀行」の利息??

"気づき"マーケティング(7) 「ばあば銀行」の利息??

シニア世代の親とその娘、そして孫の間の三世代の関係を理解するため

9月の中旬から末日までの期間で、「三世代のコミュニケーションと行動」というテーマで調査をやることになった。シニア世代の親とその娘、そして孫の間の三世代の関係を理解するために、サンケイリビング新聞社の行う調査の分析、監修をお手伝いしたのである。
この三世代が日常的にどのような共通の行動を行ない、それにともないどんなコミュニケーションが発生しているのかを把握するために生活日記による生活動線調査を実施したのである。加えて、その間に関係した物品や、メールやラインなどのコミュニケーションの要素を写真で残してもらうというものである。

いわゆる"気づき"マーケティングの基本パッケージである生活日記と簡略なエスノグラフィー調査をやってみた訳である。結果、もちろん様々な発見や"気づき"があった訳だが、今回はその中からエピソードを少々紹介することに。

ばあばが孫とママと一緒に買い物に行くシーンは当たり前のようにでてくるものだ。それも近所のスーパーやドラッグストアのような日常的買い物シーンの共有化である。もちろん、この時のレジの支払いはほぼばあばがやっている。これは特に新しい発見でもないし、私たちは以前から三世代における「日常的贈与」と整理してきたものだ。実家の冷蔵庫の中味をいただいていくママは当たり前のように登場する。特別なものを贈与されるのではなく、ヨーグルトや牛乳やベーコンの様な商品が、その贈与物なのである。

その中で今回面白かったのは、「今日はシルバー割の日なので買い物に行かない?」といったシーンがでてくることだ。シルバー割をしているスーパーは、一体誰に対してセールしているのだろうか。シルバー割ということは結局「三世代セール」をやっているということになるが、スーパーはそのことに気づいてやっているのだろうか。

「シャインマスカット」や「巨峰」が買われた訳

 こんな日常贈与の対象商品の中に、今回よくでてきたのが、「シャインマスカット」や「巨峰」であった。ちょうどぶどうが旬の季節だった訳だが、この買われたちょっと高いぶどうはママや孫のもとにいっているのである。ママたちからみれば500円以上もする「マスカット」は自分では絶対買わないものである。でも自分も好きだし、お孫さんは大好きである。ばあばにとってみれば580円の「巨峰」は別段高いとも安いとも考えてはいないのだ。この程度のもので、孫が喜んでくれるのならば、贈与という点でみれば安いものなのだ。

  これを純粋に経済的行為としてみれば、シニアからママ世代への日常的なサポートいうことに尽きる。ところが、そのこと以上に重要なのが「贈与と返礼」という情緒的行為なのである。もっと踏み込んでいえば一種の宗教的行為ということだとみれる。

 経済的には500円程度の日常的買い物の対象物にすぎないが、何しろ旬の「巨峰」であり「マスカット」である。これには経済的利得などをはるかに超えたばあばの「霊威」の伝達というものがあるのだ。だからこそ、この贈与には「返礼」というものがともなうことになる。ほぼ同等の経済的価値の対象物をお返しするのではなく、これは感謝という「霊威」を返礼とすることである。

 孫がおいしそうに食べて、「ごちそうさま」といっている写メがラインで送られてくる。神に捧げものをし、その神の「霊威」をうけとり、3~4粒のおさがりの「巨峰」をいただくことで、ばあばは満足するというようなことになる。

ばあば銀行の利息

ちょうど調査期間中に敬老の日があった。当然のように孫やママ側からのイベントも用意されたりもした訳だが、孫が「じいじとばあばの顔」を描いた絵などが贈られるということが主流である。その中に、孫がちょっとした贈り物をばあばに贈ったシーンもあり、その贈り物の原資が「ばあば銀行の利息で買いました」とあった。意味がよく飲みこめなかったのだが、孫はお年玉などでもらったお金を「ばあば銀行」に貯金しているということだそうだ。

これは昔からよくあったような話だが、この私的銀行である「ばあば銀行」は何しろ利息が20%もつくそうである。ママ銀行に預けておいても利息は当然つかないから孫は預けない。「ばあば銀行」にはママは預けることができないというように、セグメントが厳格である。

この利息で孫はばあばに贈り物をしたという訳だが、考えてみればばあばは自分のお金で自分に贈り物をしたに過ぎないというのが、純粋な経済学である。ここに「贈与と返礼」という別の価値増殖の筋道が参加することにより全く新しい関係性を生み出すことになるのだ。

マルセル・モースが『贈与論』で述べた“ポトラッチ(儀式)”やマリノウスキーがトロブリアンド島(ニューギニア)の原住民の行為から“クラ(交易)”を発見したように、「贈与と返礼」という“気づき”なしには三世代の関係は解けて行かない気がしてしまう。

合理的な思考と解釈ではまったくわからないように生活は非合理に満ちている、ということなのである。

東京辻中経営研究所 同社代表取締役マーケティングプロデューサー 株式会社ユーティル研究顧問 辻中 俊樹

日本能率協会などで雑誌編集者を経て、1982年ネクスト・ネットワークを設立。生活を24時間スケールで補足する「生活カレンダー」方式によるリサーチワークを確立。団塊ジュニアに関する基礎研究をまとめ、「15(イチゴ)世代」というキーワードを世に送り出すなど、その「生活シーン分析」は評価が高い。団塊世代のみならず、出産期世代からシニアについても造詣が深い。2010年には食のマーケティングに絞った活動を行うために、東京辻中経営研究所を設立。同社代表取締役マーケティングプロデューサー。

また、2012年よりユーティルの研究顧問として「気づき」プロジェクトを開始し、定性、定量にかかわらず、生活の中から「気づき」を発見するための調査、分析、コンサルティング活動を行う。その活動の中で「生活動線」などの視点を生みだしている。
近著に「団塊が電車を降りる日」(東急エージェンシー出版)など編著書は多数。 

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