小売業・サービス業と売上予測 「地理空間加重回帰モデル」のご紹介 | リサーチ・市場調査・マーケティング

マーケティングコラム
2015/10/15

小売業・サービス業と売上予測 「地理空間加重回帰モデル」のご紹介

小売業・サービス業と売上予測 「地理空間加重回帰モデル」のご紹介

売上予測の類型

 小売業やサービス業などで店舗を構えている業態は、当然ながらお店にいかに多くのお客様にお越し頂けるか、というのが経営の鍵を握っている。そのために、開店後は店舗の運営において顧客満足度を高めて再来店を促す、ストアロイヤリティを高める取り組みがなされている。一方で店舗を構えている以上、どこに出店するかが店舗企画の段階では重要となってくるのも事実であり、また開店に要するコストも、物件の取得または賃借からスタッフの募集まで相応の投資が必要なことから、多くの企業では投資収益の判断のために売上予測を行って出店可否判断の一助としている。そこで本稿では、筆者の経験を踏まえ、売上予測の在り方に触れつつ、予測精度を上げるための方法について考えてみたい。
 小売業やサービス業における売上予測には、大きく分けて2つの潮流があるように思える。一方は、概ねの来店確率や競合とのシェアを推計し、それに市場規模を乗じるような「ハフモデル」であり、他方は、既存店の売上データと商圏の人口特性や店舗の特性(店舗面積など)を元に統計的に予測モデルを作る「重回帰モデル」である。

ハフモデルと重回帰モデルの特徴

 前述のハフモデルとは「ある消費者が、A商業施設とB商業施設に行く確率は、AとB各々の魅力度に比例し、距離や移動時間・移動コストなどの“交通抵抗”に反比例する」と考えるものである。要するに「魅力のあるところに行く、但し遠ければ行かない」という、ある意味当たり前と言えば当たり前のモデルである。従って、これを出店計画時の売上予測に当てはめる場合には、一定の地域の居住者(町丁目別の人口など)が、自社の新店舗と既存の競合店のどちらに何%位行きそうかを計算し、それに家計調査などから市場規模を推計した結果を掛けて、新店舗の売上を予測することが多いようである。但しこのモデルは、店舗の立地条件を加味していないことと、魅力度や交通抵抗にどの様なデータを使うかが難しいため、精度を上げにくいことが難点である。ちなみに、一般に言われている「面積に比例し距離の二乗に反比例する」という定義のハフモデルは、厳密には「修正ハフモデル」と言われており、元々のハフモデルを便宜的に簡素化したものである。
 これに対して重回帰モデルでは、既存店の売上データと、商圏人口や人口特性、店舗面積、立地条件、店舗特性などのデータを収集し、これらのデータを元に売り上げを予測するモデル式を統計的な方法で構築する。その上で、出店候補物件のこれらのデータをモデル式に入力し、新店舗の売上を予測するわけである。このモデルは、どのようなデータをモデルに組み込むかの検討が難しいものの、逆に言えば自社で重視している要素をモデルに組み込むこともできるため、意味的に理解しやすいモデルを作ることができ、実際の運用の際に活用しやすいことがメリットである。一方で意味的な解りやすさを重視した結果、予測精度が上がりにくくなることもあるため、このバランスを考慮する必要がある。

ハフモデルと重回帰モデルの特徴

地理空間加重回帰モデルで、地域特性把握と予測モデル精度向上が両立

 こうした時に検討できるのが、「地理空間加重回帰モデル」である。これは、従来の通常の重回帰モデルに、地理的な情報を加味して、エリア特性の把握とモデルの精度向上の両立が可能となるモデルである。
 話を簡素化するために、上記の図の通り、店舗の売上は商圏人口・単身世帯比率・就業者数・小売業事業所数の条件(これらを説明変数という)で売上が決まるモデルを作ったと仮定する。通常の重回帰モデルの場合、これらの各変数に対して係数が各々1つだけ算出される。この場合、各変数と売り上げの関係には地理的な違い・特徴はない、という暗黙の前提に基づいている。一方、地理空間加重回帰モデルは、地理的な特徴を前提に各係数がモデルを構築した店舗ごとに異なるものとなる。例えば100店舗のデータでモデル構築したならば、商圏人口に対して店舗ごとに異なる係数が100個、単身世帯比率でも100個・・・、という形のモデルとなり、これらの係数が店舗の場所でどこがどう違うかを見ることによって、地域特性を把握することが可能となる。実際の候補物件の売り上げを予測する際には、最も近い店舗の係数を当てはめて予測する、という運用がなされる。
 モデルの精度に関しては、実際の売上予測のデータは本稿では提示できないものの、当社自主調査結果からの分析で精度向上の事例をご紹介したい。当社自主調査で、自動車の新車保有率(現在持っている車が新車か否か)を都道府県別に集計した。各都道府県の新車保有率は、各都道府県の人口の多寡、ライフステージ、勤務先の業種によって異なるとの想定の元、一般世帯数・15歳未満人口比率・第2次産業就業者比率(いずれも2010年国勢調査)を説明変数として、新車保有率を目的変数として重回帰モデルと地理空間加重回帰モデルで分析を行った。その結果、モデルの係数はここでは割愛するが、下図の通り地理空間加重回帰モデルの方が明らかに予測値と実測値の誤差が小さくなっている。

地理空間加重回帰モデルで、地域特性把握と予測モデル精度向上が両立

 地理空間加重回帰モデルでは、従来の重回帰モデルと同様に、業務の運営上重要な指標をモデルに組み込みつつも、予測精度を一般的な重回帰モデルよりも大幅に向上させることができる。更にエリアマーケティング的な観点からも、モデルの係数から地域特性を把握できるという大きなメリットもある。小売り・サービス業で売上予測を行っている場合には、地理空間加重回帰モデルの採用を検討されてみてはいかがだろうか。

株式会社クロス・マーケティング リサーチプランニング部 マネージャー/シニアリサーチャー 服部 達哉

CS調査・コンサルティング会社で顧客満足度調査・社員満足度調査を長く実施。
エリアマーケティング関連では、大手流通系事業会社で出店戦略策定や店舗開発における売上予測モデル構築の経験を有する。

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