“気づき”マーケティング(23) 不毛なPOSデータよりも生活の“見える化”を!! | リサーチ・市場調査・マーケティング

マーケティングコラム
2016/3/3

“気づき”マーケティング(23) 不毛なPOSデータよりも生活の“見える化”を!!

“気づき”マーケティング(23) 不毛なPOSデータよりも生活の“見える化”を!!

生活者理解のためにPOSデータを用いることの錯誤

今回は、いわゆる販売時点のデータをいくら集めたところで、結局は不毛な結果しか捉えることができないというお話を。  販売時点を購買時点と言い換えても同じことだが、この最たるものがPOSデータということになる。まあ、ビッグデータということだ。  そんなデータをいくら積み上げても不毛な“気づき”しかつくれないのに対して、最も大切なことは生活時点を“見える化”“可視化”するということに尽きるのだ。

販売時点、つまりPOSデータの基本は、一枚の購買者のレシートであり、これを大量に集積したものがいわゆるビッグデータということになる。単品、つまり一つ一つの商品アイテムが一体いくら売れているのかという、販売管理、在庫管理、発注管理などの管理データとしては、非常に大切なものである。これは全く間違えたことではない。

 ここに一枚のレシートがある。78歳の“おひとり様”おばあちゃんが、昨年の夏にヤオコーというスーパーでお買物をされた結果が示されている。レシートデータ、バスケットデータといいかえてもよいが、この買い物からどんな生活を“見える化”することができるだろうか。


生活者理解のためにPOSデータを用いることの錯誤(イメージ)

一枚のレシートから見えてくるもの

 まず、ハッキリ言って何の仮説も成り立たないことだろう。少し解説しておけば「チラシ」は「ちらし寿司」であり、「ベントウ」は正確にいえば「さばの照焼きと八種和菜の煮物と十六穀米弁当」、加えて「メカジキ」という魚と豆腐を買っておられる。「ちらし寿司」と「お弁当」を買っている…、ウーン、もうここでわからない。お一人での食事が基本であり、おばあちゃんが2つも食べるのかしら…??結果を解説しておけば、この日の夕食はこの「お弁当」を、翌日の夕食に「ちらし寿司」が登場したというのが生活時点での結果である。

 では、まずこの「お弁当」が食べられた夕食をご紹介しておく。写真も載せておくのであわせてご覧ください。「さばの照焼きと八種和菜の煮物と十六穀米弁当」、「とうふと小ねぎ、みょうが入りみそ汁」、「きゅうりのぬか漬け、タクアン、白うりの粕漬け」、「フルーツ(りんご半分)」をお食べになったのである。まず、大切なことは、このお弁当単品だけで食事は成立していないこと、様々な漬物をつけあわせ、みそ汁を作って食卓を作っておられる点だ。私はこのことを<食卓力>と呼んでいる。見事な<食卓力>である。

 この漬物には盛夏らしい<旬><季節感>があふれている。そしてみそ汁の具材にみょうがが使われていることも<旬><季節感>だ。漬物が<彩り>を添え、<食べたい力>を湧き立たせているのだ。

一枚のレシートから見えてくるもの(イメージ)

“本当に知りたいこと”を見失わないために

 ここで1つの不毛を示しておく。データ的には恐らく「さばの照焼き」という魚料理が主菜となった弁当が売れたという結果をみてしまう。「大好物の煮物が沢山入っていたので買いました」という生活者自身の価値が、全くPOSデータからは仮説立てることができないのだ。

 やはりシニア層は「魚料理」だなどと結論づけてしまうことになりがちだが、大ハズレということになり、“八種和菜の煮物”の価値がどこかに消え去ってしまう。私はこのハズレ感のことを「メインディッシュ病」と呼んでいる。主菜、つまりメインディッシュを際立たせないと、食にならないという頑固な病なのである。

 このレシートから「お弁当」と「シマトウフ」がこの日の夕食に利用されたというのが実態なのである。この生活の実際のシーンを”見える化”することで初めて、レシートデータと生活の実態が一体のものになる。つまり、購買時点からつながる生活の文脈がみえてくるのだ。

 この”見える化”、生活文脈の把握は生活日記調査でしかできないことだ。試しにこの日一日の生活日記調査の結果をみられるようにしておくので、下記のURLへアクセスしてみて下さい。

http://food.diinc.co.jp/vol14_calendar/

 どのように調理するのかといった料理やレシピの側面にばかり気をとられていると、この夕食がみえなくなってしまう。ほとんど料理ということはされていないが、見事な食卓になっている。私には<料理力>よりも<食卓力>の方が重要にみえる。逆立ちしてもPOSのデータからはみえてこないことなのだ。

 さて、この日買われた「チラシ」は翌日の夕食に登場する。「昨日ヤオコーで買って来たちらし寿司に少々、手を加えたちらし寿し(小)」ということになる。<彩り>が豊かで夏の食欲をふるいたたせる<さし色>があふれている。これも料理、調理というよりも<アレンジ力>といった方がいい。

 ここに前日買われた生メカジキが登場する。「生メカジキムニエルワイン仕立て」だそうだ。見事な料理だ。

 ビッグデータは不毛であり、生活の“見える化”が大切だということの入り口をご紹介した。

“本当に知りたいこと”を見失わないために(イメージ)
東京辻中経営研究所 同社代表取締役マーケティングプロデューサー 株式会社ユーティル研究顧問 辻中 俊樹

日本能率協会などで雑誌編集者を経て、1982年ネクスト・ネットワークを設立。生活を24時間スケールで補足する「生活カレンダー」方式によるリサーチワークを確立。団塊ジュニアに関する基礎研究をまとめ、「15(イチゴ)世代」というキーワードを世に送り出すなど、その「生活シーン分析」は評価が高い。団塊世代のみならず、出産期世代からシニアについても造詣が深い。2010年には食のマーケティングに絞った活動を行うために、東京辻中経営研究所を設立。同社代表取締役マーケティングプロデューサー。

また、2012年よりユーティルの研究顧問として「気づき」プロジェクトを開始し、定性、定量にかかわらず、生活の中から「気づき」を発見するための調査、分析、コンサルティング活動を行う。その活動の中で「生活動線」などの視点を生みだしている。
近著に「団塊が電車を降りる日」(東急エージェンシー出版)など編著書は多数。 

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