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ビジネスリーダーの洞察力

話題のヒット商品やサービスを送り出したビジネスリーダーへのシリーズインタビュー。
成功の裏側にある戦略やマネジメントについて『洞察力』という切り口から掘り下げ、ビジネスを成功に導く本質に迫ります。

25年かけてたどり着いた、学術書ではない実務家ならではの「ブランド論」とは 片山義丈の洞察力(後編)

成功するまで「やり続ける執念」と、よいと思いついたら「実行」することが大切

ダイキン工業株式会社

写真右)ダイキン工業株式会社 総務部広告宣伝グループ グループ長 片山義丈様
写真左)弊社 コンサルティング本部 インサイトコンサルティング部 コンサルティングディレクター 堀

ブランドづくりは妄想づくりだと話すダイキンの片山義丈氏。人々の頭の中に「妄想」を生み出すために、必要なステップがある。今回は、そのステップについて、また社内組織を円滑に動かすために重要なことは何かを伺いました。

片山義丈様

ダイキン工業株式会社

片山義丈様

総務部広告宣伝グループ グループ長
1988年入社。2007年より現職。統合型マーケティングコミュニケーションにより企業や商品のブランド構築、広告メディアの購入およびグローバルグループWEBサイト統括を担当する。入社以来一貫して広報・宣伝を担当し、ルームエアコンのブランド「うるるとさらら」立ち上げやブランドキャラクター「ぴちょんくん」のブームにも携わってきた。2021年に「実務家ブランド論」を出版。

生活者のインサイトを探る前に取り組むべきことがある

 ブランドづくりに必要な戦略というものはあるのでしょうか。また、ブランドをつくるためにどのような段階を踏むのが良いのでしょうか。

片山様 あいまいになりがちなブランドの定義をはっきり定めることと、そして何のためにブランドをつくるのか、目的を明確にすることです。これが成功するためには間違いなく必要です。企業がブランドをつくる目的はお金儲けのためであり事業活動に貢献するためです。「妄想」という定義から、利益につなげる道筋を説明できないとブランドづくりはうまくいかない。これからはSDGsが重要ですと言っても、そのためのブランドづくりでは共感は得られても利益にはつながらない。妄想を定める場合でも、その先の利益を生み出すためにはどのような定義が必要なのかを考えなければならないと理解することも重要です。
人々の頭の中に生まれる漠然とした「妄想」が、なぜ利益を生み出すのか、そのためには何をすればいいのか。その説明ができるかどうかによって、ブランドづくりの成否は変わってくるのです。

インタビューの様子7

 ブランドづくりは投資とも言われます。短期的な利益を求めないという考え方もあると思います。

片山様 ブランドづくりには時間がかかることから、間違いなく投資です。しかしながら投資の目的もやはり利益です。ブランドづくりは投資だから短期的な利益にはつながりにくいですが、だからといって中長期の利益につながらないわけではありません。ブランドと利益は別という言い訳は、人々の頭の中に妄想を生み出すと利益が出るということを説明できないからです。

 生活者にどのようなイメージを持ってもらうのか、それを我々が「インサイト」と表現するものに近いように思います。インサイトを知るためにはどのようなことをすればいいのでしょうか。

片山様 順序としては、生活者のインサイトの前に企業のインサイトを明らかにすることです。私たち、つまり企業が何のために存在しているのかを考える必要があります。仮に、ダイキンがなくなったとしても、競合企業があれば困ることはありません。存在するからにはどのような価値を生活者に提供できるのかを突き詰めていく必要があります。生活者のインサイトから自社がすべきことを考えるのではなく、自社にできることでどのような価値を提供できるのかを先に考えなければならない。その順番を間違えるとうまくいかないのです。
小売を例にすると、何を売る店なのかが明確ではない状態で生活者が求めているものを探して仕入れようとするような話です。それを売るリソースもなければ、思い入れもないので生活者には届かない。リソースや思い入れに相当するものが経営理念や社員間にある暗黙知のようなものなので、まずはそこを固めることが大事です。

インタビューの様子8

 次の段階ですべきことは何でしょうか。

片山様 インサイトというのは、本人も気づいていないものだと考えています。指摘されてはじめて持っていたことに気づく意識がインサイトだと思っていて、そのN1分析におけるN1を探すことが大切です。結果的に自分たちが何者で、お客様に喜んでもらえる要素は何なのかを考えることが重要です。
プロダクトアウトの考え方は否定されることもありますが、私はかならずしも悪いことではないと思います。生活者の表面的な意向を意識しすぎて失敗するよりも、自分たちにできることを追求する方が良いからです。
インサイトと呼ばれるものはそれほど簡単に見つけられるものではなく、それを見つけるために必要となるのがデータです。次に求められるのはいかにデータを読み解くのかということです。自社にできることは何かを突き詰めて、その上で生活者のデータを見はじめてから、何が正しいのかが見えてくる。それで本当に提供するべきものが見つかるのではないでしょうか。データからインサイトを探そうとすることも多いようですが、それでは永遠にデータの海に溺れるだけになってしまいます。

データを集めるだけならAIでもできる。マーケターが果たすべき役割とは

 生活者の要望がそのままインサイトだと思ってはいけない。表にでたデータを、さまざまな背景や要因を含めて解釈したものがインサイトにつながっていくのだと思います。

インタビューの様子9

片山様 取得できるデータも非常に多くなっているので、それらをどう整理し、いかに分析するのかを一番考えている外部パートナーの方々と真剣に討議して、はじめて意味のあるデータになるのだと思います。
デジタル化が進行しているからこそ、データから得られるものを人が感じる必要があります。弊社の経営理念には「野生味」というものがあります。人間の直感や潜在能力を磨き、もう一度データから分析し明らかにする能力がマーケターに求められているのだと思います。

 私たちもデータを集めることだけが役割ではなく、お客様と議論することが必要だと感じています。そうした観点から、私たちのような企業に期待することは何でしょうか。

片山様 データを集めるだけなら、AIでもできます。私は、議論できることを期待しています。また、膨大なデータの何を切り取るのか、別のデータといかに結びつけるのかという技術には専門性が求められます。そこをうまく対応していただけると、私たちの仮説に対しての問題点も明らかになりますし、対応策も見えてくると思います。

経営理念と事業の間に筋が通れば、自然と社内の足並みは揃う

 社内の組織運営的な視点で、ブランドづくりの定義を共通認識として持つために重要なことは何でしょうか。

インタビューの様子10

片山様 まずは「ブランド」という言葉を使わないことがポイントです。企業にはそれぞれ、経営理念や経営計画で社員が共通して持つことができるものがあるはずです。当社では経営理念や経営計画で目指す姿を「空気で答えを出す会社」というコミュニケーションワードでわかりやすく伝えるようにしています。このように、目指していること、そうありたいと思うことを共通認識とすることが重要です。
そこで「ブランド」と言ってしまうと、情緒的なブランドで会社は儲かるのか、というように議論が違う方向へ進んでしまいます。ブランドという言葉を使わないために、自社が何者なのか、それぞれの企業がすでに持っている理念をうまく活用することが重要です。それを社外の人に伝えて、会社の利益につながる「妄想」にする。そのためにインサイトの探求が必要になるのだと考えています。

インタビューの様子11

 この連載では皆様にビジネスリーダーの洞察力を伺っています。片山さんにとっての洞察力は何でしょう。

インタビューの様子12

片山様 一つはうまくいくまでやり続ける執念です。成功する方法はシンプルで、うまくいくまで続ければ成功です。失敗しても、それを糧に成功につなげることができれば良い。現代的な感覚では少し嫌がられるかもしれませんが、執念を持って続けることは大事です。
もう一つは実行力。一生懸命考えて良いと思うことは実行に移してみる。その回数が多い人は成功する確率も上がります。考えて、行動することは、特に今の時代には重要だと思います。当社でも「実行に次ぐ実行」「二流の戦略と一流の実行力」と表現して、実行力を重視しています。
時代に必要な力という意味では、数字に現れるものだけを見ないということも大事です。今はKPIなど、全てが数字で見える時代なので、その結果を追い求める傾向にあります。目に見える数字だけで判断するのであれば、マーケティングツールを活用して最適化をすればいいので、マーケターの存在意義がなくなってしまいます。
情緒的な価値や妄想によって、人がなんとなく抱く好感は数字では表現できないので、それをデータと組み合わせて読み解き、施策を検討していくことが重要です。そして、良さそうだと思ったことを実行し、成功するまで執念深く続ける。その繰り返しだと思います。

 私は普段から「聞く力」が一番大事だと考えています。経営者やマーケターは発信される方が多いので、まずは聞くことを心がけています。今のお話は、調査結果やデータなどの数字を扱う側として、大切な視点だと思います。
私たちもデータを提供しながら、クライアントの話に耳を傾けて、数字の裏側にあるものに目を向けていかなければならないとあらためて感じました。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

インタビューの様子13

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