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10年先の移動のあり方を模索するトヨタ未来プロジェクト室 

【前編】小さく、クイックに挑戦する「OPEN ROAD PROJECT2.0」

2019 / 06 / 21

#テクノロジー,#ソーシャルグッド,#車 バイク

【前編】小さく、クイックに挑戦する「OPEN ROAD PROJECT2.0」

トヨタ自動車の中でもとてもユニークな組織である「未来プロジェクト室」。「より自由で活発に移動できる未来を実現し、人々の“移動総量”を増やすために世の中の“一歩先”を創っていく」をビジョンに掲げ、トヨタ自動車が東京、渋谷のオフィスから未来を描こうとするのはなぜか。未来プロジェクト室 室長代理の天野成章氏に話を聞く。

2030年以降の未来を「自分ごと」として考える

堀:未来プロジェクト室の「OPEN ROAD PROJECT」は新たなフェーズに入っているそうですね。

天野:未来プロジェクト室では日々、社会にとって自分たちに何ができるのかを考えながら、活動しています。社会や移動環境の変化のスピードも加速している状況で、コンセプトを考えるだけでは十分ではないと考えました。そこで2017年からは新しいプロジェクトのタネを見つけ、それを芽吹かせるところまでをミッションとすべきではないかと考えはじめ、昨年の夏に「OPEN ROAD PROJECT2.0」へとシフトしました。

 プロジェクトが芽を出し、大きく育つ可能性があるなら、本格的に実証実験やトヨタとして大きなスキームの中に取り込んで行けば良い。ただ、タネはあっても簡単に芽が出るわけではないので、まずは小さなタネを見つけて、うまくいかなければ撤退すれば良いというスタンスで取り組んでいます。
 「OPEN ROAD PROJECT1.0」では、大規模に超小型パーソナルEV「i-ROAD」を使い、そのモビリティだけではなく、周辺サービスも合わせて作ることで「i-ROAD」の価値を広げようとしていました。この取組み自体はとても有意義なものでしたが、時間も投資規模もかかりすぎた。未来プロジェクト室の組織規模では、それだけで手一杯になってしまった。

 その間に世の中も、トヨタが置かれている環境も変化しました。もっと小さく、クイックに私たちも動いていくべきなのではないかということで「OPEN ROAD PROJECT2.0」へと移行したわけです。ただ、未来に向けた活動をリアルな街で試していこうというコンセプト自体は変えていないので、あえてOPEN ROAD PROJECTというプロジェクト名を継承したこともあり、なかなか私たち自身も、一緒にプロジェクトを進めるステークホルダーの皆さんも意識が変わらないところが悩みでもあります。


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堀:「小さく、クイックに」というのは、今、多くの企業が課題としていることだと思います。その課題に、トヨタほどの規模の企業が取り組んでいくことには大変さがあると思います。

天野:おっしゃる通りです。トヨタ自動車も会社規模が大きくなりすぎて、意思決定に時間がかかりすぎる。今のままでは社会の変化に対応仕切れないということで数年前にディビジョンカンパニー制への改革を行いました。
 その際に私たちの室に関しては、クルマの大きさや販売地域にとらわれずに、未来に必要なモビリティやモビリティ―サービスを考えようということで会社直轄の組織として位置付けられました。直轄組織ですが、豊田市の本社にこもっていては発想や外部との交流の幅も限られてしまう、それでは意味がないということでオフィスを渋谷に構えています。

 室のメンバーは30代、40代が中心です。最近は20代後半のメンバーも入ってきましたが、上の世代、50〜60代はほぼいません。その理由は、資質や能力ということではなく、私たちがフォーカスする2030年以降のモビリティやモビリティサービスを「自分ごと」として考えられるかどうかを重視しているからです。
 私も含めて今の30~40代は2030年に、今の「OPEN ROAD PROJECT」で生み出す、芽吹かせるであろうビジネスで飯を食わないといけない。そうなるといい加減にはできない、当事者意識を持って考えることができます。


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トヨタ未来プロジェクト室メンバーの皆さん


 また、メンバー構成では多様性も重視しています。社内の複数の部署を経験していることや文系、理系メンバーを混在させること、社外戦力の積極活用などを通じて、ひとつのチームとして活動することを狙っています。また、トヨタ自動車がモビリティ・カンパニーへと変わっていくための新しいチャレンジをするためには、こうした体制や心構えが必要だということを室メンバー全員が自覚することが大事だと思っています。

消費者視点と社会性の有無を意識し、未来を想像する

堀:未来を見据えた事業は多くの企業がチャレンジしているところです。しかし、未来プロジェクト室では自分ごととして考えようとしているのが特徴ですね。自分の未来を考えることは、自分の生活を良くするという意味ではなく、社会の一員としてより良い未来を作ろうとしているのだと感じます。

天野:「小さく、クイックに」実行することを重視していますが、もっと大事なのは消費者視点に立つことと、社会性があるかどうかです。私たちのプロジェクトは、トヨタ自動車という企業がモビリティ・カンパニーに生まれ変わるためにすべきことを見つけるためにあるのではありません。2030年以降の消費者にも支持し続けてもらえるサービスを提供できるかどうかという視点が必要です。これまではそれが十分にできていなかったように感じています。だから、豊田市で、人知れず技術を磨くだけではなく、大都市で、消費者の生活や価値観、自動車をはじめとするモビリティの使われ方などをみながらプロジェクトのタネを見つけることが大事だと考えています。

 ですからプロジェクトも「トヨタのやりたいこと」ではなく、未来で求められるサービスは何かというバックキャスティングで進める必要がある。そのために「未来年表」がある。「未来年表」は、未来に起こることを当てるためのものではありません。2030年以降の社会がどのようなものか、そこで求められるものは何なのかを考えるために、発想を未来に飛ばすものです。
 今までは、「OPEN ROAD PROJECT」も「未来年表」も個別のプロジェクトとして進めていましたが、基本的に今後は全て2030年以降の未来を想像し、どのようにかたちづくるのかという「OPEN ROAD PROJECT2.0」の概念のなかで進めていきたいと考えています。


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堀:バックキャストで進めると、その未来にはめ込もうという発想が生まれます。特に企業のような組織では顕著だと思います。未来が変化するということは想定していますか。

天野:もちろんです。「OPEN ROAD PROJECT2.0」のプロジェクトは、完璧な事業計画を立ててできることではありません。計画が立てられるようなものであれば、未来室は必要ありませんし、すでにどこかで実行されているはずです。
 社内でも「事業計画は」「投資の回収は何年で」「想定顧客は」と聞かれることはあります。クルマという領域で様々な成功体験を持つ役員や上席の社員たちに、見通しの立たないまま推進するプロジェクトを納得してもらうは非常に難しい。企業や組織は、大きくなればなるほど変わることが難しくなります。実は、「OPEN ROAD PROJECT」の活動をWebサイトなどで公開している理由の一つは、プロジェクトを広く知ってもらうことで、世間に反応してもらい、その反応で社内に意義を理解してもらう狙いもあります。

堀:「モビリティ」という言葉を使っていること自体が、これまでの自動車を作る企業のイメージと違います。

天野:自動車という工業製品は、その特性上、安全性能などさまざまな規制があります。そのため、開発には長い時間がかかり、小さく、クイックに、とはいかない。しかし、今後のモビリティはこれを言い訳にしていては変わることができません。


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Frog 試乗体験会の様子


 いま進めている相乗り式低速度モビリティ「Frog」も、最初はベニヤ板を手動で動かすところから始めました。技術がなくても、多少見栄えが悪くても、そこは重要ではなくて、アイディアのタネを見つけて、未来を動かそうとする意識が大切で、その発想の根底にあるのが「OPEN ROAD PROJECT2.0」であればいい。そしてこのタネを、トヨタだけでは到底芽吹かせることはもはや難しいですので、外部のステークホルダーの方々の力を借り、一緒に形にしたい。トヨタは日本のお客さまに育てていただいたと思っているので、チームジャパンで未来につながるモビリティを誕生させたいと考えています。

~後編に続く(6/28公開予定)~
天野 成章
トヨタ自動車株式会社
未来プロジェクト室 室長代理 兼 イノベーショングループ長

天野 成章

堀 好伸
株式会社クロス・マーケティンググループ
リサーチ・コンサルティング部 コンサルティンググループ コンサルティングディレクター

堀 好伸


<プロフィール>
生活者のインサイトを得るための共創コミュニティのデザイン・運営を主たる領域とする生活者と企業を結ぶファシリテーターとして活動。生活者からのインサイトを活用したアイディエーションを行い様々な企業の戦略マーケティング業務に携わる。「若者」や「シミュレーション消費」を主なテーマに社内外でセミナー講演の他、TV、新聞などメディアでも解説する。 著書に「若者はなぜモノを買わないのか」(青春出版社)、最近のメディア出演「首都圏情報 ネタドリ!」(NNK総合)、「プロのプロセスーアンケートの作り方」(Eテレ)

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