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【前編】調査はアパレルのものづくりに有効なのか TSIホールディングスのマーケティング室の挑戦

高木 敬太

取材担当

株式会社クロス・マーケティング リサーチ・コンサルティング部 コンサルティンググループ チーフコンサルタント

高木 敬太

2019 / 09 / 27

#ファッション,#市場調査

【前編】調査はアパレルのものづくりに有効なのか TSIホールディングスのマーケティング室の挑戦

国内外のアパレルメーカーやブランドを傘下に持つTSIホールディングス。2017年にマーケティング室を立ち上げ、ブランドのサポートを行なっている。ブランドやデザイナーのクリエイティブを打ち出す、プロダクトアウトのイメージが強いアパレル業界にあって、マーケティングを行う理由とは。そして、消費者を知るための市場調査は、アパレルのものづくりにどのような効果を与えているのか。マーケティング室長の加賀谷三平氏と、それをサポートするクロス・マーケティングの髙木敬太氏に話を聞く。

なぜアパレル企業が調査会社とマーケティングをはじめたのか

――今、髙木さんはどのような形でTSIホールディングスさんのマーケティング室をサポートしているのですか。

髙木:リサーチャーとしては3年前からマーケティングのサポートをしていました。この春からは席を置いてマーケティング全体のサポートもはじめています。リサーチャーがクライアント企業に席を置くことは珍しいケースだと思います。より密接に関わることができるので、マーケティングにおいても企業の視点に寄り添った具体的な話ができていると感じます。

加賀谷:リサーチ会社の方にチームに入ってもらうことは、数年前には想像もしていませんでした。マーケティング室での仕事をはじめて、現状の一面を知るうえで調査が非常に重要な意味を持つことがわかりました。一方で、企業やブランドの歴史やそこで働く人、ありたい姿などを理解する努力が調査の価値を左右することも感じはじめました。そして、調査は、決してうのみにするものではなく、ブランドに携わるすべての社員の判断と決断の材料となって、はじめて価値を発揮するものだと実感しています。

 髙木さんには私たちのブランドを理解しようとするマインドを感じました。リサーチ会社として、調査とはこういうものですという型を押し付けず、型をベースに、それぞれの状況に合わせた「いま問うべき事」の調整に向き合ってもらえました。私たちも外部企業に丸投げの調査には懐疑的で、それではブランドが描くありたい姿に近づくための調査はできないと感じていましたので、私たちの活動にコミットして協力してもらえるパートナーとして髙木さんに来てもらうことになりました。


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――調査はどのようなものをされていますか。また、マーケティングの担当部署を新設したばかりの企業との仕事はある種チャレンジなのではないですか。

髙木:一般消費材の場合、商品開発ありきでコミュニケーションの方法を探ったり、発売後の満足度などを聞いたりすることが多い。一方、アパレルは、商品点数も膨大なので特定の商品ということはなく、ブランド調査になります。もう一つは、消費者と共に商品開発を行うための、消費者を理解するような調査です。

 TSIさんのマーケティング部門は、アパレル業界ということもあり、ある意味現代的な、消費者の自己実現への貢献というものを考えています。アパレル業界の場合はブランドが人格的なものを持っていて、思いや届けたい価値のようなものはしっかりとした目線があるので、分析する側としては調査をしても楽しく感じています。ただ、通常の市場調査のように製品のスペックをチェックしたり、開発時の改善点を洗い出したりすることが目的ではないので、そこは難しさがあります。

加賀谷:そうですね。衣料品でも調査に基づくものづくりへの挑戦があってもいいと思います。とはいえ、データ的な正しさだけでは絶対にダメ。消費者の感性を刺激し「なんか、これ欲しい!」と思ってもらうためのクリエイティブの力がなければ、消費者からの支持は得られず、自己満足な活動として終了し、その後継続されないと思っています。

 ブランドによって、データ的なこととクリエイティブなことの間に、ちょうど良いバランスがあると思います。当社は歴史的にクリエイティブを重視し、ブランドを大切にしてきた会社だと思っています。こうした企業文化を維持しながら、時代の潮流はもとより、いまの消費者の理解と、その変化の兆しに常に目を向けなければ生き残れないと思っています。そうした視点を持って、調査などでブランドを支援するのがマーケティング室の役割です。

 消費者の理解の仕方は、ブランドによって異なると考えます。そのため一概に「これ」という定義があるわけではありません。強いていえば消費者の「より良い人生を楽しむ」「より良い生活を楽しむ」に、とことん向き合うこと。そのために出来ることの一つが、店舗やECサイトに訪問したときの顧客体験をより良いものとすること。つまりCX(カスタマー・エクスペリエンス)の向上です。そのための調査や分析を2015年から行っています。

NPS導入は変化のきっかけ その活用の鍵とは

髙木:TSIホールディングスさんでは、具体的な調査手法として、Net Promoter Score(NPS)も取り入れています。アパレル業界では比較的珍しく、マーケティングに対する意識の高さを感じました。

加賀谷:NPSはマーケティング室を立ち上げる前の2015年からスタートしました。業界内でも比較的早い時期に実践している会社だと思います。NPSをはじめたことで、消費者のフィードバックに基づく改善のサイクルが各店舗の日常的な行動に組み込まれ、組織文化が変わるきっかけになりました。TSIでは、店頭で働くスタッフや販売に携わる本部社員中心にNPSに取り組んでおり、消費者からの評価がリアルタイムで可視化されたことによって、私たちの接客やサービスを消費者が今どう感じているのか、知ることができるようになりました。これは、顧客体験の上質化と高度化に留まらず、社員の貢献欲求や承認欲求に寄与しました。


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髙木:店頭で働く人の行動が変わることで消費者に届くものも変わりますね。

加賀谷:2015年から継続しているロールモデルとなるブランド、最近はじめたブランド、両方あります。継続しているブランドでは、そのコメントや評価から「我々の接客サービスが、お客様の声に基づいて変化していることを感じてもらっているな」とわかることもあります。

 設問には、ブランドを通じた素敵なエピソードを聞くものもあります。そこではブランドスタッフとのエピソードや家族との思い出深い体験など、様々な内容が寄せられています。消費者にとっても、そうした思い出深い体験を伝える機会を得られたのだと思います。その表れとして、任意回答ながら、その回答率は非常に高いものです。一方、私たちもブランドへの思いを知る機会とエピソードという財産を得られました。消費者とブランド双方にフィードバックのいい関係性が根付いてきたのは、NPSをはじめたことによるものです。

髙木:NPSではスコアを業界内の平均値と比較したりすることも多いのですが、これを行っていないのは、TSIさんならではですよね。

加賀谷:NPSスコアの比較は意味がないと考えているので、他社はもちろんグループ内のブランドでもそれはしないようにしています。もし、比較するとしても、それはブランド内の店舗同士でする事が正しいというスタンスです。 当たり前の話ですが、それぞれの客層は違いますので、しっかりとその前提に立った上で客観的にスコアを見ることは問題ないと思います。例えば業界内スコアでナンバーワンを目指すという目標設定自体はできると思います。その会社の特性にあっていて、フィードバックループがうまく回るのであれば正しいと思います。自分たちの顧客に対してどのような体験を提供すれば良いのかを考える、そのためにスコアを見ることは良いことです。


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髙木:これまで、ブランドは世界観を伝えることが重要でした。それが今は世界観をどう「体感」してもらえるか、商品を通じて体現するかに、重要視されることが変わってきています。もはやあのブランドを着ていれば間違いない、安心という時代ではない。ファストファッションも台頭して、そうではないブランドは何を表現し、それをいかに体験してもらうかが重要になっている。世界観を一方的に打ち出すだけでは通用しない時代に、NPSのスコアはひとつの指標となります。

加賀谷:世界観はブランドの立ち位置を明らかにするためには必要です。消費者にとっては、このブランドは、心地良いコミュニティーであるかを見極める要素だと思います。とはいえ、テクノロジーの急速な進展もあり、様々な面で多様性が増し選択肢も増え、昔に比べると不特定大多数に向けた世界観というものの重要性は薄まっているのかもしれません。

髙木:NPSを導入する企業は増えている一方で、データは溜まっても活用方法がわからない、活用しきれていないと感じることもあります。

加賀谷: 最近はNPSをうまく活用できていないという企業の方と話をする機会も増えていて、相談されることも多くなっています。全員ではありませんが、大半がスコア偏重型になっていると感じます。

 NPSはひとつの手段です。極端にいうとスコアはどうでもいいし、NPSでなくてもいいのかもしれません。NPSのスコアとコメントをきっかけに行動しなければ、何も変わらないし無意味と考えています。仮にマイナス50というNPSのスコアが出たとしても、悲観したり嘆く必要はない、明日以降それをどうしたいのか、そのために何をするのか、そしてそれは何のためのに…ということを、決して上司の指示や命令ではなく、個人個人が考え、チームとしての考えに昇華させるために、スタート、ストップ、コンティニューのフレームワークに基づいてチームでアクションを考えて、実行に移すことが大事です。

 全員が「自分に何ができるのか」「どのようにすれば…」を考える。我々は、NPS実施上の最上位のルールとして、年齢や役職も関係なくアクションプランを考える場を設定していることは、比較的うまく活用できている要因だと思います。

髙木:定量的なデータと、定性的なデータ。どちらに偏ってもいけないのが難しいところです。

加賀谷:限られた時間を最大限価値あるものにするために、やるべきことの優先順位付けはデータに基づき行っています。 それほど推奨意向に影響のないタッチポイントに時間をかけて一生懸命を頑張るよりも、推奨意向に影響が大きいところに注力した方がお客様にとっても、我々にとっても絶対に望ましい。そのために定量的なデータをもとに導き出されたタッチポイントを中心に改善アクションを考えます。そのとき、どうすればいいかを考える発想のもととなるのが定性的なお客様の声。このように、定量、定性、データによって使い方、生かす場面を分けて考えています。

~後編に続く~
加賀谷 三平
株式会社TSIホールディングス
マーケティング室 室長

加賀谷 三平

高木 敬太
株式会社クロス・マーケティング
リサーチ・コンサルティング部 コンサルティンググループ チーフコンサルタント

高木 敬太

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