これからの時代の企業マーケター 第3回 直接対話したら、こんなことが起きた! | リサーチ・市場調査・マーケティング

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2013/8/9

これからの時代の企業マーケター
第3回 直接対話したら、こんなことが起きた!

これからの時代の企業マーケター<br />第3回 直接対話したら、こんなことが起きた!

最終回は、「鮮度の一滴」のコミュニティーサイト上での実際のお客様との対話の例をご紹介したいと思います。

「鮮度の一滴」は、それまでペットボトルとガラス瓶がほとんどだったしょうゆの容器に、薄いフィルムで構成された逆止弁を備えたパウチタイプの世界初の新容器を採用したもので、開封後の鮮度保持機能を初めて持たせた革新的な新製品です。

半面、詰め替え容器に見えたり、どうやって使っていいかわからないというお客様がいらっしゃることが想定されましたので、365日24時間開設されているネット上のコミュニティーサイトを中心に360度マーケティングを展開することになったのです。

消費者からの厳しい指摘

発売後間もない2009年9月26日、360度マーケティングの一環として積極的なPRを実施した結果、久米宏さんがパーソナリティーを務めるラジオ番組に「鮮度の一滴」が取り上げられました。そして、そのリスナーでハンドルネーム「くめさん」という方から、コミュニティーサイトにクレームという形で書き込みがありました。基本的には紳士的な方で、「鮮度の良いしょうゆ」のすばらしさは認めていただいたものの、容器については「注ぐ意志がないのに、持って傾けただけで『液漏れ』がしてしまうのは明らかに『欠陥構造』です。……今後の改良を切に希望いたします」とかなり厳しい内容でした(図1)

この日の私は休日の土曜日で、ちょうどコミュニティーサイトをチェックしていた時でした。読んだ瞬間、胸が痛みました。実は、このクレームに関しては思い当たることがあったのです。それは、当初の設計では安全を見て満量時でも約60度の角度で深く傾けなければ中身が出ないはずでしたが、初期ロットだけそれより浅い約45度の角度で出始める現象です。

これは袋の耐圧強度が想定値に達しなかったために、急遽、袋を圧着するシール部分の面積を増やしたことで中身の液面が高くなってしまったことに起因するものです。すぐに液面を当初の設計値通りに下げる改善に着手していたのですが、どうしても最初の出荷品だけは間に合わなかったのです。当然関係各署で協議しましたが、45度という傾け角度は注ぐことを意図しない限り発生しにくい、また1~2回使用して中身が減ればすぐに通常の60度の角度になるということから、最終的に出荷OKの判定が出された製品ロットだったのです。

開発担当者が1時間後に直接返信

そこで、私はこの件をちょうど1時間後に全て正直に返信欄に書き込み、お詫びいたしました。これを読んだ「くめさん」はかなり驚かれたようです。その理由のひとつは1時間という短い時間で返答があったこと、2つめは開発担当者自身が詳しい内容の返答をしたことでした。お客様相談室の担当者から平日の営業時間になってから「この度は貴重なご意見を頂戴し誠にありがとうございました。今回のご指摘は開発担当部署に伝え、今後の参考とさせていただきます」みたいなテンプレート的な返答が届くのを予想していたところに、全く違う内容がすぐに届いたのですから驚かれたのは当然かも知れません。

そして、たぶん「くめさん」は技術系の方だったのでしょう。それから1日に何通かずつ4日をかけて技術的な内容を中心に対話がなされました。それも「くめさん」から「こういうアイディアはどうでしょうか?こうなるといいと思うのですが……」、私の返信が「それは面白いかもしれませんね!」とか「それは実際にやってみたことがありますがこういう理由でダメでした」みたいな「くめさん」と私の中身の濃いやり取りでした。

そしてとうとう、最後に「くめさん」からこんな書き込みがありました。「此のたびは、暴言まがいの言葉を交えた小生の苦情に対して、ご丁寧に対応してして頂き、本当にありがとうございました。新商品にかける、会社の並々ならぬご決意を心から感じ取ることができました。小生の一連の投稿は、本日の夕刻迄に削除させていただきます」

そして、これを見ていたユーザーの方々から、「こんな有益な情報を削除してしまうのはあまりにもったいない」「これはメーカーと消費者の新しい関係の良い例だから削除しないで」という声が上がりましたが、残念ながら「くめさん」は約束通り17時に全て削除されたのでした。

しかし、この経験が現在弊社で取り組んでいます「エンジェル(※2)化戦略」の礎になっていることは間違いありません。

受け身のメディア接触も多様化

さて最後にエンジェルがなぜ重要かを整理したいと思います。
(1)何度も買っていただくことで初めてその商品が市場に定着し、新発売時に要したマーケティングコストの回収ができる
(2)同様な価格、ひょっとしたらやや価格が高くても、競合品ではなく自社製品を選択して購入してもらうことができる
(3)より詳しい商品情報を持ってもらえる(ファンなので聞く耳を持ってくれている)
(4)友人などにその商品の良さを広めてもらえる
(5)他の自社製品も買ってもらえるチャンスが増える
(6)マーケターはエンジェルとの対話により、マーケターは新たな「気づき」をもらえ、それが商品の改良、新商品への展開、今までにない使い方訴求などにつながる可能性がある

マーケターが寿司職人のように、お客様と直接対話して、毎日こつこつとファンやエンジェルを作っていきながら、そして新商品や新しい販促手法のヒントを掴んで実務につなげていく、これがこれからの企業マーケターに求められるカタチの1つだと思います。 

以上、3回に渡り、お付き合いいただき誠にありがとうございました。

 

(図1)コミュニティーサイトでのやり取り

(※2)エンジェル化戦略
お客様に何度も自社製品を買っていただき、そして自社製品のファンになっていただき、さらにお友達に対してもその製品の良さを推奨してくださるお客様(エンジェル)を増やす戦略。

ヤマサ醤油 営業本部マーケティング部 副部長職 家庭用MD推進室長 藤村 功

立教大学法学部卒業。52歳。1983年にヤマサ醤油に入社し、東京の家庭用営業を担当。その後91年~2006年まで商品開発を担当し、07年より家庭用商品の店頭販促及びネットコミュニケーションを担当、現在に至る。 

ネットコミュニケーションでは、HappyRecipeコーナーやキャンペーンを充実させたコーポレートサイト、公式facebookページ「醤油の魔術師」と「ぷるんぷるん美活部」、若い女性をターゲットにした公式ファンページYAMASA REDで、顧客とのつながりやネット施策と店頭販促との連動を重視し、総合的なブランド力の強化を目指している。

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