差異化が難しい時代にKDDIが取り組む期待を超える体験価値 【後編】企業も「人格」を持つべき 「良い人」には人が集まる | リサーチ・市場調査・マーケティング

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2019/5/31

差異化が難しい時代にKDDIが取組む期待を超える体験価値 
【後編】企業も「人格」を持つべき 「良い人」には人が集まる

差異化が難しい時代にKDDIが取組む期待を超える体験価値 <br />【後編】企業も「人格」を持つべき 「良い人」には人が集まる

電源の入らなくなった過去の携帯電話を充電・再起動するイベント「おもいでケータイ再起動」は、他社製品や他社ユーザーにも解放されている。そこには企業の論理ではなく、お客さまに喜んでもらいたいという思いがある。差異化が難しくなった時代には、企業も「人格」を持つべきだというKDDI コミュニケーション本部 宣伝部 ブランドプロモーショングループ グループリーダー 西原由哲氏に引き続き話を聞いた。
 

どうすればお客さまに喜んでもらえるのかを考える

堀:「おもいでケータイ再起動」ではどのキャリアの携帯電話でも扱っています。企業としては自社のものに限るという考え方もあると思います。

西原:企画当初からキャリアによる制限は考えていませんでした。“思い出” は誰もが大切に持っているもので、そこには機種やキャリアは関係ないからです。実際、2019年4月末時点で2600人以上の方に体験いただいていますが、他社のケータイや現在他社をご利用の方もたくさんいらっしゃいます。
 ありがたいことに、他社のお客さまから「また来るよ」、「auじゃないのに神対応だね、ありがとう」、「KDDIっていい会社だね」と言ってくださることもあります。結果的に、どのキャリアをご利用なのかは全く関係なく、お客さまとスタッフが感動と笑顔を共有できる独特の雰囲気を生み出せているのではないかと思っています。

 

堀:これからの企業やブランドのあり方として、拡大再生産だけを目指すのではなく、親しみを感じてもらう、「良い人」になる必要があるという話もあります。好感度の高い「良い人」には自然に人、顧客が集まる。
 これはある種の理想論で、利益は企業活動を維持するために大事ですが、機能や品質で差異化が難しくなった今、企業やブランドが「良い人」であることは、生き残りのための武器になる。その点で「おもいでケータイ再起動」はすごく好感度が高い。これからの消費者とのコミュニケーションの一つとしてモデルケースになるように感じます。

西原:私が良い人かどうかは置いておいて…(笑)、どうすればお客さまにもっと喜んでもらえるかは常に考えています。
 マーケティング的な話をすると、この企画を含めた私たちのブランディング活動は即効性は低く、漢方薬のようなものだと考えています。売上には直結しないものの、「おもいでケータイ再起動」に参加いただいた方は、おそらくずっと体験したことを覚えていていただけると思います。また、他社のお客さまでも、この体験価値を通じてKDDI(au)に企業として好意を持っていただき、例えば契約更新時に選択肢のひとつに入ることだけでも十分ありがたいです。
 今後、通信業界を取り巻く環境はますます激化し、差異化のポイントも減っていくでしょう。そこで違いを出せることのひとつは、このようなお客さまに寄り添っていく活動だと思います。ブランディングの仕事としては、どうすればお客さまが喜ぶのかを考える、想像力の世界だと思います。マーケティング活動はもっともっとデジタルを活用していくのですが、ご提供したい価値の考え方や想いにはアナログな発想が必要だと考えています。
 「良い人」とおっしゃっていただいたように、企業も人格を持つべきだと思います。その人格は企業によってさまざまで良い。私たちはお客さまに寄り添っていく方向性が良いと考えていますが、それぞれの企業が人格を持てば、個性となってお客さまがずっと付き合っていく企業として選ぶときの判断基準のひとつになるのではないかと思います。

 

お客さまの喜びは社員のモチベーションも変える

堀:「おもいでケータイ再起動」は、直接的なユーザー獲得よりも好意を感じてもらうことを目指しているということでしょうか。
 好感度はすぐに利益につながるわけではない、効率は悪いものの、関係性は深くなります。

 

西原:KPIはまさにブランド好意度を高めることです。確かに効率は良くありませんが、私たちはお客さまとの関係性の深さを重視しています。
 先日、大阪で開催したときは、イベント期間中にテレビの情報番組で紹介されたこともあり、参加者が殺到することが予想されました。私たちはお客さま一人当たりの対応時間を短くして人数をこなすのではなく、一人ひとりの対応時間をゆっくり取れるようブースを増やす選択をしました。その判断は私がしたのではなく、スタッフからそうした声が出たのです。何を重視するのか、社内でも意思統一ができてきていると感じました。

堀:中小規模の企業なら効率の悪いことにもチャレンジしやすいと思いますが、KDDIさんのような企業規模でこうしたチャレンジをするのは難しかったのではないでしょうか。

西原:「おもいでケータイ再起動」は3年前にテスト的に実施したのですが、正式に活動開始するまでには社内でいろいろな壁もありました。ところが、経営層から「この活動はもっと広げていきたいね」と意見が出て、そこから社内の雰囲気も変わったのです。会社のトップがこのような意識を持っていたことはとても心強く、自分の会社がもっと好きになりました。こうした企業の判断や姿勢が私たちの取り組みから伝わって、企業の「人格」として浸透すれば嬉しいです。
 イベントは多くの社員が協力してくれていて、地方で開催するときは現地の営業担当社員だけでなく、総務管理系の業務や技術部門や基地局の保守を担当する社員たちも自発的に参加しています。
 技術や保守の社員たちは、日々、通信をつなぐために日夜業務にあたっていますが、基本的につながって当たり前の世界です。そうした社員が、ユーザーと対面し、感謝される。自分の仕事がお客さまの喜びにつながっていることを実感できる機会はなかなかないので、みんなが率先して協力してくれています。実は、顧客満足(CS)だけでなく、従業員満足(ES)にもつながっていると感じています。

 

堀:「おもいでケータイ再起動」は継続するものですか。今後の展開はどのように考えていますか。

西原:継続しながら、新しい価値も加えていきたいと考えています。私たちのアセットだけではなく、同じような志を持った企業と一緒に活動することで、さらに新しい価値を生み出すこともできるのではないかと考え、実際に動きはじめているところです。
 すでに、KDDIが提供しているのは通信だけに留まらず「通信とライフデザインの融合」と言っているように、通信を軸にお客さまの生活全般にサービス範囲が広まっています。これから5Gが実用化され、IoTなどの技術が進むと、この通信とライフデザインの融合はさらに強まるはずです。
 そのなかで、いかに体験価値や付加価値を提供し続けていけるのか。今回は昔の携帯電話のデータを復活させることで喜んでもらう体験価値を提供しましたが、これからは最先端の技術も使いながら、お客さまに体験価値をご提供し、KDDIを身近な存在に感じてもらい、ワクワクしてもらえるような企業にしていきたいと考えています。

 

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 取材後記「インサイトスコープ」
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 今回の取材では、西原さんの心の温かさを感じました。「おもいでケータイ再起動」は売上には直結しない、しかしユーザーにとっては忘れらない体験価値を提供しています。さらに、プロジェクトに関わる社員も「自分の会社が好きになる」。この気持ちがお客様にも伝わり共感を得ているのだと思います。
 より早い成果を求められる現在のマーケティング活動では、真似をすることは難しいかもしれません。ただ、どんなにテクノロジーが進み高度なマーケティングが可能になっても、作り手側自身も「好き」という気持ちを持つことが基本ではないでしょうか。

~取材担当/堀 好伸(株式会社クロス・マーケティンググループ)~

 

KDDI株式会社 コミュニケーション本部 宣伝部 ブランドプロモーショングループ グループリーダー 西原 由哲

1997年、DDI(現KDDI)に入社後、コンシューマ事業の販促・営業や経営管理、宣伝/広報領域でのコミュニケーションプランニングや広告制作、PR業務など幅広く経験。現在はデジタルやリアルでのブランドコンテンツ企画や、コンテンツマーケティング視点でのオウンドメディア「TIME&SPACE」の企画・運営など手法ニュートラルでの企画を通じ、KDDI/auのブランドプロモーションを担当。

株式会社クロス・マーケティンググループ マーケティング本部 プランニングディレクター 堀 好伸

生活者のインサイトを得るための共創コミュニティのデザイン・運営を主たる領域とする生活者と企業を結ぶファシリテーターとして活動。生活者からのインサイトを活用したアイディエーションを行い様々な企業の戦略マーケティング業務に携わる。「若者」や「シミュレーション消費」を主なテーマに社内外でセミナー講演の他、TV、新聞などメディアでも解説する。著書に「若者はなぜモノを買わないのか~シミュレーション消費という落とし穴」(青春出版社)。

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