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2019/7/19

【前編】急速に注目度が高まる「eスポーツ」 プレーヤーと統括団体が語るその理由

【前編】急速に注目度が高まる「eスポーツ」 プレーヤーと統括団体が語るその理由

プロゲーマーとはいかなる存在かパイオニアが語る実態

2018年にインドネシアで開催されたアジア競技大会の参考競技として実施されたこともあり、日本でも注目度が高まっているeスポーツ。将来的にはオリンピックでの正式競技への採用も噂されている。今回は「ストリートファイターVアーケードエディション(ストV)」のジャパン・eスポーツ・プロライセンスを持つプレーヤー、板橋ザンギエフ氏に話を聞いた。
 

「プロ」として意識する「縦」と「横」の活動

堀:プロライセンスを取得する以前からも海外の大会に参加されていたそうですね。

板橋:そもそも日本では「プロ」という存在がいなかったので、単純に上手くなりたいと言う気持ちでやっていました。言うなれば「ハードな趣味」のような感じで、仕事をしながら可能な範囲で海外の大会に参加するような生活をしていました。

堀:現在は「プロ」として活動しているわけですが、そのきっかけは。活動としては大会に参加することが中心ですか。

板橋:ちょうど「ストV」をプレーするかどうか決めかねていたタイミングで所属している「DetonatioN Gaming(デトネーション ゲーミング)」に声をかけてもらって、やってみようかなと思ったことがきっかけです。まだプロになった、成功したとは言えない、なろうとしている途中といった感じです。
 本業は「ストV」の大会に出場することです。活動としては、縦軸と横軸があると考えていて、縦は「ストV」を上手くなること、大会で勝つこと。横というのは、私は「ストV」のプロプレーヤーではありますが、ゲーム自体が大好きなので、ほかのゲームタイトルをプレーしているところを動画で配信したり、新作ゲームのプロモーションに協力したりすることでゲーム市場、すそ野を広げる活動です。
 どちらも大事な活動ですが、今はあまり勝てていないと自覚しているので縦をしっかりやらないといけないなと思っています。

堀:eスポーツのプロとアマチュアの違いはどこにあるのでしょう。収入は大会の賞金が主になるのですか。

板橋:よく聞かれる質問ですが、スポンサーがついている人、専業で食べていける人、プロ意識を持っていればいいという人もいますし、いろいろな意見があります。
 大会に出場して、勝つことはもちろん大事なのですが、それだけではなく観戦した人に「あの人盛り上げたよね」と話題になることも重要です。そこはプロとして活動している人はみんな、意識的か無意識的かは別としてそこは考えていると思います。
 賞金を得られるようなプレーヤーはかなり技術レベルも高く、ほとんどがどこかの団体に所属しているか、スポンサーがついているので、団体との契約金や賃金、スポンサー収入を得ているはずです。個人的には、賞金はボーナスのような感覚です。企業で働く人が毎月のお給料で生活をしているように、ボーナスで生計を立てているわけではないと思います。賞金があるに越したことはありませんが、それ以外で生活を成り立たせるのが理想です。

堀:大会は国内も増えていますか。その大会はどういった形式で行われるのでしょうか。

板橋:主戦場としているのは海外で、昨年は20回以上海外へ行きました。この1〜2年で国内でも大会は増えていますし、規模も大きくなっています。大会の数は大小問わずすごくたくさんあるので、出るべきものを取捨選択しています。
 開催方式も多種多様で、「ストV」の主要大会である「カプコンプロツアー」は、年間を通じて世界各地、あるいはオンラインでトーナメントを開催し、ポイントを獲得していきます。そのポイント上位のプレーヤーが年間チャンピオンを決める「カプコンカップファイナル」へ進みます。
 もちろん、単発の1日から数日間で完結する大会もありますし、日本国内では大会の上位入賞者に海外の大会への参加権を与えるものもあります。

 

©︎XFLAG

練習は1日10時間におよぶことも、プロゲーマーの日常

堀:プロスポーツ選手は、シーズン中は練習と試合の繰り返しです。eスポーツの選手はどのような日常を過ごしているのでしょうか。

板橋:基本的に自由です。仕事やその打ち合わせがあるケースもありますが、それ以外は自由時間なので、そこをどう使うか。最近は縦、練習をメインにする必要があると感じているのでプレー時間を多くしています。逆に、一昨年は割と早い段階で年間ポイントを稼ぐことができていて、横に広げようとしていたので一ヶ月近く練習しない時期もありました。
 練習は、1日に10時間近くすることもあります。その内容は人によります。私はゲームをプレーすることが一番強化につながると考えているのでゲームをしていますが、ジムに行って体を鍛えるという人もいます。大会によっては朝の9時に集合して、夜の11時くらいまでやることもありますし、参加者が多い、大会の進行、会場スペースなど、さまざまな事情から立ったまま自分の出番を待つようなこともあるので、体力は必要です。私自身は水球をやっていて、どちらかというと体育会系で体力に自信があるので、体力づくりよりもプレーに注力しているということです。
 精神力も大事です。大会で緊張して実力が発揮できないと結果は出ません。これも人それぞれで、私は大舞台ほど勝負強いと感じているので、自分の強みをふまえてプレーすることで結果を出そうとしています。個人的な感覚でいうと、だらしないプレーをしてしまうときは、生活もだらしなくなっているような気はしています。

堀:体力や反応速度が大事となると年齢が若い方が有利になってしまうのでしょうか。

板橋:「ストV」でいうと反応よりも経験、反射的なプレーよりも経験にもとづいた老獪なプレーの方が有利だと思います。ゲームタイトルによっても違う面はあるので、First Person Shooter(FPS)という一人称目線の射撃ゲームなどは反応も大事になるかもしれません。
 ただ、反射神経で優劣が左右されるゲームは浅い、やり込み要素が少ない。反応速度や経験、どの要素で優劣を競うのか、いろいろな勝ち方がある方がゲームとしてもやり込み要素が多いですし、そうしたゲームの方が競技性も高いのではないでしょうか。そこはゲームを開発する側も考えていると思います。
 私と同じ「ストV」のプレーヤー、ウメハラは、ストリートファイターにおける代表的な必殺技である「波動拳」を、前身のタイトルのときから含めて、もう20年近く打ち続けています。この技の役割や意味も、タイトルの進化に合わせて変化していますが、彼自身も変化し、アップデートし続け、勝っています。

堀:テクニックや経験、体力も必要という面はスポーツ的です。一方で、アップデートという要素は従来のスポーツにはあまりない考え方です。

板橋:成功体験があるとなかなか変えにくい、そこに固執してしまう人もいます。ウメハラのように、今も最前線で活躍している人たちは例外なく「今」のシーンに向き合っています。そうしたプレーヤーは、今後タイトルが進化しても変わらずプレーを続けていくでしょう。

堀:eスポーツは見る側もある意味プレーヤーでもありますし、見る側とプレーヤーの距離が近いように感じています。

板橋:そういう話は聞きます。アイドルも最近は「会いにいける」と言われていますが、野球やサッカーなどのスポーツ選手とファンがコミュニケーションをする機会は基本的にないそうです。
 私もプレー動画を配信しています。そこにコメントしたり、されたりすることでコミュニケーションを取っているので、距離の近さを感じることはあります。ゲームプレイだけでなく、例えば大会を振り返ることで共通の話題で盛り上がることができます。

堀:距離の近さは、見る側がプロになる可能性も感じやすいという面もありますか。

板橋:そこは逆に、トッププレーヤーのプレーを動画で見ることで、ちょっと上手いくらいの人がそのゲームをあきらめてしまうという現象も起きていて、問題になりはじめています。
 ただ、国籍や性別、ネットワークさえつながっていれば場所も問わずにプレーできるので、間口は広いかもしれません。障害を持った方もプレイしているのをよく見かけます。とある大会で、ハンデを微塵も感じさせない魅力的なプレイを見て、感動したことをよく覚えていますね。

 

「eスポーツ」は「スポーツ」なのか プレーヤーとしての見解

堀:お話を聞いているとプロのアスリートそのものといった印象ですが、「eスポーツ」という名称に「スポーツ」とついていることに関して、感じることはありますか。

板橋:「ゲーム」と一言でいっても、人によってイメージするものが違うと思います。「eスポーツ」「プロゲーマー」も同じで、すごく曖昧なところが違和感や齟齬に繋がってしまうことがあります。
 競技という点で考えるとどのようなものでも真剣勝負で、勝敗があり、そこに生活がかかっている、そういうことをゲームでやっているという言い方で伝わればいいなと思います。スポーツといってもカラダを動かすわけではないので、野球やサッカーよりも、将棋や囲碁のようなものをイメージしてもらうと理解しやすいのかもしれません。

堀:将棋や囲碁は養成所があり、そこから厳しい条件をクリアしてプロになります。eスポーツはそこに決まったルートはまだありません。これからプロゲーマーを目指す人はどうすればいいのでしょう。

板橋:それは最近になってよく聞かれるようになりましたが、こうすればプロになれるという話よりも、今、プロになっている人はこういう人だよ、という話をしています。今、プロとして活躍している人はみんなゲームが好きな人で、プロを目指していたというよりは好きでゲームをしている人たちです。
 人によっては30分くらいすれば飽きてしまう人もいるようですが、私も含めてみんないくらでもゲームをし続けられる。やはり好きであることは大事です。ライセンス制度ができたから「プロ」と「そうでない人」の線引きが生まれたわけで、プロのなり方にも今の段階では決まったルートはありません。「プロ」の定義も含めて、今少しずつ形作っているところだと思います。

堀:スポーツでは「引退」するタイミングがあります。ゲームではそうしたタイミングがあるのでしょうか。

板橋:私も世代としては上の方なので、いつまでできるのかは考えています。今後のモデルケースとして、ひとまずできるだけ続けようと思ってはいますが、3年後どうなっているのか自分でもわかりません。そもそもプレーするゲームが流行っているかどうかもわからないですし、自分に合ったキャラクターがいるのかもわからない。また人気のあるタイトルでも今後どうなっていくかはわからない、先行きの不透明さは常にあります。
 ただ、市場が拡大すると解説やコーチ的な役割も含めて周辺の存在も活躍の場が増えていくはずなので、引退するとすぐに生活できなくなるということはないのではないかとも感じています。一時的にプレーヤーを休んでも、何かのタイミングで戻ることもできるかもしれません。見る側としてはややこしいかもしれませんが、そこもeスポーツの特徴だと思います。

堀:見る側とプレーヤーの距離の話もしましたが、これから市場が拡大するためには「見る」だけのライト層、いわゆる「にわか」の存在が増えることも重要です。これから見ようとする人はどこを楽しめばいいのでしょうか。

板橋:見所はいろいろあると思います。野球やサッカー、将棋などと同じでライバル関係や人間関係のドラマがあるので、そこに面白さを見つけてもらえるといいなと思います。
 例えば可愛らしいキャラクターが魔法を駆使してバトルを展開するような場面もありますが、これは現実では不可能で、ゲームにしかできないことですし、そのキャラクターもアニメ作品などとコラボレーションして参加しているケースもあるので、ゲームやアニメなどのコンテンツのクロスオーバーも楽しんでもらえるのではないかと思います。
 格闘ゲームはまだ見られることへの意識が進んでいなくて、実況と解説に頼っている面が大きい。他ジャンルのチーム同士で対戦するようなゲームでは、プレーヤーが見ている視点とは別に、観戦モードがあるものもあります。俯瞰した「神様視点」で両陣営の動きが見えると、ゲームの見方は大きく変わります。格闘ゲームでも観戦を意識した仕組みが工夫されれば、より楽しんでもらえるようになるでしょう。

 

堀:これからのeスポーツ界について、プレーヤーの視点でどのようになってほしいと考えていますか。

板橋:スポーツでも野球やサッカーと種目が分かれているように、eスポーツも「ストV」や「ウイニングイレブン」などたくさんのタイトルがあります。
 柔道選手がバスケットボールのことを知らないのと同じで、私自身、別のタイトルのことの詳しいことはわかりません。今、学校でも「eスポーツ部」ができはじめていますが、それでは「スポーツ部」といっているのと同じなのでは?と、ちょっと違和感を感じています。そういった認識を深めてもらえるよう、今後も精一杯プレーしていきたいですね。

 

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 取材後記「インサイトスコープ」
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 プロゲーマーとは初めてお会いしました。どのような人なのか。eスポーツはスポーツなのか。板橋ザンギエフさんお会いして、eスポーツの印象は変わりました。
 技術や経験、精神力そしてルールや内容が常に進化するゲームに真剣勝負で向き合っている。その姿は正にこれからの時代のスポーツです。今後、もっとプロゲーマー注目され日本でeスポーツが発展することに期待します。

取材担当/堀 好伸(株式会社クロス・マーケティンググループ)


~後編に続く(7/26公開予定)~

 

プロゲーマー 板橋ザンギエフ

1981年生まれ。早稲田大学理工学部卒業。通称、板ザン。「バーチャファイター」「ストリートファイター」といった格闘ゲームを中心に、国内外の大会で優勝・入賞実績多数。2016年6月、プロeスポーツチーム「DetonatioN Gaming」加入を発表。加入後の主な戦績は、闘会議GP大会 優勝、「CAPCOM CUP 2018」準優勝など。「OPENREC.tv」ではライブ配信なども行っている。
https://www.openrec.tv/user/itazan

株式会社クロス・マーケティンググループ マーケティング本部 プランニングディレクター 堀 好伸

生活者のインサイトを得るための共創コミュニティのデザイン・運営を主たる領域とする生活者と企業を結ぶファシリテーターとして活動。生活者からのインサイトを活用したアイディエーションを行い様々な企業の戦略マーケティング業務に携わる。「若者」や「シミュレーション消費」を主なテーマに社内外でセミナー講演の他、TV、新聞などメディアでも解説する。著書に「若者はなぜモノを買わないのか~シミュレーション消費という落とし穴」(青春出版社)。

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