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急速に注目度が高まる「eスポーツ」 プレーヤーと統括団体が語るその理由

【後編】プレーヤーが活躍する「場」を増やしスターを生み出す JeSUの担う役割

2019 / 07 / 26

#生活 文化

【後編】プレーヤーが活躍する「場」を増やしスターを生み出す JeSUの担う役割

2018年2月に活動を開始した日本eスポーツ連合(JeSU)は、日本eスポーツ協会とe-sports促進機構、日本eスポーツ連盟の3団体を統合して誕生した。日本国内のeスポーツを統括する団体ができたことで、2018年のアジア競技大会への選手派遣も実現している。今回は、JeSUの副会長であり、ゲーム情報メディアファミ通グループの代表も務める浜村弘一氏に話を聞いた。

海外との違いはクリエイターやプレーヤーへの「敬意」

堀:まずはあらためて浜村さんとeスポーツとの関わりをお聞かせください。

浜村:大学を卒業した1985年に、アスキーに入社しました。学生時代からゲームについて雑誌に寄稿していたこともあり、「ファミコン通信」(現「週刊ファミ通」)は創刊から携わっていました。ずっとゲーム業界にいるので、eスポーツとも自然に関わるようになりました。
 JeSUの設立については、もともと日本eスポーツ協会やe-sports促進機構、日本eスポーツ連盟といった団体があり、それぞれに活動をしていたのですが、それらが統合するきっかけになったのは、昨年のアジア競技大会です。日本オリンピック委員会(JOC)から選手を派遣するには、国内を統括する団体が必要だと指摘されたことです。

 加えて、世界ではeスポーツが盛り上がっているのに日本ではなかなか市場が広がらないという状況は、日本の法規制の問題もあった。賞品付大会を開催するにあたっては不当景品類及び不当表示防止法(景表法)や刑法の賭博及び富くじに関する罪(賭博罪)、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)など、多くの規制をクリアしなければなりませんでした。そのためにも団体が一つになって対処していく方が良いと考え、ゲームIP(Intellectual Property/知的財産)ホルダーの団体である一般社団法人コンピュータ―エンターテインメント協会(CESA)や一般社団法人日本オンラインゲーム協会(JOGA)の協力のもと、JeSUを設立しました。

堀:法規制はどの問題が一番難しかったのでしょうか。

浜村:まだ完全に解決はできていません。大会の賞金を目当てに商品を買わせているのではないかという疑いで抵触しそうな景表法については、JeSUが提唱するプロライセンス制度でひとまず解消しています。興行のなかで高度な技術を見せていれば「仕事」とみなされるので、JeSUが「プロ」としてのライセンスを発行することでそれを担保し、その懸念を取り除きました。

 賭博罪については、参加者からお金を取って、勝敗で取り分を決めるという大会方式ではない形にすることで、調整をしています。
 難しいのは風営法です。歴史的にゲームセンターが風俗営業に組み込まれてしまっていたために、今も敷地面積の10%を占める広さでゲーム機を並べると取締りの対象になってしまいます。ネット対戦では問題にはならないのですが、eスポーツでは人を集めて、観客のいる場所でゲームをすることも一つのスタイルになっているので、風営法を避けて通ることはできない。開催する「場」を用意する段階で問題になるのは非常に厳しい。こうした課題に取り組み、整備することもJeSUの役割です。


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堀:長らくゲーム業界を見続けてきて、世の中の見方は変わっていますか。eスポーツが注目されるようになりましたが、世の中の評価としては「eスポーツ=ゲーム」、遊びの一部だとされているようにも感じています。

浜村:特に日本ではその傾向が強いです。最近は配信が中心になりつつありますが、パッケージで販売されるゲームは2000万本売れることもある。ハリウッド映画でもそこまで売れているコンテンツはないので、製作側にとってもゲームは魅力的なビジネスです。制作費も、人気タイトルでは100億近くになるものもあります。

 欧米ではエンターテイメントを作る人に対する敬意が非常に高く、ゲームもその一部として認知されています。任天堂の宮本茂さんはイギリス女王から名誉騎士の称号を受けていますし、ゲームクリエイターの小島秀夫さんも非常に有名です。作る側の人間が尊敬を集めると、そのゲームをうまくプレーする人にも敬意が寄せられます。
 そうしたゲームに携わる人を評価する動きは日本では見られません。作る側が尊敬されないのに、プレーヤーだけが評価されることもありません。海外と日本でのゲームを取り巻く環境の差は、まだ大きいのではないでしょうか。

堀:eスポーツは、選手とファンがインターネットやソーシャルメディアなどを介してコミュニケーションを取りやすい印象があります。

浜村:従来の野球やサッカーといったスポーツはテレビを見る人が育てたスポーツだと思います。一方でeスポーツはインターネットユーザーが育てたもの。その違いは双方向性です。
 テレビは放送される映像を見るだけですが、ネットは例えばニコニコ動画など、見る側がコメントをリアルタイムで投稿することができます。中継だけでなく、会場へ行ってもプレーヤーと観客が近い目線でコミュニケーションできます。秋葉原にあるeスポーツ施設では「A」「B」「C」と競技ランクでゾーンが分かれています。「A」のゾーンにはプロがいて、タイミングが合えば対戦したり、写真を撮ったりできます。

堀:既存のスポーツはチケットを買ってスタジアムで見ることが当たり前でした。eスポーツは配信もあるので、観客がお金を払わないケースもある。プレーも無料という場合もある。

浜村:「無料」ではなくフリーミアムだと認識しています。プレー動画の配信も、基本的に無料でもできますが、その再生回数が増えると広告収入が発生する。視聴者が「投げ銭」という形でサポートもできます。
 配信で人気を集めたり、大会で優秀な成績を残したりすると、スポンサーがつくこともあります。決して無料なのではなく、ネットの世界ならではのフリーミアムの仕組みが回っているのです。

スタープレーヤーを輩出することがeスポーツの地位向上にもつながる

堀:JeSUでは、eスポーツの普及・促進のためにどんな取り組みをされているのでしょうか。

浜村:まずは法律関係の調整も含めて、海外ではなく日本国内で賞金大会を開催できる環境を整えました。大会ができればプレーヤーが活躍する場にもなります。2019年に茨城で国体文化プログラムとして開催される全国都道府県対抗eスポーツ選手権などでプレーヤーが活躍すれば、スポンサー獲得の機会も広がります。また、JeSUのWebサイトでは、ライセンスを所有しているプレーヤーのデータベースを公開しています。顔写真、プロフィール、戦績など、必要な情報を選んで検索することもできます。
 最近は、eスポーツに関心のある企業や自治体などからも問い合わせがあり、地域の活性化を図るためにその地方の出身選手を探すという動きも出てきています。JeSUとしては、プレーヤーが活躍する機会を増やすことを行なっています。

 また、プレーヤーを日本代表として国際大会へ派遣することにも力を入れています。国内外で、例えば昨年のアジア競技大会やこれから開催される国民体育大会、将来的にはオリンピックで、既存のアスリートが活躍する場でeスポーツのプレーヤーが活躍し、スターが生まれれば、世間の評価も大きく変わると考えています。
 昨年のアジア競技大会で実施された「ウイニングイレブン2018」で金メダルを獲得した相原翼選手は、N高等学校という通信制高校のeスポーツ部員でした。シード選手たちを破り、日本代表に上り詰めて、金メダリストになったシンデレラプレーヤーです。
 最初はおとなしい印象の少年だったのですが、東アジアの代表になったときにはしっかりと人の目を見て「良い色のメダルを取ります」と話せるようになって、本当に金メダルを取って帰国しました。彼のお母さんもその成長に涙するほどでした。
 その後、プロになって、今はテレビ番組にも出演し、スタープレーヤーの仲間入りをしました。そうした選手をたくさん生み出す、その環境づくりはJeSUの役割のひとつだと思います。

堀:スターを生むためにはプレーヤーの裾野が広くないといけません。


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浜村:今、日本国内でゲームをプレーする人は約4900万人います。これほどの競技人口がいるスポーツは他にありません。その人たちは大会参加やゲーム実況の配信で収入を得る可能性を持っている。すでに普及とプレーヤー輩出のエコシステムが生まれています。

堀:トッププレーヤーになるのは難しくても、参入のハードルは低い。板橋ザンギエフさんも話していましたが、体が不自由でもトッププレーヤーになれる。そうした方向性の参加しやすさもあります。

浜村:そうですね。野球やサッカーのように広大なスペースは必要ありません。配信なら自室で放送設備があればできる。
 eスポーツは年齢も性別も関係なくプレーできます。茨城国体には11歳の選手が出てくると聞いていますし、スウェーデンには平均年齢65歳のプロチームもあります。体が不自由な人でもプレーできます。実際、そうした人が国体にエントリー可能かという問い合わせも入っています。今後、5Gの時代になれば、通信の強度などによる環境の差もなくなるはずです。
 年齢や性別、ハンディキャップなどで何かを諦めなければならなかった人たちが、諦めずにチャレンジできる。これもeスポーツの特徴です。JeSUとしては、すべての人が大会に参加できる体制作りにも取り組んでいく必要があると感じています。

堀:競技人口の少なくない部分は、スマホゲームという人も多いのではないでしょうか。スマホゲームは課金やガチャという要素が大きく、競技性という面では違いがあるのでしょうか。

浜村:スマホゲームでも人気の「モンスターストライク(モンスト)」「パズル&ドラゴン(パズドラ)」など、eスポーツ大会が開催されている、競技性を高めたタイプもあります。中国でも競技性を楽しむタイプがあるゲームタイトルは発表されていて、3億人がプレーしています。「フォートナイト」というゲームは課金の要素もありますが、課金がゲームの攻略とは関係がありません。そうしたゲームも増えています。

「eスポーツ」は日本のスポーツに対する認識を変えられるか

堀:ユーチューバーも当初は怪しい目で見られていましたが、今ではYouTube内にとどまらず活躍していますし、子供の憧れの職業になっています。プロのプレーヤーが活躍し、露出が増えると社会の方が変わっていくでしょう。

浜村:稼ぐことができるという要素も大きい。ユーチューバーも、かつては漫画家もそうでしたが、収入の多寡が尊敬の源になることもあります。韓国では5億円近く稼ぐプレーヤーもいて、若者のなりたい職業トップ10にはプロゲーマーが入っています。

堀:プロゲーマーが地位を得られるようにするためにも活躍の場が大事になりますね。

浜村:そこはJeSUの大きな役割だと思っています。オリンピックでは来年の東京と2024年のパリでエキシビジョンとして行わる予定です。2022年のアジア競技大会で正式種目として採用されるとメダルの獲得数も他のスポーツと同様にカウントされます。その次の2026年のアジア競技大会は名古屋で開催されるので、日本でも盛り上がることが予想されます。2028年のロサンゼルスオリンピックで正式種目になれば、だいたい2年ごとに節目がある。この10年くらいで地位をあげられるのではと考えています。


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堀:ネットの社会はスピード感もあるので、もっと早く広まる可能性もあります。

浜村:そうですね。ただ、「eスポーツ」という言葉が日本では足かせになるかもしれないと感じています。日本では「スポーツ」という言葉に「体育」の要素が含まれてしまっています。
 NHKの大河ドラマ「いだてん」でも、日本体育協会の嘉納治五郎さんが金栗四三さんをマラソンでオリンピックに派遣しようとして「遊びにお金をかけるなんて」と反対される話があったように、日本では歴史的にスポーツは身体を育む体育という意識は根強い。金栗さんはオリンピックへ行きましたが、その後2回のオリンピックを経ても女性が参加することは許されなかった。そうした日本人固有の潜在意識もあるのか、「なんでeスポーツはスポーツなの」という人は多いです。

堀:日本人は精神論、根性論に頼るところも多い。

浜村:一方eスポーツのプレーヤーはみんな楽しそうにプレーしています。そこのギャップを埋めることには時間がかかるかもしれません。

堀:板橋ザンギエフさんは、学校の「eスポーツ部」というまとめ方は少し乱暴かもしれないと話していました。

浜村:私はパソコン教育の一環として、「パソコン部」で良いと思っています。そのなかでeスポーツも扱ってもらえば。学校については、海外でも大学の対抗戦は行われているのですが、それ以下の世代になるとまだ理解は進んでいないようです。というのも、ゲームの敵はいつも「お母さん」なのです。

堀:「ゲームばっかりしてないで勉強しなさい」ということですね。

浜村:私は学校や家庭での意識も含めて、プレーヤーの活躍の場を作り、スターを生み出すことがeスポーツを取り巻く環境を変えるためには大事だと考えています。

取材後記「インサイトスコープ」

ゲームをプレイすることがスポーツ?と思われる人も多いと思いますが、世界中でeスポーツが盛り上がっています。日本でも企業が協賛した大会も始まっています。ただ、法整備やプレーヤーの環境などが発展途上となっています。ゲームを遊びから一つの大きな産業や文化として世界が求めつつある今、日本がガラパゴスにならないようJeSUには期待したい。スターが誕生するのも楽しみです。

堀 好伸(株式会社クロス・マーケティンググループ)

浜村 弘一
一般社団法人日本eスポーツ連合 副会長
株式会社KADOKAWA デジタルエンタテインメント担当シニアアドバイザー

浜村 弘一

堀 好伸
株式会社クロス・マーケティンググループ
リサーチ・コンサルティング部 コンサルティンググループ コンサルティングディレクター

堀 好伸


<プロフィール>
生活者のインサイトを得るための共創コミュニティのデザイン・運営を主たる領域とする生活者と企業を結ぶファシリテーターとして活動。生活者からのインサイトを活用したアイディエーションを行い様々な企業の戦略マーケティング業務に携わる。「若者」や「シミュレーション消費」を主なテーマに社内外でセミナー講演の他、TV、新聞などメディアでも解説する。 著書に「若者はなぜモノを買わないのか」(青春出版社)、最近のメディア出演「首都圏情報 ネタドリ!」(NNK総合)、「プロのプロセスーアンケートの作り方」(Eテレ)

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