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【新しい時代のリサーチ 第4回】
「RDIT 世界的パンデミックの中で生まれた調査手法」

岸田 典子 (きしだ のりこ)
(株)クロス・マーケティンググループ
クロスラボ 研究員

岸田 典子 (きしだ のりこ)

2017 / 02 / 03

#テクノロジー

【新しい時代のリサーチ 第4回】<br>「RDIT 世界的パンデミックの中で生まれた調査手法」

第2回第3回のコラムでは、RDIT(アールディット:Random Domain Intercept Technology)が、普段は世論調査に協力しない政治的な関心の低い人も含めてランダムに回収することによって、昨年の米国大統領選挙やヨーロッパの国民投票において極めて精度の高い予測を実現したことを取り上げました。このようにRDITは、常に変化する状況の中で人々の意見を正確に把握する非常に高いポテンシャルを持っているのです。



シリーズ第4回となる今回は、RDITを運営しているRIWI社のCEOであり、RDITの開発者であるニール・シーマン教授(以降、シーマン教授)によるRDITの開発の背景とそのビジョンをご紹介します。

RDIT:パンデミックの中、正確な情報をつかむために生まれた調査手法

2009年に発生した新型インフルエンザ(H1N1型)大流行の際、世界の公衆衛生を改善するミッションのために働いていたシーマン教授は、世界中で刻々と進行する状況を正確に把握する必要がありました。パンデミック発生期間中における乏しい資源や人員の配分、社会政策の判断材料として、感染が発生した国全体の状況を把握し、複数の国々と比較しながら正確な情報を得ることは必要不可欠で差し迫った課題でした。

しかし当時は、従来のパネルを使ったオンライン調査やソーシャルメディア分析、グーグルの検索ワードによる分析では、このような国際的な社会政策の判断材料となる信頼性のあるデータを得ることができませんでした。 得たい情報は、代表性(ランダム性)とグローバル性があり、かつ継続的にデータ収集ができなくてはなりません。しかし伝染病の症状は複雑で、しかも非常に早く変化していくため、実際に得られる情報の多くはノイズが多く理解不能なものでした。

RDITという手法は、これまでの調査手法の改善や代替として発想されたのではなく、このような差し迫った環境で世界の情報を的確に掴む必要の中で生まれた強力な手法だったのです。

RDIT開発者 シーマン教授の学際的な専門領域

シーマン教授は、現在、RIWI社のCEO、RDITの開発者であるだけでなく、カナダの大学の医学部の公衆衛生政策(Public health policy)の教授であり、精神医学の領域で現在も多数の論文を書く法学博士でもあります。

トロント大学医学部、IBMの研究者、カナダの研究機関での経歴をお持ちですが、RDITを開発した国際公衆衛生に関する仕事の前には、データのプライバシーやWebのセキュリティ、コンプライアンス問題に関する法律の専門家であり、1990年代のインターネットの開発初期には、IT業界の投資家兼研究者としての顔も持っていました。

そのような彼がRDITを開発するにあたって基となったのは、研究活動の中でこれまでのデータ収集方法に感じた限界、世界の公衆衛生に関わる仕事におけるインフォデミオロジー(情報疫学:Infodemiology)*での問題解決の必要性を痛感した経験、そしてインターネットの論理構造(アーキテクチャー)に関する深い理解でした。

また、特許を取得しているRDITには、シーマン教授のURLとドメイン・ネーム・システム(DNS)に関連するインターネットの深い知識と洞察が生かされています。偏りなく意見を収集するランダム性を可能にしたグローバル調査のテクノロジーのプログラムを書いたのは、インターネット草創期からの研究仲間です。 シーマン教授のIT、医学、法律という複数の専門領域のバックグラウンドは、まさに学際的(Multidiscipliary)ですが、このような学問領域の境界を超えた融合がRDITの要といえます。

現代を生きる私たちが直面している問題は、異なるバックグランドや視点からの知識と知恵を総動員しなければ解決できなくなっていると言われています。そのような中でイノベーションを起こすには、学問の境界を超えた学際的アプローチがきわめて重要です。 思い込みを疑い、問題を捉え直し、多分野のバラバラなアイデアを組み合わせ、高めることができなければ、新しいものを創りだすイノベーションは生まれないのです。 RDITは、これまでの調査手法の問題に対して、まったく新しいアプローチによって信頼できるデータを提供しようとしています。

RDITの目指すもの:ビッグデータ時代の先を行く「スマートデータ」

IOT(Internet of Things:モノのインターネット)の時代が到来し、取り扱われるデータが爆発的に増加したことで、「ビッグデータ」と呼ばれる領域が今注目を浴びています。ただし、データはゴミを入れれば、ゴミが出てくるもの"Garbage in Garbage out"であり、ノイズが多ければ意味のないものになります。量が大きいだけでは判断材料として役に立たず、正しい基準にはなりえないのです。
シーマン教授は「データは巨大なだけでは何の意味もなさない。今のビッグデータに対する過大評価は早晩破綻するだろう。」と述べています。データの変数が多ければ多いほど、バイアス(偏り)がかかり、読み解くのがそれだけ困難になるのです。

一方、RDITが目指しているのは、「スマートデータ(高性能なデータ)」です。

RDITが目指す「スマートデータ」とは?
・データが測定可能量で、ノイズが少ないこと
・偏りのないランダム性により、信頼性、安定性があること。
・継続的に変化する状況を捉えることができ、常に最新の情報が得られること。


上記で述べた「データのランダム性」とは、これまで自分の意見を表明することがなかった関与していない人々からもデータを得ることです。
声のない人に声を与え、関与のない人を関与させることによって、オンラインの集合知にアクセスすること、これをシーマン教授は『データの民主化』と捉えています。

2013年のウォール・ストリート・ジャーナルに「世界の最大の問題を解決する私の計画」というビル・ゲイツ氏の記事があります。その中でゲイツ氏は「もしも明確な目標を設定し、その目標に向かって進んでいることを測定する方法を得れば、すばらしい進歩を達成するだろう」と述べています。人類の問題解決や進歩は、その問題の程度や改善レベルを正しく測定できることから始まります。 RIWI社では、そのようなデータ計測をビジョンとして描いています。

今回の世論調査の結果からも明らかなように、極めて信頼度の高いデータを提供するRDITの調査は、世界の人々の意見を集約して正しく計測することができ、世の中を新しい見方で見ることを可能にした学際的で非常に画期的なテクノロジーなのです。

今回は、RDITの開発の背景とそのデータに対するビジョンをご紹介しました。
次回では、科学誌『NATURE』に取り上げられたRDITの調査事例についてご紹介します。


<用語説明>
*インフォデミオロジー(情報疫学 Infodemiology):地域や集団における疾病や感染症、それに関連した恐怖行動(パニックなど)などの健康への脅威、事象の発生パターンや原因、変動する状況を情報から明らかにする学問です。インターネットの普及に伴い発展し、インターネット内に散在する情報をリアルタイムで収集・分析されます。 代表的な研究としては、Googleの検索データとインフルエンザの流行の関連を指摘したものがあります。

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