温故知新 ~ 昭和のリサーチ(2) POS以前の販売データ | リサーチ・市場調査・マーケティング

マーケティングコラム
2014/6/23

温故知新 ~ 昭和のリサーチ(2)POS以前の販売データ

温故知新 ~ 昭和のリサーチ(2)POS以前の販売データ

ITの進化とともに今はビッグデータが大流行り。産学連携の研究も進み、あらゆるデジタルデータはマーケティングデータとして活用されはじめています。ID付POSデータもいまでは当たり前となっていますが、昭和の時代には、ID付POSはおろか、POSデータさえ影も形もないところでマーケティング施策が講じられていました。

では、当時、市場規模はどうやって把握していたのでしょうか。各チェーン各社の販売データは各店舗から上がってくるレジのジャーナルデータをパートタイムの方々が品目ごとに手計算して、売上データを把握し、全店舗のデータを合算して把握していたのです。高度経済成長の時代、売上の集計データは即日には集計されなかったのですから何ともおおらかな時代でした。

POSによる商品の単品管理は、コンビニエンスストア発展の礎となりましたが、日本で初めに単品管理の概念を在庫管理に取り入れたのは、キティちゃんでおなじみのサンリオだということをご存知でしょうか。 サンリオがIBMと組んで、電話回線を使って単品管理のシステムを開発したのがそもそものスタートなのです。 ジャパンクールを世界に知らしめたサンリオが、実は単品管理の概念を日本に持ち込んだ先駆者であることはあまり知られていませんが、本当のお話です。

さて、話が脱線しましたが、POSはおろか高機能のレジすらない昭和の時代、それぞれの商品がどこでどれだけ売れたかを明確に知るために何をしていたかご存知ですか。 棚卸。た・な・お・ろ・しです。 昭和の時代には小売業も製造業も、出版業も半年に一回、あるいは月に一回、皆総動員で棚卸をしていた時代がありました。単品ごとに店頭在庫、倉庫在庫をひとつひとつ数えていきます。要領よく数を数えて、帳簿にひとつひとつ在庫数を記入していきます。そして、前回の棚卸以降の仕入れ伝票を期首の棚卸の数に加えて、期末の在庫を減算して期中の売上を算出していました。ある意味、のどかな時代です。

私が駆け出しのリサーチャーとして業界に足を踏み入れた当時(1980年代前半)は、小売店パネルというデータ情報サービスがあり、ソフトドリンク、お菓子、お酒、シャンプー、洗剤などの日用品をはじめ様々なカテゴリーの販売データを上述のような在庫監査法で調べていたのです。

私がはじめて担当したのはソフトドリンクとお菓子のパネル。全国の個人で経営するお菓子屋さんや酒屋さん、小規模のスーパーなどを調査員と呼ばれる在庫監査のプロの婦人調査員さんたちが月に一回、乃至は隔月でお店を訪問し、対象カテゴリーの棚卸をするのです。お店もご自分たちの作業が省力化されますし、些少の謝礼をお支払するので、仕入れ伝票を見せてくださるのです。そういえば、時計パネルとか、文具パネルなどというものもありました。

もちろん日本中の店舗を調べることはできませんので、まずは全国の扱い店舗数を商業センサスや事業所統計からエリア別に分類し、サンプリング理論に基づいて、各エリアから対象店舗数を割出し、抽出バイアスがかからないようにエリアを抽出し、そのエリア内のお店を丹念に訪問し、実態把握のヒヤリング調査をするのです。このような調査をマスター調査といいます。マスター調査の結果から市場規模を把握し、国の統計や業界団体が発表している数値と比較して調査の信頼性を把握します。

そのうえで、実際に協力いただけるお店を丹念に訪問し毎月の在庫監査の許諾を得ていくのです。 気の遠くなるような手間暇のかかる仕事です。 店舗の規模などをベースに実際の店舗での販売数量を抽出率で割戻し、市場規模を推定します。当時は大型のコンピューターで数日かかって集計されていました。おそらく今ならラップトップ一台で瞬時に終わってしまうレベルだったのかもしれません。

また、手作業の情報収集ですから、集計の結果、異常値が出現することもしばしばありました。異常値が発見されれば、徹底的に原因を探る必要があります。実際に現場に戻ると、倉庫在庫のカウントの際に山積みにされた段ボールの後ろに新商品の段ボールが隠れていたことや、店主の意図は不明ながら、天井裏から秘密のたばこの山が発見されるなど、思いもよらないことに遭遇することもたくさんありました。日本の各種個人商店が十分に成立していた時代、職住一体型の商店生活の一端が垣間見られることもしばしばありました。

さて、推定された販売量が算定されると今度は報告書作成です。パワポはおろか、パソコンもない時代ですから、方眼紙に折れ線グラフや縦棒構成比グラフを毎月手書きして、そこに手書きのコメントをつけて納品します。その詳細は前回お伝えしたとおりです。データ収集に1か月、集計、分析に3週間、報告書作成に1週間。当月の販売量の推定値データの納品タイミングは2か月ほど遅れます。商品開発も、物流もあらゆることがのどかだった時代のデータ提供のスピードはそれほどに悠長なものでした。

報告には必ず営業担当が報告のため、5センチから10センチほどもある数表と報告書を携えて訪問します。今のようにデータをメールで送信したり、クラウドサーバーを通して納品するなど夢のような世界です。 二十歳そこそこの小娘が、偉そうに企業のデータご担当者を訪問して、「御社のシェアは下降気味ですね。そろそろ何か新製品を開発してテコ入れする時期ではないでしょうか。」などと、したり顔でご報告をしていても違和感をもたれない時代でした。定期的な訪問の中でじっくり企業の方と会話をし、企業の抱える直近の課題を吸い上げ、次回の訪問のときには単発調査の提案を持ち込むなどして徐々に業績を拡大していくというリサーチビジネスモデルの原型もこのころに出来上っていったのだろうと思います。

リサーチ業界のビジネスモデルの基本は、今も昔もクライアントとの信頼関係の構築です。形のない情報を販売するうえで重要なのは一も二もなく、信頼の一言に尽きます。信頼関係は日々の接触の中でしか育むことはできません。

営業担当もリサーチャーもクライアントとの接触の機会を捉え、どうすればクライアントの課題を解決できるかをリサーチを扱うプロとして一緒に取り組んでいく姿勢を貫くことが何よりも大切だと思います。必死に考えていれば必ず答えは見つかるはずです。グルインのバックルームでクライアントと共感体験をする機会も重要です。これは今も昔も変わらないリサーチの基本価値であると思います。

株式会社ユーティル 代表取締役社長 打田 光代

東京リサーチコンサルタント取締役を経て1993年に(株)ユーティルを設立。国内外の定性/定量の消費者調査プログラム、販売店調査プロジェクトを開発、中近東家電販売動向パネル、消費者日記調査などいくつものデータベース事業も立ち上げる。マーケティングリサーチ歴は33年、自身でも1,000件以上のグループインタビューのモデレーターを経験、生活者のインサイトを探り出す第一人者でもある。

100%出資子会社、エンバイロセルジャパン株式会社の代表取締役をつとめると共に、1993年より、ESOMAR (European Society for Opinion and Marketing Research)の正会員。 

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