「MOTIONGALLERY」が目指す「社会彫刻」の形 第1回 投資という行為自体をクリエイティブなものに変える | リサーチ・市場調査・マーケティング

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2018/11/30

「MOTIONGALLERY」が目指す「社会彫刻」の形 
第1回 消費という行為自体をクリエイティブなものに変える

「MOTIONGALLERY」が目指す「社会彫刻」の形 <br />第1回 消費という行為自体をクリエイティブなものに変える

最初は、ひとつの社会実験としてスタートした

 「MOTIONGALLERY」は、2011年にスタートしたクラウドファンディング・プラットフォームです。財政的な支援が、社会的に新しい体験や価値の創造につながることを目指すものです。これから3回のコラムで、私たちがこのサービスを通じて実現したいことについて、みなさんの理解を深めることができればと思います。

 私は、映画制作に携わりたいと思い、勤めていた会社を辞めて東京芸術大学で映画の作り方を学んでいました。そこで改めて気づかされたのは、映画を撮ることの技術的な難しさ以上に、制作し、公開にこぎつける仕組みづくりの難しさでした。日本では、多くの映画が公開されていますが、その裏側には形にならない企画が無数に存在します。それらが実現しない理由は、制作に必要な資金が集まらないことです。

 実績の浅い作家の企画に資金が集まらないというのは予測はつきますが、実際は、世界的には「巨匠」と呼ばれるような監督や実績のあるプロデューサーの企画にもお金が集まらないケースは多くあります。つまり、属人的な問題ではなく、構造的な問題がほとんどのクリエイティブ領域に起こっているのです。

 資金が集まらないのは、簡単にいうと「ヒットしそうにない」からです。近年の日本では特に、制作する前から「ヒットしそう」な雰囲気のある企画や作品にしか、お金が集まらない環境にあるのです。これは映画制作に限った話ではなく、アートや出版などの表現に関わる分野、文化的な活動の多くでも同じような状況にあります。

 しかし、一番の問題は、机上の計算や企画時の雰囲気が「ヒットしそう」だからといって実際にヒットするとは全く限らない事です。世の中に出してみないとその結果は本当にわからない。「MOTIONGALLERY」で資金を調達した「カメラを止めるな!」もそのチャレンジングな企画ゆえ、通常のファイナンスでは成立しないであろう企画ですが、「ヒットしそう」という軸ではなく「応援しよう」という軸でお金を集めるクラウドファンディングだからこそお金が集まった側面があります。そして制作・公開されたからこそ、今年の大ヒットにつながっています。

 海外では、文化や芸術に関わる活動に、短期的な利益だけをモノサシにせずにお金を出すことは、比較的行われています。日本でも、かつて経済成長が続いていた時代には大企業が絵画を購入したり、文化施設の建設に資金を出したりすることもありました。しかし現在は、人口は減少し、経済成長も好調とはいえず、ヒットするかしないかが特に読めない文化・芸術への投資は難しくなっています。

 なぜヒットするかどうかの見極めが事前に難しいかといえば、文化・芸術の活動は、ひとえに「非連続性の成長」を常に目指して取り組まれている活動であるため、過去のデータや経験則を基に推測してもあまり相関性が無い、むしろ相関性がないようなチャレンジを制作者が目指しているからにほかなりません。そして、この「非連続性の成長」は、これからまさに文化・芸術だけでなくビジネスの世界でも最も重視されていくものではないでしょうか?

 にもかかわらず、投資判断やプロジェクトのgo/nogo の判断は、未だに「連続性の成長」の概念に留まっています。こうした環境では、文化・芸術であれ、ビジネスであれ大半の人がそれなりに満足するようなヒットしか生み出すことはできません。何らかの作品や行動が世の中に出ると、もしかしたら誰かの日々に楽しみを与えたり、社会に気づきをもたらしたりする、可能性を持ったものの種があるにもかかわらず、そういったものを世の中に出す機会すら与えられないことは、社会を貧しくしているのではないか。そう考えて、人のチャレンジにお金が回る仕組みづくりをしようと思い、社会実験的に始めたのが「MOTIONGALLERY」です。

 

映画や音楽から、プロダクトまで様々なプロジェクトが存在する

大きな影響を与えている「社会彫刻」という概念を

 芸術や文化、社会的に意義のある活動にお金が回る仕組みとして、クラウドファンディングに行き着いたのは、私にとって比較的自然なものでした。ドイツ出身の現代芸術家、ヨーゼフ・ボイスが生み出した「社会彫刻」という概念があります。一義的には、芸術家が何らかの意図のもとに作品を作ることが、「アート」と呼ばれます。しかし、「社会彫刻」の概念では、人は常に意図を持って判断し、選択していて、そのひとつひとつの行動が現代社会を築いているので、この世の中そのものを作品だと仮定すると、1人1人が生きていくうえでの行動それ自体が「アート」となります。クラウドファンディングは投資ではないので、儲けにつながるわけではありません。そこが重要だと思っています。

 私たちは、資金を提供するという形で新しいチャレンジに参加する方法を提示し、コミュニティを作る事によって、世の中に新しいチャレンジを生み出し、そこから多様性が生まれ、社会の形を変えていくことができるのではないかと考えています。クラウドファンディングでは誰かの意図や思いに共感し、資金を提供する。その行為自体をクリエイティブなものと捉え直すことで、社会が変わっていくのではないか。ヨーゼフ・ボイスが唱える「社会彫刻」の概念とクラウドファンディングを重ねることができれば、クラウドファンディングそのものを「アート」として実行するのも面白いのではないか、と思い「MOTIONGALEERY」はスタートしています。

 こうした考えにもとづいているので、私たちのプラットフォームでは、アートや社会性、文化性のあるものへの支援を中心に活動を行なっています。社会性というのは、まちづくりや公共性の高い事業など、地方や地域を活性化するようなものをさします。

 経済性だけを目指して活動しているわけではないので、私たちは支援を求める側を「プレゼンター」、出資する側を「コレクター」と名付け、プレゼンターからコレクターへの感謝の気持ちを「リターン」と呼んでいます。あえてこういった言葉を使っているのは、私たちが既存の考え方とは異なる出資の形を目指していることを明確にするためでもあります。

 

プレゼンターとコレクターをつなぐプラットフォームとして機能している

 最近は、対価として先行割引のようなもの、経済的な利益を提供することを推奨するプラットフォームも多くなっていますが、それはこれまでの「消費」の概念から踏み出すものではありませんし、折角お金が集まっても売上の先食いをしているだけなので、クラウドファンディングの本当の意義や魅力を感じられないで終わってしまっている方も多いのではと危惧しています。

 次回は、これまでの成功事例や、プレゼンターとコレクターを安心、安全につなぐための取り組みを紹介します。

 

MOTION GALLERY 代表取締役 popcorn 共同代表 / さいたま国際芸術祭2020キュレーター 大高 健志

早稲田大学政治経済学部卒業後、外資系コンサルティングファームに入社。 戦略コンサルタントとして、主に通信・メディア業界において、事業戦略立案、新規事業立ち上げ支援等のプロジェクトに携わる。その後、東京藝術大学大学院に進学し、 クリエイティブと資金とのより良い関係性の構築の必要性を感じ、2011年にクラウドファンディングプラットフォーム『MotionGallery』を立ち上げ、2015年にグッドデザイン・ベスト100受賞 。以来25億円を超えるファンディングをサポート。また、2017年にはマイクロシアタープラットフォーム『popcorn』をスタート。

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