- マーケティングコラム
企業経営に欠かせない「パーパス」とは|意味や導入背景、事例を徹底解説
マーケティング&ブランディング コンサルタント
日経新聞系列の広告代理店で広告とデータベース・マーケティングを担当し1996年独立。凸版印刷パッケージ事業本部とディレクター契約、同時期にレシート調査を実施。2006年マーケティング・ハピネス設立。インサイト研究会を現在に至るまで15年以上東京、大阪で毎月実施。生活者購買心理の解き明かしを得意としている。著書に『あっ、買っちゃった』(フォレスト出版刊)他。
松本 朋子
2022 / 12 / 09
パーパス(purpose)とは直訳すると「目的」「意図」で、ビジネスの場では「企業の存在意義」を意味する言葉として使われています。近年、経営やブランディングにあたって重要な概念として位置づけられるようになりました。この記事では、パーパスの意味や事例などをわかりやすく解説していきます。
パーパスとは
パーパスとは、一般的には「目的」「意図」という意味を持つ言葉ですが、ビジネスでは「企業の存在意義」「全体の指針」というニュアンスで使われています。ビジネスにおいてパーパスが重要視されるようになった背景には、先行き不透明な社会情勢や環境問題の深刻化に伴い、企業に対して社会的な存在意義や価値を求められていることが挙げられます。
パーパスを掲げることで、従業員それぞれの存在意義が明確になり、働く上でのモチベーションアップが見込めるのです。また、社会的に存在価値の高い企業だと認知されれば、そうした企業の商品・サービスを利用することが社会貢献につながるとして、顧客からの支持をより得やすくなるというメリットもあります。
パーパスという言葉が広く知られるきっかけとなった本が、全米3,200万部突破のベストセラー『The Purpose Driven Life』です。著者のリック・ウォレンはアメリカの牧師で、オバマ大統領就任式開会時に祈祷を務めた人物として有名です。
同書は「あなたの人生を突き動かしているものは何か?」とあらためて考えさせる内容であり、価値観が多様化する現在において人生の目的となる焦点を定めることの大切さを説いています。
ゆえに、パーパスは「目的」よりもやや重みのある言葉で、「存在意義」という訳語から経営やブランディングに波及していきました。
経営理念やMVVとの違い
パーパスと似た言葉として経営理念やMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)がありますが、これらは厳密にいうと別物です。ミッションは組織が持つ使命や戦力、行動指針、ビジョンは「このような組織を作りたい」と願い描く理想、バリューは組織の価値観を意味し、バリューにもとづいてミッションやビジョンの達成を目指します。経営理念は、これら3つを混ぜた形で経営方針や手段を表現したもので、時代の変化や経営陣の交代によって変化することも珍しくありません。
経営理念やMVVは「組織としての未来」に関連する言葉ですが、パーパスは「組織の現状」を踏まえた上での存在意義といえるでしょう。
パーパスから派生して生まれた言葉
パーパスから派生して生まれた言葉に、パーパス経営、パーパスブランディング、パーパスドリブンがあります。パーパス経営は、文字通りパーパスを掲げた経営方針のことです。
パーパスブランディングは自社の存在意義を社内外に認知してもらうというブランディング手法です。
そしてパーパスドリブンとは、パーパスにもとづいた企業活動全般を指す言葉です。ゆえに、パーパスブランディングもパーパスドリブンの1つと言えます。
パーパスが注目されている3つの背景
パーパスの注目度が高まっていることには3つの背景があり、すべてに関連性があります。それぞれ解説していきましょう。1. 急激な社会情勢の変化
現代社会は、先行き不透明なVUCA(ブーカ)時代と言われています。VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった言葉で、社会やビジネスにおいて未来の予測が難しくなる状況を指します。近年、新型コロナウィルスの流行による世界規模のパンデミック発生、ロシアによるウクライナ侵攻など、想定外の事態が立て続けに起こりました。こうした現代の中で、企業を安定して持続させたいと考えた場合、従来通りの手法では立ち行かなくなる可能性があります。そこで、パーパスを掲げる必要性が増したのです。
2. 持続可能な社会の実現を目指す動き
温暖化や貧困紛争などのさまざまな問題を解決し、すべての人たちにとってより良い世界をつくるためのSDGs(持続可能な開発目標)が定められ、世間の注目を集めています。 多くの投資家や消費者もサステナブルを意識しているため、企業が存続していくためには持続可能な社会を目指す動きに無関心ではいられません。3. 労働目的の変化
近年、働く人の意識が変化しており、単に収入を得るという目的ではなく、働くことを生きがいとしてとらえる人、仕事を通して社会をより良くしたいと考える人も増えています。とりわけ企業の将来を担う若手であるZ世代の中でも、優秀な人材ほど社会貢献に関心があるとされています。こうした変化により、右肩上がりの売り上げだけを押し付けるような企業に失望して会社を辞めていく人も少なくありません。優秀な人材を育成、確保するためにも、企業がパーパスを掲げることが必要になっているのです。
企業がパーパスを掲げるメリット
ここまで見てきたように、時代の急激な変化のなかで企業が安定して持続・成長していくためには、これまで通りの経営姿勢、手法では立ち行かなくなる可能性があります。時代の変化をしっかりと見据えてパーパスを策定し、内外に宣言することは企業にとって大きなメリットがあります。従業員のモチベーション向上につながる
従業員の労働目的の変化に対応するためにも、パーパスの策定は有効です。従業員個人のパーパスと企業のパーパスの交わるところに、働くことに対する生きがいが見出されるという報告もあがっています。残業削減や福利厚生によって従業員満足の向上を目指すよりも、パーパス経営(同時に個人のパーパス策定)が重要です。従業員は自分の仕事が社会貢献につながると実感することでモチベーションが上がりやすいため、結果として生産性が向上し、企業の発展につながるのです。
ステークホルダーからの共感や信頼を得られる
パーパスを策定し内外に宣言することにより、ステークホルダーからの共感や信頼も期待できます。投資家や取引先、消費者に対してしっかりとアピールできれば、イメージ向上につながりますし、具体的な購買行動にまでつながる可能性もあります。絶対に避けたい「パーパスウォッシュ」
企業が環境に配慮しているように見せかける「グリーンウォッシュ」から派生した「パーパスウォッシュ」という言葉があります。パーパスウォッシュとは、企業が掲げているパーパスと実態が伴っていないことです。パーパスを掲げても、ステークホルダーからパーパスウォッシュだと判断されてしまうと、著しく信頼を喪失するので十分注意が必要です。パーパスウォッシュの防止策
パーパスを策定する際には、パーパスウォッシュを防止するためにも気をつけるべき点があります。第一に、パーパスをビジョンと同じように扱わないことが重要です。ビジョンは未来を描いているため、今すぐ実現できなくても批判されませんが、パーパスは何らかの行動をしなければパーパスウォッシュとみなされる可能性があります。 また、従業員のモチベーションアップにつながらないパーパスであれば、内部からの不満が取引先や顧客などに漏れてしまう恐れがあります。
これらを踏まえつつ、無理なく行動に落とし込める形でパーパスを策定していくと良いでしょう。
パーパスブランディングの導入事例
ここからは企業のパーパスブランディング導入事例を紹介していきます。自社に取り入れるための参考にしてください。ピジョン
ベビー用品メーカーのビジョン株式会社は「Celebrate Babies in Action」と銘打つパーパスを掲げ、“赤ちゃん一人ひとりの輝きを育むための取り組み”を進めています。現代社会での子育ては孤独や不安を感じやすいので、さまざまな活動を通して“大丈夫だよ”というメッセージを送っているのです。一例として「コロナ禍で助けを必要とする赤ちゃんとご家族のために」というテーマのオンラインセミナー開催などをおこなっています。
出典:Celebrate Babies in Action|ピジョン株式会社
https://www.pigeon.co.jp/celebrate/
SONY
ソニーは2019年1月、社内外に「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というパーパスを公表しており、2022年春の時点で従業員の8割がこのパーパスを肯定的にとらえているといいます。世界11万人の従業員に浸透したという見事な事例です。そこに至るまでに「マイパーパス特集を社内のウェブサイトで掲載する」という取り組みを行い、世界中のグループ社員を対象に「ソニーグループのPurposeをあなた自身に置き換えるとどうなるのか」「日々の業務の中でどう実践しているのか」などについてインタビューを積み重ねました。
出典:クリエイティビティとテクノロジーの力でめざす|Sony
https://www.sony.com/ja/SonyInfo/blog/2021/05/20/
花王
花王のパーパスは「豊かな共生世界の実現 To realize a Kirei Word in which all life lives in harmony」です。花王では2010年から毎年「花王国際子ども環境絵画コンテスト」を実施し、11年間で約10万人を超える子どもたちの未来への思いに向き合ってきました。こうした行動から、子どもたちの未来にしっかりとコミットする決意が言語化されています。
さらに、子どもたちの描く未来を実現するために、環境問題、高齢化、パンデミック、多様化の影響(過剰に増えた商品と情報による生活者の選択難、資源の浪費と廃棄物の増加)という4つの社会課題の解決を目指しています。
出典:花王のパーパスと価値創造|花王
https://www.kao.com/jp/corporate/about/purpose/
まとめ
不透明感を増す時代背景や環境社会問題の深刻化とともに、利益の追求だけに奔走する企業に対して内外から厳しい視線が向けられるようになっています。そんな中で、安定して企業を存続させるために自社のパーパスを掲げる必要性が増しているのです。企業の事例を参考にしながら、取り組みを進めてみてはいかがでしょうか。