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- グローバルコラム
活気あふれる台湾・夜市に学ぶマーケティングの基本 ~夜市が愛され続ける理由を探る~
株式会社クロス・マーケティング リサーチソリューション本部 シニアリサーチャー
前職外資系調査会社で日本市場と海外市場のリサーチ業務に従事し、現在クロス・マーケティングでグローバル・リサーチャーとして数多くの海外リサーチの定性・定量調査を担当。海外市場開拓から現地消費者のニーズ・実態把握まで幅広いテーマの調査経験を持つ。尚 智栄
2023 / 10 / 06
#食品 料理,#生活 文化,#消費者行動,#観光,#アニメ マンガ,#ショッピング
新型コロナウイルス感染拡大が落ち着き、経済活動が再開して移動が自由になった今年、久しぶりに台湾を訪れました。台湾といえばやっぱり夜市!新型コロナウイルス拡大時には街全体がロックダウン状態になり、夜市の多くの店が撤退や閉店したと聞いていましたが、現在の状況はどのようになっているのでしょうか。以前のように夜市は復活したのか、コロナ前と何か変化があったのか。 とにかく夜市で美味しいものが食べたいと意気込んで夜市をいろいろ回っていると、屋台で出している食べ物やそこに訪れる人にそれぞれ特徴があることに気づきました。これはマーケティングの視点で捉えると面白いのではないかと考え、3つの夜市(「士林夜市」「寧夏夜市」「公館夜市」)について屋台のタイプや利用者の属性など各夜市の特徴をまとめてみました。
台北最大規模の夜市である「士林夜市」の特徴
士林夜市は1910年にできた夜市で歴史も古く、老若男女問わず地元住民に愛されていてる夜市です。屋台グルメを求めてやってくる観光客が多いことも特徴的です。台北で最も大きな夜市のため、そこで出店している店も地元グルメを提供する店、観光客向けにB級グルメを提供する店、ゲームやUFOキャッチャー、景品当てなど子供や若者が遊べる店など、様々なタイプの店が集結していて、誰でも楽しめるエンターテインメント・ナイトマーケットになっています。台北の中心地にある「寧夏夜市」の特徴
寧夏夜市は、伝統的な屋台料理が多くグルメ・マーケットとしても知られています。コンパクトで規模はそれほど大きくはありませんが、台北の中心地にあり、MRT(地下鉄)の駅から徒歩で行けるためとても利用しやすい立地にあることも特徴の一つです。最もローカル色の強い「公館夜市」の特徴
公館夜市は、国立台湾大学や小学校などがある学生街に位置していて、すぐ近くにある水源市場(食堂や食材を売る店がたくさん集まっている)を含め駅周辺一帯が夜市を形成しています。3つの夜市の中で最もローカル色が強く、他の夜市のようにわかりやすく入り口のゲートがあるわけではないためか、大学生や地元住民の利用が多いように見受けられました。実際に夕方になると、学生だけでなく大人も含めて多くの人で食事をしてにぎわっていました。3つの夜市の特徴
ここまで見てきたように、3つの夜市はそれぞれエリアの特性があり、そこに集まる属性のニーズに合ったグルメやサービスを提供していることがわかりました。<3つの夜市の特徴のまとめ>
※執筆者個人が感じた印象をもとに作成
名称 | エリア (場所) | 訪れる人の属性 (ターゲット層) | 提供しているサービス (商品) |
---|---|---|---|
士林夜市 | やや中心街から離れているが、 電車で行くことができ アクセスはよい 観光地としても人気 | 地元住民(老若男女問わず) 観光客 | 地元グルメ B級グルメ 新奇性を狙ったグルメ ゲーム・雑貨・趣味などの レジャー商品も豊富 |
寧夏夜市 | 中心街 仕事帰りに立ち寄りやすい場所 | 地元住民 (家族連れ、 会社帰りに同僚と、 1人で) | 主にご飯もの 軽食(スナック) |
公館夜市 | 学生街 | 学生 | 主にテイクアウト用の軽食 (スナック) |
つまり、エリア特性を活かしたターゲティングが成功しており、ターゲットニーズに合ったコンテンツを提供することで、集客につながっている様子がみられました。提供する側とサービスを受ける側がWin-Winの関係を築いているこれらの夜市は、マーケティングの視点でみると理想のビジネス循環を叶えているのではないかと考えます。
単なるナイトマーケットではなく、いまや“(屋台)文化”となっている夜市。コロナ禍に強制閉鎖され多くの店舗が閉店に追い込まれたようですが、ポストコロナとなった現在、地元民や観光客が戻ってすぐに活気を取り戻している点は、夜市の魅力的なコンテンツとそこに集まる人たちのパワーが底堅いことを証明しています。
久しぶりに訪れた台湾の夜市で、美味しいご飯を食べながらマーケティングの成功例を目のあたりにし、多くの刺激や気づきを得ることができました。また次回台湾に来る機会があれば、これらの夜市を再訪し、どのような変化があったのか(なかったのか)をぜひ見てみたいと思います。
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株式会社クロス・マーケティング リサーチソリューション本部 シニアリサーチャー
前職外資系調査会社で日本市場と海外市場のリサーチ業務に従事し、現在クロス・マーケティングでグローバル・リサーチャーとして数多くの海外リサーチの定性・定量調査を担当。海外市場開拓から現地消費者のニーズ・実態把握まで幅広いテーマの調査経験を持つ。
尚 智栄
お問い合わせ先 : glb@cross-m.co.jp
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