- マーケティングコラム
“気づき”マーケティング(6) <実家>は気づきの宝箱!
東京辻中経営研究所
同社代表取締役マーケティングプロデューサー 株式会社ユーティル研究顧問
辻中 俊樹
2014 / 10 / 03
今回はさらにエスノグラフィーのことを続けてみる。前回はたとえばコストコのような店頭を“ある目的”を持って観察した場合から、簡単な発見や気づきをどのように生みだしていくかについて述べた。
どんな人達が、どんなシチュエーションで買い物をしたりしているのかという目的を持って観察を行い、その目的に沿って気づきを得るという流れである。ところが実はエスノグラフィーの極意の一つが、この目的以外の発見をすることこそが重要なのである。
目的以外の発見をすることこそが重要
前回の話でいえば「なんだこの100個も入ったカラーボールって?」というようなことである。目的からは少し外れていることだが、なんだか気になる事を見つけておくことだ。私たちはこれを“流し”のエスノグラフィーと呼んだりする。直接狙っている犯行先ではない所で、ちょいと空き巣に入いったりする“流し”の犯行という感じだ。ここが、本当は次につながるエスノグラフィーの妙味なのである。まあ、空き巣の犯行とは違うのですが・・・・(笑)。ある目的を持って、ご自宅を訪ねて観察をするといったことがよくある。とりわけ、シニア世代の暮らし方は、この訪問エスノグラフィー抜きにはほとんど何もわからないといった方がいい。たとえばシニア層の食べることの本当の実態を探るにはこの訪問エスノは不可欠といってもいい。 最近もこの目的でご自宅を訪ねて、どんな食器類を持っているのだろうかを観察することを繰り返していた。そんな時に“流し”の眼にはもっとおもしろい発見があるものである。
カラーボール再び
実は前回述べたカラーボールがあったのである。60代後半のご夫婦二人暮らしの家にカラーボールである。ちゃんと袋にしまわれていたのだが、「よくお孫さんがこられるのですか」と聞いてしまった。当然そうに決まっている。老夫婦二人がこんなの使う訳がない。「ビニールプールか何かに?」。今はビニールプールはしまっているが、「バスタブに入れて遊んでいますよ」ということであった。ダイニングテーブルをみると、テーブルの角にはちゃんと防護用のプロテクターがつけてある。孫たちが頭をぶつけないようにするためのクッションだ。今や百均(ヒャッキン)に行けば簡単に手に入いるシロモノである。「娘に頼まれてつけたんですよ」ということらしいが、実はこれは孫の頭を守るためのものだけではないのだ。
本当の暮らし方の中にある欲求
年をとってくると、特に介護が必要なほどのハンディキャップを抱えている訳ではないが、どうも動きのキレが悪くなるのだ。若い時には問題にならなかったようなことで、室内を動いているだけなのにいろいろな角に身体をぶつけることがあるそうだ。孫のためではあるが、実は自分たちのためになっているということだ。老夫婦だけならば、恐らくこのクッションをテーブルの角につけることはなかっただろう。孫を入れた三世代の行動を考えると、これがつけられることになる。手短なバリアフリー対応なのである。カラーボール、ビニールプール、バスタブ、プラレール、大きなおもちゃ、テーブル角のクッション・・・、これらをスナップショットしてながめていると、全く新しい発見と気づきが湧いてくるものである。実家は今や三世代の宝箱なのである。そして、私たちにとっては気づきの宝箱である。バリアフリー、リフォーム・・・、本当の暮らし方の中にある欲求は、こんなところからみつけていかなくてはならない。
もう一つ、“流し”のエスノグラファーの目に写ったものがあった。リビングルームのはじっこにさりげなく置かれていた草花。野の花をとってきて投げこむようにいけられていたものだ。えのころ草(エノコログサ)とようしゅやまごぼう(ヨウシュヤマゴボウ)。「この季節になるとこんな草をみると子供のころを思い出しますよねえ」とおっしゃっていたが、実にセンスが光っている。このように季節を感じさせるセンスと、同じ空間のダイニングテーブルの角につけられている防護クッション。これが今の暮らし方を象徴している気がする。
Related Column/ 関連コラム
-
“気づき”マーケティング(1) 「包丁のない家庭」??
-
“気づき”マーケティング(2) 「濡れ落ち葉」
-
“気づき”マーケティング(3) 「手作りコロッケ」が「我が家の味」
-
“気づき”マーケティング(4) 「妊婦さん」の特徴って何?
-
“気づき”マーケティング(9)「マーケティングの嘘」
-
“気づき”マーケティング(8) 「叔母と姪」
-
“気づき”マーケティング(6) <実家>は気づきの宝箱!
-
"気づき"マーケティング(7) 「ばあば銀行」の利息??
-
“気づき”マーケティング(10) 〈鳥の眼〉と〈虫の眼〉
-
“気づき”マーケティング(11) サブウェイとマクドナルド
-
“気づき”マーケティング(12) 金曜日の夜の「ごほうび」
-
“気づき”マーケティング(13) <間食>はもはや<間食>ではない!
-
“気づき”マーケティング(14) 「りんご」と「みかん」、どっちを食べる?
-
“気づき”マーケティング(15) お昼何食べるか、いつ決める??―意思決定の<間際化>を考える①―
-
“気づき”マーケティング(16) 「ヤオコー」ユーザーの生活を“可視化”してみた!―意思決定の<間際化>を考える②―
-
“気づき”マーケティング(17) シニアの『朝食はパン』は何故?
-
“気づき”マーケティング(18) 自分を知って相手を知る!―シニアの『朝食はパン』は何故? 続編―
-
“気づき”マーケティング(19) 「朝食はパン」にみる<気になる>スイッチとは?!
-
“気づき”マーケティング(20) シニア層の“食べたい力”に火をつける!
-
“気づき”マーケティング(21) 「三世代サンドイッチ」 ~“50歳”へのアプローチ~
-
“気づき”マーケティング(22) “50歳の危機” ~その本質を探ってみると~
-
“気づき”マーケティング(23) 不毛なPOSデータよりも生活の“見える化”を!!
-
“気づき”マーケティング(5) エスノグラフィーの成果って?