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“気づき”マーケティング(18) 自分を知って相手を知る!―シニアの『朝食はパン』は何故? 続編―

辻中 俊樹
東京辻中経営研究所
同社代表取締役マーケティングプロデューサー 株式会社ユーティル研究顧問

辻中 俊樹

2015 / 10 / 01

#食品 料理,#シニア 高齢者,#気づき

“気づき”マーケティング(18) 自分を知って相手を知る!―シニアの『朝食はパン』は何故? 続編―

前回のシニアの『朝食はパン』という話に対して、やっぱり色々な反響と疑問符が私のところに届いてきた。1つは『朝食はパン』という事実に対してである。本当ですか?? お年寄りはごはんであり和食ではないのですか?ということである。これは身近に実際にお年寄りと接するチャンスのない人の疑問であることが多かった。これは仕方がない。だから、事実を捉えることのできる日記調査が大切だということに尽きる。特に30代のマーケターがこんな思い込みをしていることが多い。

前回のコラムの反響・疑問を受けて

 前回のシニアの『朝食はパン』という話に対して、やっぱり色々な反響と疑問符が私のところに届いてきた。1つは『朝食はパン』という事実に対してである。本当ですか?? お年寄りはごはんであり和食ではないのですか?ということである。これは身近に実際にお年寄りと接するチャンスのない人の疑問であることが多かった。これは仕方がない。だから、事実を捉えることのできる日記調査が大切だということに尽きる。特に30代のマーケターがこんな思い込みをしていることが多い。
 恐らく両親は60代が多いだろうし、80代や90代のおばあちゃんがいることもあるはずだから、ここを最低限みておけば、変な思い込みからは解放されることになるはずだ。まあ、灯台下暗しといいうことだろう。
 次に多い疑問、むしろ抵抗といった方がいいのが、やはりパン食は簡単、簡便、時短だから、シニアの人たちが『朝食はパン』ということになるはずだというお話である。これも思い込みの最たるものだ。
 これは40代、50代の人たちからの抵抗が存外多かった気がする。とりわけ、働くママさん、ワーキングマザーマーケターからの根強い抵抗があった。働くママさんの感覚や困り事をビジネスに役立てることは非常に大切なことである。マーケティングやリサーチの現場に、ワーキングマザーがいっぱいいることはだからよいことである。ただし、これがとてつもない思い込みと曲解を生み出すこともあることは意外に気づかれていないのである。

自身の感覚による思い込み

 ワーキングマザーの朝はとてつもなく多忙である。夫を出勤させ、子どもたちの朝食を準備して食べさせ、お弁当なども作り、自分の仕度もして出勤する。ここにあるニーズは簡便、時短以外の何ものでもないことは明白である。できるだけ簡単にすませられるようにということで『パン食』が選択されるという感覚はとてもよくわかることだ。
 前夜の残り物や下ごしらえしておいたもので子どもの弁当を用意し、さらに自分用の弁当を作る。そのついでに残り物を集めてごはんと一緒に朝食に仕立てあげる。いずれにせよ簡便、時短以外の何ものでもないのだ。
 私たちはこのようなセグメントの女性、いわゆるワーキングマザーの事を『飼育員さん』という呼び方をしている。ライオンやシマウマや羊の群れをなだめすかして飼育する、その典型が日常の食事シーンなのである。
 『飼育員さん』にとって大切なのは、とにかく時短、簡便に尽きる。ましてや自分も忙しいのだし。この感覚をそのままシニアの食の事実の理解に当てはめようとしてしまう。ここに決定的に誤った思い込みが生み出される。そして尾ひれがついてしまう。シニアは体力も落ちてきているし、作る気力も段々と薄らいでいっているだろうし、本当にそんな食べているのかしら… というように。

思い込みからの脱却

 自分のモノサシをそのまま当てはめてはいけないのだ。自分は『飼育員さん』としての毎日かもしれないだろうが、シニアたちは『飼育員さん』ではないのだ。自分を知った上で相手を知る。そしてその差異を明確にしていく。このことで初めて思い込みというものから自由になることができる。私はこんな方々によく自分で日記を一週間つけてみることをお勧めしたりする。
 前回も述べたように、シニアの朝食タイムはワーキングママたちよりも少なくとも1時間近くは遅い。そして30分~1時間が朝食にかけられている時間。全く時間の概念が天と地ほど違っているのだ。加えて、前回のコラムに載せた写真でもわかるように、ゆったりと時間をかけることによって、こんなに食べているのというくらいの量と種類を食べている。シニアにとっての朝食は、食べたいという気にさせる、おいしいものを楽しんで食べるというシーンそのものである。

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 ワーキングママの朝食は、残念ながら“えさ”という概念からそんな離れることはできてはいないのである。栄養や身体のためのことを考えて野菜を多く摂るようにしたり、果物を食べたりするという心理は、とどのつまり“えさ”を食べることを逸脱できないのである。シニアたちは彩りや楽しさを感じるから、旬の野菜や果物を食べるのだ。これは“えさ”ではないのだ。
 前回載せた朝食の写真は78歳のおばあちゃんのもの、今回はその続きを3日分載せておく。食べたいものを食べる、これが“えさ”でない食事シーンをつくりあげる。私たちはこの食べたいものを食べることの実現を、“食べたい力”と呼んでいる。シニアにはこの“食べたい力”が備わっている。ここには簡便も時短も存在しない。ただ、過剰に手をかけたりしないだけなのだ。

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