- マーケティングコラム
“気づき”マーケティング(9)「マーケティングの嘘」
東京辻中経営研究所
同社代表取締役マーケティングプロデューサー 株式会社ユーティル研究顧問
辻中 俊樹
2015 / 01 / 15
このコラムでは生活の実態を見るときの“気づき”を、様々なエピソードやキーワードで示してきた。前回は「叔母と姪」といったキーワードで、実家を舞台にした未婚の姉妹の持つパワーについて書いた。
姪っ子が持っている「シルバニアファミリー」のおもちゃは、実は叔母さんからのプレゼント、贈与である。同様に男の子には「プラレール」のシリーズが毎月追加されていくという実態もある。これは未婚の兄弟からの贈与であった。このエピソードには現在の生活状況の中に様々な歴史が詰め込まれていることを現している。
「生活日記」という手法
未婚率の上昇や子供を生まないという現状が、家族間において何を作り出していくのかという視点でもある。生活2次データというビッグデータが生活の断片に具体的にどのように宿っているかという分析になる。これらの生活の具体像の抽出には、「生活日記」という24時間×365日繰り返されていく生活を書き留めてもらうという方法がある。生活動線という言い方をするが、時間と空間のマトリックスの中に、どのような生活行動の軌跡が累積されているのかがよくわかる。生活行動の1つ1つは、本人にとっては大半が無意識の結果ということになるので、生活の実相を捉まえるのにはむいている。
これに本人か、我々がハンティングした写真というものが追加されて、さらに実態が浮かび上がることもある。エスノグラフィー的な方法ということになるが、その時々では意味がわからないが、例えば、実家に置かれたプラレールの写真などがそれだ。実家の冷蔵庫にあるヨーグルトのストックなどもそれになる。
「これってなあに?」という“気づき”を深めるためにインタビューが追加される。生活者にとってはこの写真に残っている事実に対しても意外に無意識である。「あっ、これは…」と言ってくれることに発見がある。
「生活日記」「エスノグラフィー的なフォトハント」そしてそこに見つけ出された“気づき”を深める意味での無意識を探るインタビュー、加えて「ライフヒストリー」を背景としておさえるための生活2次データの応用。これだけを組み合わせることで、実は生活の実態に“気づき”を持つことができるのだ。単純に“気づき”、生活の断片としての実態と言っているが、これは一過性の重箱の隅の話ではない。
むしろ、時間的な射程距離でいえば30年くらいの有効性のある実態の把握であり、予測ということができる。むしろ、大規模であっても定量調査で把握されている現象のほうが、はるかに一過性で射程距離の極めて短いものなのである。
「生活日記」からの”気づき”
ちょうど20年前に記載された「生活日記」がある。1994年の夏、子育てママの生活の断片がありありと見えてくる。この1日の生活の中に、ママの妹と自分の子供が遊んでいる場面が出てくる。これはまさしく「叔母と姪」という関係性の芽ということになる。20年前に“気づき”を持って整理していた実態は、長い射程距離で現在につながっている。
また、夫の実家で過ごしている別のママの1日の中には、いとこ達と一緒に遊んでいる場面が出てくる。このシーンにプラレールが登場してくる。実家、プラレール、この組み合わせはまさに現在そのものなのである。そして、兄弟姉妹たちの子供たち、つまり“いとこ”同士で遊んでいるシーンが日常的な頻度で登場していることがわかる。
実家がふるさとにあって、遠く離れていた時代から、近接地に実家が存在するようになったことで登場する生活場面である。
このように定性的に、生活の実態の“気づき”を作ることは、事実と無意識を明確に把握するだけでなく、極めて射程距離の長い予測を可能にすることが重要なのである。
ここに足場を置かないことから「マーケティングの嘘」は繰り返し生み出されるのである。このことを『マーケティングの嘘』というタイトルで新潮新書より出版することになりました。1月15日には書店に並ぶ予定なのでご期待ください。
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