デジタルウェルビーイングとは?配慮した製品の事例を紹介
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今後「デジタルウェルビーイング」は、マーケティング戦略においても重要な意味を持つようになるでしょう。今回は、デジタルウェルビーイングが企業にもたらす影響や活用方法、デジタルウェルビーイングに配慮した製品の事例や取り組みについて詳しく解説します。
デジタルウェルビーイングとは?
デジタルウェルビーイングとは、スマートフォンやPCなどのデジタル端末と共生しながら、心身の健康や幸福を実現しようとする考え方です。これと良く似た概念が生まれたのは2013~2014年ごろ。当時はデジタルデトックスという言葉が流行していました。デジタルデトックスは、スマホ中毒やSNS疲れといったデジタルの負の側面に着目し、できるだけスマートフォンやPCから距離を置いて生活しようとする考え方です。
一方のデジタルウェルビーイングは、デジタル端末を敬遠するのではなく、上手に共生しようとする点に特徴があります。
無理にデジタル端末を遠ざけると、好きなゲームをプレイできなかったり動画が見られなかったりと、かえってストレスがたまります。デジタル端末とうまく共存できれば、デジタルのメリットを最大限に享受しながら、心身の健康と幸福度まで高めることが可能なのです。
ウェルビーイングについて
ウェルビーイング(well-being)とは、心と体が共に健康で満たされた状態を意味します。単に「幸せ」と意訳されることもあります。1948年、WHO(世界保健機関)の憲章に「well-being」と記載されたのが始まりです。近年は日常生活でデジタル端末を利用する機会が多く、スマホ中毒やSNS疲れなどが問題視されています。そこで「ウェルビーイング」に「デジタル」を加えたデジタルウェルビーイングという言葉が誕生しました。
デジタルウェルビーイングが注目された背景
デジタルウェルビーイングが注目を集めはじめたのは、2018年5月に開催された「2018 Google I/O」というイベントがきっかけです。同イベントに参加したGoogle製品管理バイスプレジデントのサミール・サマット氏がユーザーのデジタルウェルビーイングの重要性について解説しました。その後、同社の新OS「Android 9 Pie」にデジタルウェルビーイング機能が追加されたことで、Appleをはじめとする他社も追随し、この言葉が世界的に注目されるようになります。

日本におけるデジタルデバイスの利用状況
スマートフォンなどのデジタルデバイスは、私たちの生活に深く根付いており、仕事や勉強、娯楽など、さまざまな場面で幅広く利用されています。ここでは、日本におけるデジタルデバイスの利用状況を総務省のデータをもとに解説します。モバイル端末の普及率
総務省が発表した令和6年版「情報通信白書」によると、2023年の情報通信機器の世帯保有数は、「モバイル端末全体」で97.4%に達していることが明らかになりました。
さらに、内訳を確認すると、「スマートフォン」の保有率は90.6%、「PC」は65.3%でした。特に、スマートフォンが他の情報端末と比べて、普及速度と浸透度が際立っている点が特徴的です。スマートフォンは登場以来、爆発的な勢いで普及率を伸ばし、今では1人につき1台の情報端末としてシェアを拡大し続けています。
出典:総務省「令和6年版情報通信白書」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r06/pdf/n21b0000.pdf
インターネットの利用状況
2023年における日本国内のインターネット利用状況をみると、個人の利用率は86.2%でした。この結果から、情報インフラとしてのインターネットが普段の生活に深く浸透していることがわかります。

また、個人の年齢層別にインターネット利用率を確認すると、13~69歳までの幅広い年齢層において、利用率が9割を超えているという結果も出ています。若年層だけでなく、中年層までインターネットが生活に不可欠なツールであるといえるでしょう。
「【年代別】インターネット利用率を紹介!シニア層へのアプローチ方法についても解説」
出典:総務省「令和6年版情報通信白書」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r06/pdf/n21b0000.pdf
総務省「令和5年通信利用動向調査」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/data/240607_1.pdf
SNSの利用率
日本のソーシャルメディア利用者数は、今後も拡大し続けていくことが予想されます。2023年には1億580万人に達した利用者数は、2028年には1億1,360万人に増加する見込みであり、その勢いはさらに加速するといわれています。
また、日本で利用率の高いSNSプラットフォームは、多い順にLINE94.9%、YouTube87.8%、Instagram56.1%、X(旧Twitter)49.0%、TikTok32.5%、Facebook30.7%でした。注目すべきはLINEの圧倒的な利用率です。すべての世代で80%を超える利用率であり、コミュニケーションの基盤となるインフラメディアといえます。
さらに、年代別のSNS利用率全体をみても、10~20代では90%以上、30~40代でも80%後半と高い水準です。50~60代においても70%を超える利用率になっており、特定の年代に限らず、幅広い年齢層に浸透しています。
出典:
総務省「令和6年版 情報通信白書の概要」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r06/html/nd217100.html
総務省「令和5年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000976455.pdf
総務省「令和5年通信利用動向調査」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/data/240607_1.pdf
デジタルウェルビーイングに対する意識
2019年にデロイトトーマツグループが実施した「世界モバイル利用動向調査(Global Mobile Consumer Survey)」では、日本のデジタルデバイスユーザーの意識が、世界的にみて特徴的であることがわかりました。
世界28の国と地域、4万人以上のモバイルユーザーに対する調査で、日本人は他国の人々と比べて、「自分はスマートフォンやタブレットを使いすぎている」と感じる割合が低いという結果が報告されています。
また、具体的な行動についても違いがみられました。例えば、「スマートフォンの電源を意識的に切る」「使用頻度の高いアプリを削除する」など、利用時間を減らすための対策を講じる人の割合が、他国と比較して日本は少ない傾向があります。
出典:デロイトトーマツ「「世界モバイル利用動向調査 2019」を発表」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000260.000000202.html
デジタルデバイスの使用が及ぼす影響
日常生活に欠かせないデジタルデバイスですが、普及と利用の拡大により、私たちの心身や社会にさまざまな影響を与える可能性があります。ここでは、デジタルデバイスの使用がもたらす多岐にわたる影響について紹介します。
身体的な影響
スマートフォンをはじめとするデジタルデバイスに長時間没頭する現代人のライフスタイルは、運動不足を招きやすく、体力の低下や肥満などの健康問題のリスクを高める可能性があります。
目を酷使することにより眼精疲労を引き起こしやすく、不自然な姿勢でスマートフォンなどを見ることで、ストレートネックを誘発することも少なくありません。また、就寝前にスマートフォンなどをみる習慣があると、睡眠リズムが崩れやすくなり、質の高い睡眠を妨げる要因となることも懸念されています。
心理的な影響
近年、ゲームやインターネットの過度な利用は、精神的な健康を損なう要因と指摘されています。オンラインの世界への過度な没入は、ゲーム依存やインターネット依存などの状態を招く可能性があるため、注意が必要です。
一度依存状態に陥ると、自分でインターネットの利用時間や頻度の調整が難しくなり、日常生活に支障をきたしやすく、精神的な苦痛をともないます。また、オンラインでの過度なつながりは、プレッシャーや不安、気分の落ち込みなど、心の健康を悪化させる可能性も示唆されています。
社会的な影響
SNS上での心ない言葉や、子どもたちの間でのネットいじめは深刻な課題です。匿名性や相手の顔が見えないという特性が、他者を傷つけることへの抵抗感を薄れさせ、不適切な発言や投稿へとつながりかねません。
これらの行為により、被害者に深い心の傷を与え、最悪のケースでは痛ましい結果を招く可能性もあります。また、SNSは手軽に情報を得られる反面、闇バイトや薬物の過剰摂取など、安易に危険な情報に触れてしまう可能性があることが問題視されています。
デジタルウェルビーイングがビジネスにもたらす影響
企業がデジタルウェルビーイングを活用することで、社内と社外の両方に良好な影響を与えます。社内にもたらす影響と、社外にもたらす影響に分け、それぞれ解説します。
社内にもたらす影響
主にデジタルウェルビーイングの施策が作用するのは、企業の従業員に対してです。日常生活にデジタルが浸透するのに伴い、今では数多くのデジタル端末やITソフトなどを使って仕事を行います。
その上でデジタルとの良好な関係を築き、従業員の健康や幸福を実現できれば、健康経営の促進へとつながります。社員のやりがいや働きやすさが向上した結果、心の健康度が高まり、離職率の低下や生産性の向上などのメリットが生まれるでしょう。
社外にもたらす影響
デジタルウェルビーイングが作用するのは従業員だけではなく、ビジネスにも効果を発揮します。そもそもデジタルによって利益を生み出しているGoogleがデジタルウェルビーイングに着目したのは、ユーザーの健康や幸福が実現してこそ長期的な売上が拡大できると考えたからでしょう。
そのため、Googleがユーザーに優しいOSを提供したのと同様、デジタルウェルビーイングはマーケティングや営業活動にも活用できます。
デジタルウェルビーイングに配慮した製品・取り組み事例
DX化やデジタルマーケティングの推進が加速する現代において、デジタルウェルビーイングの重要性はますます高まっていく可能性があります。ここでは、デジタルウェルビーイングに配慮した事例を紹介します。
Google|デジタルデバイスと距離を置くAndroid機能の開発
GoogleのAndroidには、デジタルデバイスと距離を置く機能がついています。
・Dashboard
アプリの利用時間やスマートフォンのロック解除回数、通知の受信頻度や時間帯を客観的に把握できる機能です。
・App timer
それぞれのアプリに対して、1日に利用できる時間の上限を設定できる機能です。設定した時間を超えると通知が表示され、アプリのアイコンが目立たないように変わり、使いすぎを防ぐよう促します。
・Do Not Disturbモード
従来の着信音や通知音を消音にする機能だけでなく、最新バージョンでは、画面に表示される不要な情報を非表示にできます。スマートフォンを伏せるだけで、自動的にモードが切り替わります。
・Wind Downモード
Googleアシスタントに設定した就寝時刻を伝えると、自動的に通知を抑制するモードに切り替わるとともに、画面表示がモノクロに変わる機能です。
Apple|デジタルウェルビーイングを促進するiOSの開発
Appleが提供するiphoneのOS「iOS」にも下記の機能が搭載されています。
・おやすみモード
睡眠中や集中したい時間帯など、ユーザーが指定した時間帯に、着信やアプリからの通知を一時的に抑制する機能です。
・通知の管理
アプリごとに通知の受信設定を細かく調整できる機能です。
・Screen Time
スマートフォンの利用状況を詳しく記録し、レポートとして提示する機能です。利用時間や使用したアプリの内訳、アプリごとの利用頻度、1時間あたりの平均利用時間などの把握に便利です。
SuperBetter|メンタルヘルスを向上するアプリ開発
SuperBetterは、利用者のデジタルウェルビーイングをサポートするために開発されたアプリです。アプリの指示に従うことで肉体的・精神的ストレスへの耐性を高められるため、従業員向けのデジタルウェルビーイングに効果的です。
Meta(旧Facebook)|「いいね」数の非表示化
Metaでは、利用者のデジタルウェルビーイングを向上させるための一環として、同社が運営するInstagramの「いいね」を非表示化しました。この背景には、「いいね」の数を競うことがユーザーの目的となりやすく、Instagramの利用時間が増加傾向にあることが考えられます。
さらに、Instagramに投稿した後の「いいね」の数に感情が揺れ動くことで、精神的に不健康な状態を招きかねません。一方、「いいね」を非表示にすることで、他者の評価を過度に意識する必要がなくなり、精神的に健全な状態を維持する効果が期待されています。
また、Metaはアプリの過度な利用を防ぐための機能として、通知を一時的に停止する「Quiet Mode」を導入しています。
講談社|出版物でデジタルとの共存を提案
世界の情報を発信するオンラインメディアのクーリエ・ジャポン(講談社)は、2021年10月号の特集において「デジタルウェルビーイング」をテーマに取り上げました。
「依存から共存へ これからのデジタル・ウェルビーイング」と題されたこの特集では、パンデミックを経てオンラインでの活動が日常となった現代社会における課題に焦点を当てています。
記事内ではデジタルにただ依存するのではなく、より健全な関係性を築き、ともに生きる道を探ることに重点が置かれています。
ヤフー(現LINEヤフー)|エンジニアやデザイナーなどの勉強会の開催
ヤフーが運営する技術者・デザインコミュニティ「Bonfire」は、2020年1月にデジタルウェルビーイングをテーマとした学びと交流の場を設けました。
さまざまなサービスやプロダクトを提供する立場にあるエンジニアやデザイナーたちが集まり、ユーザーにとって健康的で快適なデジタル環境をつくるにはどうすれば良いかなど、それぞれの視点から意見を交わしました。
まとめ
デジタル端末とうまく共存をはかりつつ、肉体的・精神的な健康と幸福を手に入れようとするデジタルウェルビーイング。2018年に注目度が高まってから、徐々に導入を検討する企業が増えてきました。
企業がデジタルウェルビーイングを活用することで、社内外で大きなメリットをもたらします。日本のデジタル利用状況を理解し、ユーザーと従業員両方のデジタルウェルビーイングに貢献するためのマーケティング戦略をぜひ検討してみてください。