マーケティングコラム

農業が抱える課題と解決策|解決につながる取り組み事例も紹介

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深刻な人手不足や気候変動といった多くの課題に直面している日本の農業。一方で、テクノロジーの進化や持続可能性への意識の高まりにより、ビジネスの可能性も広がっています。今回は、農業が抱える主要な課題と、それに対する具体的な解決策、さらに課題解決につながる先進的な取り組み事例を紹介します。

 

農業の課題

日本の農業は今、多方面で深刻な課題を抱えています。ここでは、その中でも特に影響が大きいとされる「担い手不足」「耕作放棄地の増加」「価格競争」「自給率の低下」「気候変動」の5つに焦点を当て、現状と背景をわかりやすく解説します。

高齢化による担い手不足

日本の農業では、担い手不足が深刻な課題です。特に、自営農業を主な仕事としている「基幹的農業従事者」の数は年々減少しており、2020年時点で136.3万人だったのに対し、2024年には111.4万人まで落ち込んでいます。

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同時に平均年齢も上昇傾向にあり、2020年には67.8歳だったのが2024年時点では69.2歳となっています。さらに新たな人材の確保も難航しており、2023年の新規就農者数は4.4万人で、2019年時の5.6万人から1万人以上減少しています。

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こうした背景から、農業の持続可能性が強く懸念されており、若手の参入促進や労働環境の整備が急務とされているのです。

出典:
農林水産省「農業労働力に関する統計」
https://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/08.html

農林水産省「令和5年度 食料・農業・農村白書」
https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r5/r5_h/trend/part1/chap4/c4_2_00.html

耕作放棄地の増加

耕作放棄地の増加も、日本農業における長年の課題のひとつです。担い手の高齢化や後継者不足などの要因により、農地が使われないまま放置されるケースが増えています。実際、耕作放棄地の面積は1990年の約21.7万ヘクタールから、2010年には39.6万ヘクタール、2015年には42.3万ヘクタールへと拡大し、20年余りでほぼ倍増している状況です。

問題の深刻さは長く認識されているものの、有効な解決策はなかなか進んでおらず、農業の生産基盤そのものを揺るがすリスクです。今後、農地の再活用や管理体制の見直しが求められています。

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出典:農林水産省「荒廃農地の現状と対策について」
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/2030tf/281114/shiryou1_2.pdf

CPTPPによる価格競争

CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)の影響により、日本の農業は国際的な価格競争にさらされています。
従来は、国内市場内での競争が中心でしたが、CPTPPの発効によって関税が引き下げられ、価格の安い外国産農作物が流通しやすくなったことで、国内農家もコスト面での競争を強いられるようになりました。

このような環境下では、農業の効率化や生産コストの削減に加え、独自の販路を確保してブランド価値を高めることが重要です。

食料自給率の低下

日本の食料自給率は、長期的に低下傾向が続いており、2023年時点ではカロリーベースで38%と、先進国の中でも極めて低い水準です。1965年度には73%あった自給率が、2022年度には半分近くに落ち込みました。

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政府は、2030年度までに45%への回復を目標としていますが、現状から見て達成は容易ではありません。さらに、世界的な人口増加によって食料需要は今後も増えると予測されており、輸入依存が続く日本にとってはリスクです。

関連記事:「日本の食料自給率の現状は?課題や改善策、食料自給率のもたらす影響について解説

出典:
農林水産省「日本の食料自給率」
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/012.html

農林水産省「令和2年度 食料・農業・農村白書 第1節 食料自給率と食料自給力指標」
https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r2/r2_h/trend/part1/chap2/c2_1_00.html

気候変動による生産リスクの増加

気候変動の影響は、農業にも深刻な影響を及ぼしています。近年では、猛暑や集中豪雨、台風の勢力増大といった極端な気象が頻発しており、作物の生育に支障をきたすケースが増えています。

さらに、気候の変化によって病害虫の発生範囲や時期にもズレが生じ、従来の農業技術では対応が難しくなっているのが実情です。このような状況では、生産計画の見直しや栽培方法の再構築が求められ、農業経営の先行きが見通しづらくなっています。

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農業の課題解決策

農業が直面する課題は根深く、従来の延長線上では解決が難しいものもあります。しかし、発想を転換し、新たな視点や技術を取り入れることで、突破口が見えてくるケースも少なくありません。ここからは、今注目されている解決策を紹介します。

スマート農業の実施

人手不足や高齢化といった課題に対応する手段として注目されているのが、IoTやAI、ロボット技術を活用した「スマート農業」です。

これらの先端技術を取り入れると、作業の自動化やデータに基づく最適な農作業が可能になり、効率化と省力化の両立が実現します。例えば、ドローンによる農薬散布やセンサーによる生育状況の可視化など、現場の負担軽減にも大きく貢献しています。

農地や経営の大規模化

日本の農業では、小規模・分散化された農地が多く、作業効率の低さが課題になっています。その解決策として期待されているのが、農地の集約と経営の大規模化です。

複数の農地をまとめて管理し、共同経営を行えば、大型機械やICTシステムの導入が可能になり、生産性の向上につながります。作業時間や人手の削減に加え、収穫量の増加によって農家の所得向上も見込めるため、経営の安定化を目指す上で有効な手段といえるでしょう。

農作物のブランド化

海外からの安価な農産物との競争が激化する中で、農作物のブランド化は重要な差別化戦略です。特定の地域や生産方法にこだわった商品としてブランド価値を高めれば、価格競争に巻き込まれにくくなり、単価の向上が見込めます。

ブランド化が成功すれば、大規模な生産体制を持たない農家でも安定した収益を確保しやすくなるのです。ブランド化は、消費者からの信頼を得る手段でもあり、販路の拡大や輸出の機会にもつながる可能性も秘めています。

持続可能な農業の促進

持続可能な農業の推進は、SDGsの目標とも深く関わっています。特に「目標2:飢餓をゼロに」を実現するには、地球環境を守りながら安定した食料供給を続ける農業のあり方が欠かせません。

また、「目標12:つくる責任、つかう責任」に基づき、連作による土壌劣化や過度な農薬使用など、環境への負荷を減らす取り組みも求められています。将来にわたって農業を持続可能な産業とするには、自然との調和を意識した生産体制への転換が重要です。

関連記事:「SDGsの活かし方、企業での取組事例を紹介!

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農業の課題解決につながる取り組み事例

農業が直面するさまざまな課題に対し、実際に解決に向けた取り組みを進めている企業や団体も存在します。ここでは、先進的な技術や新しい仕組みを導入し、農業経営の改善に成功している国内の事例を2つ紹介します。

事例1|新規生産者にベテラン生産者の経験を共有

東日本電信電話株式会社が提供する「eセンシング For アグリ」は、センサーとネットワークを活用して農場の状態をリアルタイムで可視化できるシステムです。温度、湿度、照度、土中水分、土中温度といった詳細なデータが取得できるため、ベテラン農家の経験や勘に頼っていた作物管理を、数値に基づいて行えるようになります。

例えば、栽培が難しいとされるブランド野菜「セルリー」においても、新規就農者が安定した品質の作物を育てやすくなり、技術の平準化や生産性の向上に貢献しています。このようなICTの活用は、知見の継承や人材育成にもつながりそうです。

事例2|新しい流通の仕組みによりコストを下げて提供

株式会社やさいバスが展開する「やさいバス」は、農家と購入者をつなぐ新しい流通の仕組みとして注目されています。農家はWebサイトを通じて注文を受けた後、最寄りのバス停に野菜を持ち込みます。その後、地域を巡回する冷蔵トラックが集荷し、当日中に購入者へ届ける仕組みです。

静岡県内であれば一律400円という低コストで配送可能で、遅くとも翌日には新鮮な野菜を小売店などに届けられます。このビジネスモデルは、物流コストの削減とスピーディな供給を両立させており、農家の販路拡大と収益安定にもつながる実践的な取り組みといえるでしょう。

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まとめ

日本の農業は、多くの課題を抱えていますが、テクノロジーの活用や流通改革などにより、新たな可能性が広がっています。今回紹介した事例や解決策は、農業分野での新規事業を検討する上で有益なヒントとなるはずです。課題の本質を理解し、柔軟な発想で取り組むことが成功の鍵といえるでしょう。

 

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