技術と市場の「言葉の壁」を壊す。未来を動かす「共通言語」の作り方
写真右)弊社 コンサルティング本部 インサイトコンサルティング部 高木
技術の「面白い」と企画の「売れるのか」——。多くのメーカーが抱えるこの溝を、どう埋めるか。
コクヨ株式会社のグローバルワークプレイス事業本部では、長期未来シナリオを策定しながらも、独自のデザイン・技術を市場ニーズへどうつなげるかという課題に直面していました。
今回のプロジェクトでは、R&D・企画・デザインが縦割りになりがちな組織の壁を越え、技術と市場の「共通言語」をどう作るかに挑戦。クロス・マーケティングのインサイトコンサルティング部門が、上流のシナリオ読解からワークショップ設計・定量調査まで一気通貫で伴走した支援事例をご紹介します。
ご相談企業様のご紹介
1905年創業。文房具・オフィス家具の製造・販売から空間デザイン・コンサルテーションまでを手がける、国内事務用品業界最大手。「Campus(キャンパス)ノート」をはじめとする文具ブランドと、オフィス空間づくりを支援するワークプレイス事業を両輪に、「WORK & LIFE STYLE Company」として働く・学ぶ・暮らすの領域で事業を展開。生活者の視点を軸にした価値ある空間と商品の創造に取り組んでいる。
ものづくり開発本部
商品戦略部
商品戦略の立案を担当。メーカーとしての3〜5年スパンの方針策定から、長期未来シナリオの作成まで主導。技術と市場の接点を作ることをミッションの核に据えている。
ものづくり開発本部
商品戦略部
特定テーマの企画発案と市場分析を担当。技術の棚卸しと市場の穴の発見を役割とし、企画と開発の橋渡しを担う。
プロジェクト概要
課題
・長期スパンの未来シナリオを策定し、独自技術の市場価値化に取り組んでいたが、技術と市場ニーズをつなぐ客観的な根拠が必要だった
・R&D・企画・デザインが同じ方向を向くための、共通言語と合意形成の場が必要だった
取り組み
・未来シナリオと技術の間に「機能・効能・便益」のレイヤーを挟む「SN変換」を用い、R&Dと企画が議論できる共通言語を設計
・職種横断のワークショップと定量調査を組み合わせ、ニーズ仮説を検証
効果
・4つのニーズグループと価値観が特定され、中長期の開発方針の羅針盤として機能
・「みんなで考えた」共通体験が生まれ、技術・企画間の合意形成がスムーズに
Interview

不確実な未来に、あえて視点を飛ばした理由
──まずは、お二人の業務上の役割と、今回長期のスパンで未来シナリオを策定された背景を教えてください。
コクヨ 岡田 和人様(以下、岡田様):私のミッションは商品戦略の立案です。 メーカーとして3〜5年先のスパンでどこを目指すべきかという指針を出すことは重要ですが、短期的な目標だけでは「会社が本当に目指すべき姿」が見えにくくなります。 そこで、あえてさらに先まで視点を飛ばしたシナリオを作成しました。 不動産供給の状況から2030年までは予測がつきますが、その先は極めて不透明です。 この不確実な未来に対して、働く人の価値観の変化を議論の軸に据えるため、シナリオを活用することにしました。
コクヨ 森 芽以様(以下、森様): 私は特定のテーマに関する企画発案や市場分析を担当しています。 シナリオで描かれる未来にワクワクする一方で、社内では「本当にそうなるのか?」と意見が割れることもあり、不確実な未来を定義して目指す難しさを感じていました。
CM 高木(以下、高木): 多くの企業が「未来予測」に挑みますが、コクヨ様の素晴らしさは「労働の流動化」と「技術進化」という2軸で4つの異なる未来を設計された点にあります。未来は確定した一点ではなく、複数の可能性のグラデーションです。不確実な未来を「4象限」として構造化したことで、戦略に落とし込みやすい柔軟な土台が完成していました。
技術者の「面白い」と、企画者の「売れるのか」という溝
――シナリオを具体的な商品開発の方針に落とし込む際、どのような壁がありましたか?
岡田様: 技術メンバーの「こんな面白い技術がある」という熱意に対し、我々企画側は「それは市場で売れるのか?」という、いわば「論語と算盤」のような噛み合わない議論になりがちでした。 投資規模が大きくなる中で、「まずはやってみよう」という勢いだけで判断することが難しく、両者の距離を埋めるための客観的な裏付けが必要になっていたのです。また、組織が大きくなり関わる人数が増えるほど、全員で足並みを揃えて同じ方向を向くこと自体が難しくなっていました。社内の議論だけではどうしても限界がある中で、外部の客観的なフレームワークを導入することで、組織としての合意形成を前向きに進めたいという狙いもありました。
高木: リサーチの本質的な価値は、単なる「可否の判断(ジャッジ)」ではありません。私は、リサーチを「組織の探求心を刺激し、新しい挑戦を後押しする主体的なプロセス」と定義しています。技術と市場が対立するのではなく、双方が同じ熱量で「この未来のワーカーのために何ができるか」を語り合える場を作ること。それこそがインサイトコンサルタントの介在価値だと考えています。
「社内の想い」を「市場の確信」に変える
――数あるパートナーの中から、クロス・マーケティングを選んだ決め手は何でしたか?
森様: 出てきたアイデアが本当に技術に繋がるのかという不安はありましたが、最終的に「定量的なデータによって裏付けられる」という点が大きな決め手でした。
岡田様: 社内の熱意だけでは説得力が弱い場面でも、社外のお客様の本音を定量的に裏付けることができれば、それは強力な武器になります 。独自の技術(シーズ)を市場ニーズへ変換し、さらにそれを定量調査で検証できるという「Seeds-Needs Bridge」の一気通貫したメソッドに、他社にはない魅力を感じました。
「点」から「ツリー構造」へ。
組織の納得感を生んだ「Seeds-Needs Bridge」の威力
未来から逆算し、思考を強制的に「跳躍」させるプログラム
――実際に行われたニーズ仮説構築ワークショップでは、どのような変化を感じましたか。
森様: 外部の方を交えたワークショップは堅苦しくなりがちですが、最初に「一度アイデアを出してみないと次が出ない」と断言していただけたことで、心理的ハードルが下がり、若手でも非常に発言しやすくなりました。不確実な未来に対し、現状の技術をどうすべきか、他部門のメンバーと丸1日缶詰になって強制的に考える時間は刺激になりました。
岡田様: 普段はどうしても「この商品に対してどうするか」という限定的な視点になりがちですが、不確実な未来に対して、他部門のメンバーと丸1日缶詰になって「妄想」する時間は新鮮でした。今回のワークでは「未来のワーカーが何を求めているか」という、より広い視点から議論をスタートさせることができました。
高木: シナリオと技術の距離を埋めるため、あえて直接的な解決策ではなく、ユーザーの「感情」から入り、概念的な場を定義した上で空間や家具に落とし込むという順序を設計しました。具体的には、「SN(シーズニーズ)変換」という手法を用い、距離が遠すぎて直接結びつけることが困難なシナリオ(未来)と技術(現状)の間に、「機能・効能・便益(ファンクション)」というレイヤーを挟んでいます。直接ニーズとシーズを繋ぐのではなく、このファンクションを経由することで、R&Dと企画が同じ土俵で議論できる「共通言語」が生まれます。さらに発想ツール「IF60」を活用し、一見関係なさそうな要素を強制的に結びつけることで、既存の枠組みを超えた思考の跳躍を設計しました。
アイデアを「ツリー構造」で捉える独自の価値–「感情」から「空間」へ。ニーズを多層的に構造化する
――ワークショップから得られた結果で、特に印象的だった点はどこでしょうか。
岡田様: 出てきたアイデアが「ツリー構造(塊)」として整理されていたのが非常に良かったです。単発の「点」のアイデアでは行き詰まることもありますが、構造化されていることで、そこからさらに別のアイデアへ発展させるチャンス(含み)が生まれます。 また、4つのニーズグループに具体的な価値観(ペルソナ)が紐づいていたことで、時代によって言葉の捉え方が変わっても、根底にある価値観をベースに議論できる点が心強く感じました。
高木:今回は、機能以上に情緒的な価値を左右する「デザイン・技術」を扱っていたため、中長期的にどのような方向で価値を深めるべきか、その指針を示すことを重視しました。単なる「技術の棚卸し」に留まらず、ワーカーが求める体験からニーズを導き出し、技術の用途を多層的に構造化しています。その結果、重点的に取り組むべき4つのニーズグループを特定し、これからの商品開発における確かな羅針盤を提示することができました。

「綱引き」から「全員で決めた」という一体感へ
――このプロジェクトを経て、組織の雰囲気や連携に変化はありましたか。
森様: 上流のアイデア出しの段階から企画と技術が一緒に考えることで、最後に出てくるアウトプットも両者の視点を踏まえたものに変わると実感しました。
岡田様: 各部門が別々に決める「綱引き」の状態ではなく、全員で一緒に悩んだ体験によって、「みんなで考えた」という納得感や一体感が生まれやすくなりました。 クロス・マーケティングは、私たちが作成したシナリオを徹底的に読み解き、私たちの目指す方針にしっかり伴走してくれました。単なる調査会社ではなく、共に未来を探究する「主体(パートナー)」だと感じています。
高木: コンサルタントとしての私の役割は、単に「調査票を引く」ことではありません。コクヨ様が描かれたビジョンという大きな問いに対して共に試行錯誤し、組織の中に次の一歩への「スパーク(熱量)」を生み出すことで、新しい挑戦を後押しすることです。戦略的な意思決定に資する「良質な情報」を届け切る。その積み重ねが、お客様との「探究の主体」としてのパートナーシップを築くと信じています。
未来に向けて、コクヨが届ける「働く喜び」
――最後に、未来に向けた展望をお聞かせください。
森様: 未来に向けて、ワーカーが思わず「オフィスに行きたくなる」ような、ワクワクする空間や家具を届けていきたいです。何気ない会話が生まれたり、ほっと一息ついてリラックスできたり。そんな居心地の良い場所を、ひとつずつ増やしていきたいと思っています。
岡田様: 単にかっこいい形を作るのではなく、「なぜこれが役に立つのか」「触った時にどんな気持ち良さがあるのか」を論理的に説明できるモノづくりを追求したい。お客様に「ここは諦めていたけど、こんなこともできるんだ!」と驚いてもらえるような価値を提供するため、今から準備を加速させていきます。
おすすめのポイント:Seeds-Needs Bridge
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「機能(ファンクション)」を経由するSN変換: 技術とニーズを直接結びつけず、間に「機能」を挟むことで、R&Dと企画の共通言語を作ります。
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未来を先取りする層へのリサーチ: 一般的な市場調査では拾えない、未来の働き方を実践し始めている層(アーリーアダプター)の本音を定量化します。
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ツリー構造のアウトプット: アイデアを構造化することで、単なる流行に左右されない、中長期的な開発方針の土台を構築します。





