生成AIの利用は世界的に広がっているものの、その普及状況は国によって大きな差が見られます。特に日本においては、個人や企業での利用率が低く、他の先進国と比較するとその差は顕著です。今回は、日本と海外の生成AI利用状況を比較し、日本が取り組むべき課題を探ります。
【日本・海外比較】生成AIの利用率の現状
生成AI（生成的人工知能）の利用は世界各国で注目されていますが、日本と他国では、利用状況に大きな違いが見られます。日本の活用状況を詳しくみていきましょう。
個人の利用率
生成AIの個人利用について、日本の利用率は26.7％となっており、他国と比較して低い水準です。例えば、中国では81.2％、米国では68.8％、ドイツでは59.2％と、AI先進国では圧倒的に高い利用率を記録しています。この差は、生成AIに対する理解度や教育、インフラの整備状況などが影響していると考えられます。
特に中国は、政府主導でAI技術の普及を進めており、その影響を受けて個人の利用率が非常に高くなっています。米国やドイツも、テクノロジーへの積極的な投資と教育プログラムの充実により、生成AIの個人利用が進んでいる状況です。
出典：総務省「令和7年版 情報通信白書」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/nd112210.html#f00035
企業の利用率
企業における生成AIの利用状況も、国によって大きな差があります。生成AIを活用する方針を策定している日本企業の割合は、約5割にとどまっている現状です。これに対して、中国や米国、ドイツの企業では約9割の企業がAI活用方針を策定しています。
中国や米国、ドイツでは、すでに政府の支援や企業の投資が活発に行われており、生成AIがビジネスの成長を促進する要素として位置づけられています。
一方で、日本企業も生成AIの活用に関する意識は徐々に高まっており、今後数年で企業の利用率も改善する可能性があるでしょう。
出典：総務省「令和7年版 情報通信白書」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/nd112220.html
生成AIの活用をはばむ課題
日本における生成AIの導入は、他国と比較して低調な状態が続いています。その理由として、個人や企業が抱える懸念事項が影響していると考えられます。生成AIの導入に対する懸念について解説します。
個人の懸念事項
個人の生成AI利用に関する懸念は、主に以下の2つの理由に集約されます。
まず1つ目は、「自分の生活や業務に必要ない」という理由です。実際に、テキスト生成AIサービスを利用しない理由として、40.4％の人がこの理由を挙げています。
生成AIが個々のニーズに合致しないと感じる人が多く、実生活での利用価値を見出せないことが大きな障壁となっています。例えば、日常業務で十分に役立つツールだと認識されない限り、生成AIは普及しづらいといえるでしょう。
次に、「使い方がわからない」という点も大きな要因です。38.6％の人がこの理由を挙げており、使い方が不明確なために利用を控えているという状況が見受けられます。
特に、テクノロジーに対して馴染みが薄い層にとっては、生成AIを活用するハードルが高いことがわかります。教育やサポートが不十分であるため、個人の利用促進に向けた取り組みが急務といえるでしょう。
出典：総務省「令和7年版 情報通信白書」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/nd112210.html#f00035
企業の懸念事項
企業においても、生成AIの導入に対する懸念が多く存在しています。
特に「効果的な活用方法がわからない」という問題が最も多く、生成AIがどのように業務に役立つのかが見えていない企業が多いのです。企業が生成AIを導入するためには、具体的な活用方法やビジネスにどのように組み込むかについての明確な方針が必要です。
また、「社内情報の漏えい等のセキュリティリスク」や「ランニングコストがかかる」「初期コストがかかる」という点も懸念されています。
特に情報漏洩のリスクに敏感な企業にとって、生成AIを活用することがどれほど安全かという問題が重要な課題となります。さらに、導入にかかるコストに対して、効果をすぐに実感できないとしたら、導入を見送る企業が多いのも理解できます。
一方で、「生成AIの活用による効果・影響」については、ポジティブな意見もあります。多くの企業が「業務効率化や人員不足の解消」につながると考えており、生成AIが業務改善に寄与する可能性を期待しています。
なお、他国（中国、米国、ドイツ）では、生成AIによる「ビジネスの拡大や新たな顧客獲得」「新たなイノベーション」など、より広範なポジティブな効果を期待する傾向が強いことが分かります。
出典：総務省「令和7年版 情報通信白書」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/nd112220.html
生成AIの利用促進に向けた海外企業の取り組みとは？
生成AIの技術革新が進む中、海外企業はその導入を加速させるためにさまざまな取り組みを行っています。
ここでは、海外企業がどのように生成AIの利用促進を進めているのか、具体的な取り組みを紹介します。
専門的なAIリーダーシップの確立
AWSの調査によると、60％の企業はIT利用の推進において「Chief AI Officer（CAIO）」などAI専任の役職を設けているそうです。従来は主にCTO（最高技術責任者）やCIO（最高情報責任者）が担っていましたが、専任の役職を設けることで、より戦略的なAI活用が進んでいます。
例えば、Amazonでは、AIの導入が単なる技術的な進歩にとどまらず、従業員の働き方や業務の進め方にも影響を与えることを理解し、専任のリーダーを通じて組織全体でのAI活用を進めています。このような専門的なリーダーシップを持つことは、生成AIの活用を加速させる重要な要素となっています。
出典：Amazon「Generative AI Adoption Index」
https://press.aboutamazon.com/aws/2025/5/generative-ai-adoption-index
体系的なAI教育プログラムの実施
海外企業では、生成AIの導入に向けた社員教育にも力を入れています。例えば、Microsoftでは「AI Center of Excellence」を設立し、大規模言語モデル（LLM）、ニューラルネットワークの訓練、自己教師あり機械学習などの高度なスキルを従業員に提供しています。
また、Amazonでは「Machine Learning University（MLU）」を通じて、技術やコーディングの背景を持つ従業員が機械学習のスキルを習得できるようサポートしています。このような社内教育プログラムを提供することで、生成AIの活用に向けた基盤を築いているのです。これらの取り組みは、AI技術に対する従業員の理解を深めるだけでなく、企業全体のAIリテラシーを向上させる効果も期待できます。
経営層から新入社員までのあらゆる階層の参加
生成AIを企業内で効果的に活用するためには、経営層から新入社員に至るまで、全員がAI導入に関与する必要があります。
例えばMicrosoftでは、社内のあらゆるレベルの従業員に対してAI活用を推進する役割を与え、AIへの熱意と適性を広める活動を行っています。これにより、トップダウンのアプローチとボトムアップのアプローチが組み合わさり、全社的なAI活用が進んでいます。
特に、リーダー陣を巻き込む動きが重要です。具体的には、経営層が策定したAI活用の戦略に対して、現場のリーダーたちがAIを業務にどう組み込むかを実務的に考え、実行していくことが理想です。経営層と現場のリーダーが協力し合いながらAI導入を進めることで、AI活用の効果を最大化することができるのです。
まとめ
生成AIの活用は日本において躊躇がみられる一方で、海外では企業や個人の利用が進んでいます。この差は、AIリテラシーの向上、使いやすいツールの提供、教育体制の整備などの要素が影響しています。
日本企業においては、生成AIの活用方法が明確でないことや、セキュリティリスク、コスト面での懸念が導入を妨げている要因となっています。しかし、海外企業では、AI教育プログラムや専任のAIリーダーの任命などの取り組みによって、生成AIの活用を加速しています。日本もこれらのアプローチを参考にし、生成AIを積極的に導入するための環境整備が求められます。
