AI規制の現状とは|マーケティング担当者が留意すべきポイントを解説
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生成AIの進化と普及により、企業のマーケティング活動でもAIの活用が急速に広がっています。広告コピーの自動生成から顧客分析まで、その利便性は高い一方で、誤情報の発信や個人情報の取り扱いといった新たなリスクも顕在化してきました。
こうした背景から、AIの利活用に関する「規制」や「ガイドライン」への理解が、マーケティング担当者にとって不可欠です。
今回は、世界や日本におけるAI規制の最新動向を解説しつつ、マーケティング活動における具体的な留意点や、企業が取り組みたい対応策について紹介します。AIの恩恵を受けつつもリスクを最小限に抑えて活用するために、ぜひ最後までご覧ください。
AI規制の概要とその重要性
AI規制とは、AIの開発や利用による影響を制御・管理するためのルールや指針のことです。AIは医療や金融、行政などあらゆる分野に活用が広がっており、その利便性と同時に、プライバシー侵害や誤作動によるリスクといった懸念も増しています。こうした背景から、AIを安全かつ倫理的に活用するための枠組みが各国で模索されています。
日本では現時点でAI技術そのものを直接規制する法律は存在しておらず、経済産業省や総務省などが策定した自主的なガイドラインが中心です。しかし、EUが先行して法制度を整備していることや、米国・中国などの動向を受けて、日本でもAI法案の必要性が議論されつつあります。
今後は、産業振興と技術革新を妨げないバランスの取れた規制の在り方が問われるでしょう。

世界各国におけるAI規制の現状
近年、生成AIの急速な進化にともない、その規制や法整備が世界中で進められています。ここでは、EU、アメリカ、中国、韓国といった主要国・地域におけるAI規制の動向について解説します。
欧州連合(EU)におけるAI規制
EUは、AI規制において世界をリードする存在です。2024年に成立した「Artificial Intelligence Act(AI法)」は、リスクに応じた4段階の分類によってAIシステムの利用を規制しています。
・許容できないリスク:無差別の顔認識システムや社会的スコアリングなど、人権や市民の自由を侵害するAIは原則として使用禁止
・ハイリスク:医療、インフラ制御、入試選考、雇用判断など重要分野のAIは厳格な認証と監査が義務づけられる
・限定的なリスク:感情認識AI、チャットボットなどは、ユーザーへの明確な通知義務(AIであることの表示など)が必要とされる
・最小限のリスク:一般的なAIアプリケーションは原則自由に使用可能(自主的な行動指針の策定推奨)
アメリカにおけるAI規制
アメリカでは、バイデン政権下でAIの開発と利用に関する包括的な規制方針が打ち出されました。2023年には、大統領令(Executive Order 14110)により、AI技術の安全や安心の確保、プライバシー保護、イノベーションと競争力強化などの観点からAIの利用を監視・管理する枠組みが導入されました。
しかし、2025年にはトランプ大統領がこの大統領令を事実上撤回し、AI開発の自由化を重視する新たな大統領令を発令しています。また、アメリカでは連邦レベルの包括的なAI規制法は存在せず、各州が独自に法整備を進めています。
・ユタ州:生成AIポリシー法(生成AIの利用に関する透明性の確保を目的とした法律)
・コロラド州:AI規制法(アルゴリズム差別から消費者を保護する法律)
・カリフォルニア州:カリフォルニア州AI透明性法(生成AIシステムによって生成された画像や動画などがAI生成であるかどうか、評価するAI検出ツールを提供することを義務付けた法律)、生成AI訓練データ透明化法(AIの学習に使用されたデータの情報を開示する法律)
中国におけるAI規制
中国は、AIの急速な発展とその社会的影響をいち早く認識し、規制整備を強化しています。2023年8月に施行された「生成AIサービス管理暫定弁法」は、生成AIを提供する事業者に対し、内容の正確性や信頼性の向上、情報源の明示、差別を防止するための措置などを課しています。
韓国におけるAI規制
韓国では、2023年に「人工知能の発展と信頼基盤の構築に関する基本法(AI基本法)」が制定され、AIの健全な発展と市民の信頼を両立させる法的枠組みが整えられました。EUのAI法を参考にしつつ、韓国独自の視点から、透明性・安全性の確保が重視されています。
同法によりAI事業者には、ユーザーに対して「商品・サービスにAIを活用している」旨を事前に告知することや、影響度の高いAIを活用する場合は基本的人権に及ぼす潜在的影響を評価するなどの義務が課されています。
日本におけるAI規制の現状
日本では、現時点でAIそのものを直接規制する法律は整備されておらず、政府が策定したガイドラインを基盤とした自主規制が中心です。技術革新を妨げず、柔軟な対応を可能にするための措置ですが、世界的に法制化の動きが加速する中で、日本も遅れを取らないよう法整備への議論を進めています。
下記では、主な取り組みと動きをまとめました。
【2024年4月】
・経済産業省・総務省が「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」を発表
・AIを扱う企業に対して、安全性や透明性に配慮したガバナンス体制の構築を求める
【2024年6月】
・デジタル庁が「テキスト生成AI利活用におけるリスクへの対策ガイドブック(α版)」を公開
・新サービス企画時、設計・開発時、サービス実施時などシーンごとに、生成AIが引き起こしうるリスクに対する軽減策を解説
【2025年】
・通常国会で「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律案(AI法案)」が提出された
・AI関連技術の研究開発、活用の推進のために、政府が実施すべき施策の基本的な方針を明示
出典:
経済産業省「「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」を取りまとめました」
https://www.meti.go.jp/press/2024/04/20240419004/20240419004.html
デジタル庁「テキスト生成AI利活用におけるリスクへの対策ガイドブック(α版)」
https://www.digital.go.jp/resources/generalitve-ai-guidebook
内閣府「第217回 通常国会」
https://www.cao.go.jp/houan/217/index.html

マーケティング活動で留意すべきAI規制のポイント
生成AIの急速な進化により、マーケティング活動における活用機会は飛躍的に広がっています。しかし、AIが社会や消費者に与える潜在的なリスクや悪影響にも目を向ける必要があります。特に法的・倫理的な観点での配慮が欠けると、企業の信頼性を大きく損ないかねません。
ここでは、マーケティング分野でAIを活用する際に留意したいポイントを5つ紹介します。
ポイント1|プライバシーとセキュリティの侵害
生成AIは学習の過程で膨大なデータを取り込みますが、中には個人情報や機密情報が含まれていることがあります。例えば、顧客データや履歴情報を無断で学習させた場合、個人のプライバシーを侵害し、セキュリティリスクを引き起こす可能性も少なくありません。
不用意な個人データの活用は個人情報保護法違反に該当することもあります。また、顧客との信頼関係が失われ、企業イメージの低下につながるおそれもあります。
ポイント2|知的財産権の侵害
生成AIは、既存の著作物に酷似したコンテンツを出力することがあります。そのため、マーケティングにおけるAI生成コンテンツ(テキスト、画像、動画など)には著作権や商標権の侵害リスクが潜んでいます。著作権や商標権に関するトラブルは、損害賠償や訴訟に発展することもあり、事前の確認と社内ルールの整備が不可欠です。
関連記事:「生成AIは著作権侵害になるのか?AIと著作権の関係を解説」
ポイント3|誤報や偽情報
生成AIはあたかも本物のようなフェイク情報を作成できるため、意図せず虚偽の情報を発信してしまう危険性があります。例えば、架空のユーザーの口コミや誤った商品説明などです。
こうした誤情報や虚偽の内容をそのまま広告に使用すれば、消費者の誤解を招き、企業の信用失墜や風評被害につながります。生成AIを活用する際は、発信内容の事実確認を怠らない仕組みづくりが必須です。
ポイント4|透明性と説明責任
生成AIはその仕組みがブラックボックス化しやすく、「なぜその内容が生成されたのか」が明確に説明できないことがほとんどです。ゆえに、説明責任や法令遵守が困難になる場合があります。消費者や取引先から「AIで生成された情報であるかどうか」の明示を求められることもあるでしょう。
説明責任を果たせなければ、企業はコンプライアンス上の問題を抱えることになりかねません。
ポイント5|バイアス
生成AIは学習元となるデータにバイアスが含まれていると、それをそのまま出力結果に反映してしまうことがあります。例えば、AIによるターゲティング広告で性別や年齢への偏見が露呈するケースです。
生成された内容が差別的な表現や偏見につながると、企業への批判や損害賠償リスクが発生する可能性もあります。ブランドの信頼を維持するためにも、倫理的配慮と事前検証が重要です。

まとめ
AIの進化は、マーケティングの世界に革新をもたらしています。コンテンツ制作やデータ分析の効率化、自動化によって、これまで以上にパーソナライズされた戦略を展開できるようになりました。しかしその一方で、生成AIの使用にはさまざまなリスクが存在する点に注意が必要です。
今後、国内外でAI規制がいっそう厳しくなることが予想される中、企業はただ技術を導入するだけでなく、法令や社会的責任を十分に理解した上で活用する姿勢が求められます。
