ニューロマーケティングとは?メリットとデメリット、活用事例を解説
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近年、消費者の無意識の感情や行動を捉える「ニューロマーケティング」が注目を集めています。言葉では表現しにくい心理的反応を脳科学の視点で数値化し、商品開発や広告設計に応用するこの手法は、マーケティングの新たな可能性を切り開くものといえるでしょう。今回は、ニューロマーケティングの基本から活用方法、事例までをわかりやすく解説します。
ニューロマーケティングとは?
ニューロマーケティングとは、脳科学の知見をマーケティングに応用し、消費者の心理や行動の背景にある無意識の反応を明らかにする手法です。
人間は、必ずしも自分の感情や好みを言葉で説明できるとは限りませんが、近年の技術進歩により、脳波や心拍、血流といった生体信号を計測することで、その内面を客観的に可視化できるようになりました。
このような生体信号の計測を通じて、従来のアンケートやインタビューだけでは捉えきれなかった「消費者インサイト」を、より正確かつ定量的に把握できるようになったのです。ニューロマーケティングは、広告の効果測定や商品開発、ブランド戦略など、あらゆるマーケティング活動の精度を高める手段として注目されています。

ニューロマーケティングで活用する指標
テキニューロマーケティングでは、消費者の無意識的な反応を正確に捉えるために、複数の視点からデータを収集、分析します。ここでは、代表的な3つの指標である「生理指標」「行動指標」「主観指標」について、それぞれの特徴を解説します。
生理指標
生理指標とは、脳波・心拍数・血液量など、人が意図的に制御できない身体の反応を計測し、数値として捉えるものです。
これらの生体データは、消費者が何かを見たり聞いたりした際の無意識の心理変化と密接に関係しており、感情の動きを分析する上で有効といわれています。例えば、ある広告を見て心拍数が上がった場合、それが興味や興奮を示すサインです。
このような反応は、言葉や表情では把握しきれない感情を定量的に測る手段として、ニューロマーケティングの中核を担っています。
行動指標
行動指標とは、消費者が商品や広告などの刺激に対して示す心身の反応を、行動データとして捉える指標です。例えば、広告を見てから視線を移動させる速度や、商品に手を伸ばすまでの時間などが該当します。
これらのデータは、視線の動きや動作のタイミングといった要素を数値化することで、消費者がどこに関心を持ち、どのように意思決定をしているのかを可視化します。無意識下での判断や興味の度合いを分析する上で、重要な手がかりとなるのが行動指標です。
主観指標
主観指標とは、アンケートやインタビューといった従来のマーケティング手法を、ニューロマーケティングと組み合わせて精度を高めたものです。消費者の意見や感想を言語で引き出す点は変わりませんが、生理指標や行動指標と併用することで、その回答の裏にある本音や無意識の反応とのギャップを確認できます。

ニューロマーケティングの調査方法
ニューロマーケティングでは、消費者の無意識の反応を測定するために、さまざまな調査手法が用いられます。ここでは代表的な3つの方法として、アイトラッキング、表情認識、脳活動測定について紹介します。
アイトラッキング
アイトラッキングは、視線の動きを追跡し、分析する調査手法です。広告やWebサイト、商品パッケージなどを見た際に、消費者がどこを注視し、どの順番で視線を移動させたのかといった情報を数値化できます。
アイトラッキングによって、関心を引いた要素や無意識にスルーされた箇所が明らかになり、デザインや配置の改善に役立てることが可能です。眼球の動きは自覚しにくいため、言葉では見落とされがちな反応を可視化できる点が、アイトラッキングの大きな強みでしょう。
表情認識
表情認識は、顔の筋肉の動きをもとに感情の変化を分析する調査手法です。視線の動きや口元、眉、頬などの細かな動きをカメラで捉え、喜び・驚き・嫌悪といった感情の発現を数値化します。言葉では表現されない微細な感情の揺れを、客観的に把握できる点が特徴です。
広告や映像コンテンツに対する第一印象や印象の変化をリアルタイムで測定できるため、視覚的訴求の効果検証において有効なアプローチといえるでしょう。
脳活動測定(fMRI)
脳活動測定は、MRI技術を利用して脳内の血液循環量を計測し、どの部位が活性化しているかを可視化する調査手法です。脳が刺激を受けると、その部分の血流が増加するため、感情や判断、注意などの働きと関連する領域を特定できます。
商品や広告に対する消費者の本音を脳活動の変化から読み解けば、マーケティング施策の精度をさらに高めることができるでしょう。

ニューロマーケティングのメリット・デメリット
ニューロマーケティングは、従来の手法では捉えにくかった消費者の本音を把握できる手段として注目されています。一方で、導入にあたっては慎重な検討も必要です。ここでは、メリットとデメリットを確認しておきましょう。
メリット
ニューロマーケティングの最大のメリットは、消費者が自覚していない、言葉にできない心理や感情の動きを捉えられる点にあります。脳波や心拍数などの生体データをもとに、感情の変化を数値化できるため、従来のアンケートでは得られなかったインサイトの発見が可能です。
また、定量データは、広告やパッケージデザインの評価に活用でき、視覚的な訴求力や購買意欲への影響を具体的に測定できる点も大きなメリットといえるでしょう。
デメリット
ニューロマーケティングの導入には、専門的な設備や人材が不可欠です。脳波計や視線計測装置などの測定機器を設置する環境に加え、それらを正確に操作、解析できるスキルを持つ人材、さらに脳科学や心理学に関する知識を備えたスタッフを確保しなければなりません。
また、収集される生理データや行動データは、非常にセンシティブな個人情報であるため、取り扱いには慎重な配慮が求められます。倫理面での課題も見過ごせず、研究目的や同意の取り方によっては、批判を招く可能性もあるでしょう。
このような観点から、実施には、一定のコストと体制整備が必要になる点がデメリットといえます。
ニューロマーケティングの活用事例
ニューロマーケティングは、すでに多くの企業で実践されており、商品開発や広告戦略などに活用されています。ここでは、実際に行われた代表的な事例を3つ取り上げ、具体的な活用方法と成果を紹介します。
事例1|赤ちゃん向けのおもちゃ開発
株式会社バンダイのほか、東北大学と日立ハイテクのジョイントベンチャーである株式会社NeUが協力して、赤ちゃん向け知育玩具「BabyLabo®(ベビラボ)」の新商品「脳科学メロディ」シリーズが開発されました。
開発の取り組みでは、音楽が赤ちゃんの感情や反応に与える影響を科学的に分析しています。音を聞いた際の赤ちゃんの心拍数や表情の変化を計測し、リラックスや興味といった感情の動きをデータとして取得しているのです。こうしたニューロマーケティングの手法により、赤ちゃんが落ち着き、かつ機嫌が良くなるメロディの設計が実現しています。
事例2|消臭芳香剤のニオイ研究
アース製薬株式会社とSOOTH株式会社は、消臭芳香剤が室内環境に与える心理的影響について、共同で検証を行いました。実験では、消臭芳香剤を使用した空間と未使用の空間における被験者の気分の安定度を脳波測定・解析により評価しています。
検証結果として、芳香剤を使った部屋のほうが、気分の安定度が平均して21%高くなるという効果が確認されました。この研究は、香りが人の感情に与える影響を、定量的かつ客観的に明らかにした例として注目されています。ニューロマーケティングを用いることで、商品による心理的効果を科学的に証明した良い例です。
事例3|褒められることによる感性変動分析
オタフクソースは、慶應義塾大学と共同で「お好み焼きづくり体験における褒め言葉の効果」に関する研究を実施しました(※オタフクソース調べ)。対象となったのは10〜12歳の小学生で、親からの褒め言葉が子どもの感性にどのような影響を与えるのかを、脳波計測を用いて分析しています。
褒められた子どもは、そうでない場合と比べてポジティブな脳反応を示す傾向が確認されました。調理後の親子の関係についても、褒めありのケースではより良好になっています。
まとめ
ニューロマーケティングは、消費者の無意識下の感情や行動を可視化し、より精度の高い商品開発や広告戦略を可能にする手法です。導入には設備や知見が求められますが、その分、大きな効果が期待できます。自社のマーケティング課題に応じて、導入を検討してみてはいかがでしょうか。