海外市場参入におけるデータ活用の重要性:市場規模推計と産業調査
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株式会社gr.a.m
坂井 聡佑
一橋大学卒業後、株式会社クロス・マーケティングに入社。主に大手自動車メーカーや情報システム会社を中心に国内外問わずリサーチ業務を担当。のちにデロイトトーマツ コンサルティング合同会社に入社。インフラ系企業やアパレルメーカーを中心に、BPR・財務領域のコンサルティング業に従事。リサーチ、コンサル業界で経験を積み、gr.a.m参画。
gr.a.mではリサーチ事業部の責任者として国内外多数のプロジェクトを実施。
企業規模で変わる市場規模推計の目的
上場企業の場合、経営陣や株主に対し、海外進出国を選定した理由をロジカルかつ正確に説明する必要があるため、市場規模調査を厳密に行う必要があります。その場合、自社内で市場規模調査を完結するのが難しくなることも多々あり、外部の調査会社を活用する必要性が生じます。一方、中小企業の場合は、厳密な市場規模推計以上に、実際に現地を視察しターゲットとなる顧客層の規模感を把握することも重要です。しかし、中小企業の場合も市場規模推計は最低限行う必要があり、本コラムではリソースの限られた環境下で自社内でも完結できる市場規模推計の基本的な考え方をお伝えします。(市場規模データについてはデスクリサーチで取得できるケースが増えておりますが、その信頼性や実効性を高めるためにも、自らの手で市場規模推計ができると有効です。)
フェルミ推定とは
市場規模推計を行う上でフェルミ推定という考え方が有効です。フェルミ推定とは、一見予想もつかないような数値を、論理的なプロセスに基づき概算する思考法です。
フェルミ推定の有名な例としては「アメリカのシカゴには何人のピアノの調律師がいるか?」「日本にある電柱の数は何本か?」などがあり、コンサルティングファームの面接で採用されているメソッドとしても知られています。
市場規模推計において、詳細な数値の算出は必須ではありませんが、市場規模推計に必要となる基本的な考え方はフェルミ推定と共通しています。
市場規模推計における2つのアプローチ
フェルミ推定を活用して、市場規模推計をする際には、以下の2つのアプローチがメインとなります。
1.供給側からのアプローチ
単純なケースの例として、自動車業界の上位3社で全体のおよそ6割をカバーしているという情報がある場合、以下の計算式で市場規模を算出できます。
市場規模=上位3社の売上合計÷市場カバー率0.6(60%)
これは非常に単純なケースですが、商品やサービスを供給している側から市場規模を推計する、基本的な算出方法の1つです。
2.需要側からのアプローチ
同じ自動車業界の例として、消費者を地域セグメント(都市部、都市近郊、地方など)に分類し、以下の算出式にそれぞれの数値を代入することで、各セグメントの市場規模推定値を得ることができます。
各セグメント別市場規模=地域セグメント別世帯数×世帯別自動車保有率×自動車購入平均金額
法人用自動車市場を別で考慮する必要があるなど注意点はありますが、需要者側からも市場規模を算出可能です。
産業調査の重要性
産業調査を行う主な目的は、海外現地で事業を行うための販売チャネル(流通経路)の構築です。
日本で長く事業を行っている企業の場合、取引実績のある老舗の卸売業がおり、卸に質の高い商品を供給し続ければ、安定的な売上が見込めるという状態である企業も多いと思います。一方で海外市場に新しく進出する際には、一からチャネルを作らなければなりません。
例えるならば、日本市場では既に構築されている水路に上質な水を流すだけで十分であるとされる一方、海外市場ではそもそも水を流すための堀をゼロから造らなければならないのです。堀を造る際にも、その土地独特の地形や地質を理解しなければならないのと同じで、チャネルを作るうえでも、その土地特有の産業構造を理解しなければならないのです。
産業構造の正確な把握こそ、適切な営業先の選定に不可欠
過去にご支援したお客様との対話の中で、印象的であった事例を紹介します。ある業界のメーカー様で自社商品を東南アジアに展開することを企画された際、当初、売上を早期に上げることを最優先し、事前リサーチを十分に行わなかったといいます。結果的に販売成績は振るわず、費やした時間に対する効率も非常に低い状況でした。
そこで、産業構造調査の支援をご提供させて頂きました。調査の結果、過去に営業していた企業は産業構造から見てキーマンとは言えず、本来営業すべきであった企業群に対するアプローチがおろそかになっていたことが判明しました。調査後にアプローチ策を是正したところ、成果が上がり始めたとご報告を受けました。産業調査は適切な営業先を開拓し、キーパーソンを見極める上でもマストで必要な調査です。
まとめ
海外進出においては、感覚や経験だけで判断せず、データと構造をもとに戦略を組み立てることが成功の鍵となります。市場規模推計では、フェルミ推定の考え方を活用し、自社で蓋然性のある数字を導き出す力が求められます。
また、現地での事業展開にはチャネル構築が不可欠であり、その前提として産業構造の理解が重要です。産業調査を通じて営業の優先順位やキーパーソンを見極めることは、限られた経営資源を正しく投入するための指針となります。論理的な市場分析と現地構造への深い理解が、海外市場での成果に直結するといえるでしょう。
<会社概要>
株式会社gr.a.m
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03-6859-2252
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