海外進出の成否を分ける「市場選定」——意思決定につながる評価フレームの作り方
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株式会社クロス・マーケティング
コンサルティング本部 シニアコンサルタント
堀 好伸
生活者のインサイトを得るための共創コミュニティのデザイン・運営を主たる領域とする生活者と企業を結ぶファシリテーターとして活動。
生活者からのインサイトを活用したアイディエーションを行い様々な企業の戦略マーケティング業務に携わる。
「若者」や「シミュレーション消費」を主なテーマに社内外でセミナー講演の他、TV、新聞などメディアでも解説する。
著書に「若者はなぜモノを買わないのか」(青春出版社)、最近のメディア出演「首都圏情報 ネタドリ!」(NNK総合)、「プロのプロセスーアンケートの作り方」(Eテレ:https://www.nhk.or.jp/school/sougou/active10_process)
国内市場の縮小や急激な為替変動を背景に、海外へ活路を求める日本企業が増加しており、日本企業の海外拠点数は約2万4,000拠点(うち約68%がアジア)に達しています(JETRO・JBIC等の統計より)。しかし、「どの国・地域から優先的に進出・展開すべきか」という市場選定の段階で検討がストップしてしまうケースは少なくありません。
これまではGDPや人口動態といったマクロデータを集め、「市場が大きいから進出する」という手法が多く見られました。しかし、「市場規模が大きい=自社が勝てる」とは限りません。今求められているのは、外部環境のみに頼る「マーケット志向」から、自社の勝ち筋を起点とする「戦略志向」への転換です。
本コラムでは、市場調査を「調べて終わり」にせず、社内の意思決定に直結させるための2段階評価フレームワークを解説します。

1. なぜ市場選定でつまずくのか?「2つの壁」の正体
海外進出の検討において企業が突き当たる原因は、大きく2つの壁に集約されます。
① 情報収集の壁
国内事業とは異なり、把握すべき情報が膨大かつ多岐にわたるため、「自社にとって何を優先して調べるべきか」を絞り込めない。
② 論理的説明の壁
ポテンシャルを測る統一フレームやノウハウが社内にないため、経営層や関係者の合意を得られる根拠を組み立てられない。

市場選定に迷った際、多くの企業が「まずは現地の実態調査をしよう」と考えがちです。しかし、明確な判断基準(物差し)がないまま調査を行うと、分厚いレポートを前に「で、どこに出るのか」が決まらず、追加調査を繰り返す泥沼に陥ります。
問題の本質は情報の量ではなく、「何を基準に、どう判断するか」という決め方が事前に決まっていないことにあります。「調べる前に、決め方を決める」これが市場選定を成功させる出発点です。
2. 評価フレームの全体像:「入れない市場」を外し、「勝てる市場」を比べる
意思決定をスムーズに進めるため、評価は2つのステップに分けて実施します。
- ノックアウト判定:法規制など、進出そのものを阻む条件をゲートとして設定し、1項目でも抵触した市場は候補から除外します。
- 2軸スコアリング:ゲートを通過した市場のみを「市場・機会魅力度」と「自社適合度・実現性」の2軸で数値化し、比較・優先順位付けを行います。

あらかじめ「入れない市場」を排除してから「勝てる市場」を比較するため、無駄な調査コストを抑えられます。また、評価理由が数値と項目で残るため、経営層に対して「なぜこの国なのか」を透明性をもって説明可能になります。
2-1. ステップ1:ノックアウト判定で「入れない市場」を先に外す
どれほど魅力的な市場であっても、法規制や許認可の壁をクリアできなければ事業は立ち上がりません。初期のデスクリサーチ段階で、以下の6つのゲート項目を確認します。
| ゲート項目 | 確認すること |
| 1. 外資規制 | 外資出資比率に上限はないか、想定する出資形態(子会社・JV等)が可能か |
| 2. 事業ライセンス・許認可 | 該当事業の販売・製造・サービス提供に必要な許認可を取得できるか |
| 3. 最低資本金要件 | 現地法人設立に必要な資本金を準備・拠出できるか |
| 4. 送金・為替規制 | 現地で得た利益や対価を日本へ円滑に送金・回収できるか |
| 5. 知的財産保護 | 自社の技術・特許・ブランド・商標が現地法制度で守られるか |
| 6. データローカライゼーション規制 | 顧客データや業務データの国外移転・保管場所に厳しい制限はないか |
1項目でも抵触すれば、その参入形態では「対象外」とし、すべてクリアした市場だけを次のスコアリングに進めます。参入形態を変えれば通過する場合もあるため、次の注意点とあわせて判定します。
判定時の注意点
・進出形態によって判定が変わる
100%自己資本の子会社、合弁会社(JV)、現地企業への少数出資、代理店提携など、想定する参入形態をあらかじめ定義した上で判定を行う必要があります。
・条文だけでは判別できない「グレーゾーン」への対処
例えば、ある事業でASEANの規制を比較した際、タイでは100%外資で事業を行う先行例がある一方、合弁(JV)は承認が下りにくい状況でした。ベトナムでは外資の参入を禁じる明文はないものの、許可の条件が曖昧な表現にとどまっていました。このように、法文上は制限がなくても運用上の不確実性が残るケースは少なくありません。これらはデスクリサーチで論点を抽出した上で、現地の行政機関や関係者へのヒアリングで確かめることが不可欠です。

2-2. ステップ2:「市場・機会魅力度」×「自社適合度・実現性」でスコアリングする
ゲートを通過した市場に対しては、「市場としての魅力」と「自社における勝ち目」を分離して評価します。
| 評価軸 | 代表的な指標 | 重視する参入タイプ |
| 市場・機会魅力度 | TAM / SAM / SOM、CAGR(成長率)、競合集中度・参入障壁、客単価・LTV/CAC比、流通チャネル構造など | 市場開拓型(サービス・EC・ブランド展開など) |
| 自社適合度・実現性 | 既存アセットとの重複、投資回収期間、立ち上げスピード、オペレーションの再現性(マニュアル化度)など | 資本集約型(製造・工場建設など) |
両軸の重みは参入形態で変えます。サービス・EC・ブランド展開のように市場を開拓するなら魅力度を、工場建設など大きな投資を伴うなら実現性を、より重く見ます。

スコアリングを成功させる3つのポイント
① 市場規模は「大きさ」より「勝負できるか」
市場全体(TAM)の大きさだけで判断せず、自社のターゲット範囲(SAM)や短期的に獲得可能な規模(SOM)まで分解して見極めます。
② 厳密な試算より「相対比較」
候補国を同じ物差しで評価することが目的であり、統計データに現れない現地のリアルは有識者ヒアリングで補完します。
③ 競合は「数」だけでなく「出自」を見る
特に新興国では、政府系企業や現地財閥系企業が許認可や資金面で強力な優位性を持つため、競合の資本構成も参入障壁の評価に含めます。
その他、事業特性に応じてCAGE距離(制度・文化的乖離)、カントリーリスク、為替感応度(±10〜20%の変動想定)、撤退時の法的制約(清算・解雇規制)なども評価指標に追加します。
評価イメージ(ASEAN・南アジア6カ国比較の例)
実際の評価では、2軸の考え方に沿って事業ごとに評価項目を設け、各項目を採点したうえで重みをかけて総合点を出します。以下は、ある事業で5つの評価項目を設け、それぞれ5点満点で採点して加重平均を算出した評価例です。
| 順位 | 国 | 市場規模・ 成長性 | 消費者 親和性 | 競合・ 流通チャネル | 規制・ 外資環境 | BOP親和性・ パートナー | 加重 平均 |
| 1 | インド | 4.2 | 4.0 | 3.5 | 3.8 | 4.7 | 4.12 |
| 2 | ベトナム | 3.4 | 3.7 | 3.6 | 3.5 | 3.4 | 3.50 |
| 3 | フィリピン | 3.2 | 3.0 | 3.4 | 3.3 | 3.0 | 3.16 |
| 4 | タイ | 3.1 | 3.2 | 3.5 | 3.0 | 2.6 | 3.04 |
| 5 | マレーシア | 2.9 | 2.8 | 3.3 | 2.7 | 2.2 | 2.73 |
| 6 | シンガポール | 2.2 | 2.6 | 3.1 | 2.4 | 1.8 | 2.35 |
※BOP(低所得層)市場への親和性を重視したこの事業例では、同項目が4.7と最も高いインドが最優先進出先となり、1.8にとどまったシンガポールは最下位となりました。「どの国が有望か」の答えは、自社の事業モデルや戦略によって大きく変化します。
※数値は評価の進め方を示すための例示です。

3. 指標は「自社の事業・参入形態・商流」に合わせてカスタムする
一般的な市場レポートを集めても自社の意思決定につながらないのは、「自社特有の条件」が評価指標に反映されていないからです。
例えば、現地ディストリビューターを活用する代理店モデルで参入する場合、市場評価には「組める有力な販売パートナーが存在するかどうか」が重要な指標となります。一方、自社拠点を構えるなら「現地で人材を採用・育成できるか」が重要になります。また業界によっては、成分規制や認証取得にかかる期間・プロセスも、参入の可否やスピードを左右する指標になります。(実際に、ある食品メーカーが東南アジア展開を図った際、パートナー適合度を重視してタイの有力企業と提携したことが、海外事業全体の大きな成長につながった事例もあります。)

評価指標の設計は、以下の2つのディスカッションを通して進めます。
・自社における評価基準の考察
国内事業のコアバリュー、経営資源、オペレーション構造を整理し、「どのような環境・条件が揃えば自社は勝てるか」という仮説を立てる。
・評価フレームワークの構築
ノックアウト要素を定義し、参入形態や商流に合わせて各軸の評価項目とウェイト(重み付け)を設計する。

あらかじめ判断基準を組み上げた「カスタム評価フレーム」に基づいて調査を進めることで、アウトプットは単なる「現状把握」で終わらず、「進出先の優先順位」という具体的な結論に結びつきます。
4. まとめ:「調べる」前に「決め方」を決める
市場選定を迅速かつ論理的な意思決定につなげる要点は、次の3つです。
- 情報を集める前に評価基準(フレーム)を設計する
- ノックアウト判定で参入不可能な市場を排除する
- 2軸スコアリングで自社が勝てる市場を比較・優先順位付けする
このプロセスを踏むことで、社内や経営層に対する説明責任を果たせるだけでなく、進出後も環境変化に応じて自社で評価を見直せる戦略の基盤になります。
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海外進出構想を実行計画へと落とし込む市場性・事業性評価プログラム「Global Gateway」では、貴社主導で意思決定を行うためのカスタム評価フレームの構築から、現地リサーチ・収益シミュレーションまでを「Do it with you(伴走型)」で支援しています。
- 1. 評価フレーム構築:貴社事業・想定エリアに特化した「カスタム評価フレーム」を設計。
- 2. リサーチ実施・検証:競合・規制・顧客構造に踏み込んだ「市場性評価レポート」を策定し、優先順位を確定。
- 3. ビジネスポテンシャル可視化:内部データを統合し、収益性を試算した「事業性評価レポート」へ集約。

現地の法規制やサプライチェーンの精査はグループ会社のgr.a.m社が、事業計画・財務モデル構築はPDOLE社の「Globalize AI」が連携し、世界85カ国以上での調査実績を背景に構想から計画まで一貫支援します。
